【関灘 茂】A.T.カーニー史上最年少代表の凄まじい成長の加速度

2020/4/5
今年1月に米系経営コンサルティング会社A.T. カーニーの日本法人代表に就任した関灘茂氏。神戸大学経営学部卒業後、A.T. カーニーに新卒で入社し、同社史上最年少の32歳でパートナーに、同じく史上最年少の38歳で代表に就任した。新卒入社の日本代表も初めてだ。

エリートコースまっしぐらと思いきや、新人時代は決してできるコンサルタントではなかったという。才能あふれる同僚に囲まれながら、どんな努力や工夫を重ね、頭角を現し日本法人代表まで上り詰めたのか。

阪神・淡路大震災での被災、コンサルタントという職業との出合い、A.T. カーニーで受けた強烈な洗礼のほか、今後の戦略など、関灘氏のこれまでの人生を振り返りつつ、仕事の哲学を探る。(全7回)

38歳、最年少で日本代表に就任

初めまして。A.T. カーニー(グローバルブランド名はKEARNEY)の関灘茂です。率直に申し上げると、現在の私には仕事人としての哲学を語れるほどのヒストリーはありません。
人生100年時代、これからの人生で気づき、学ぶことのほうが多いに違いなく、その結果として何らかの哲学を持ち、磨くことができればと思っています。
そのような私ではありますが、2020年1月1日付で、A.T. カーニーの日本代表に就任することになりました。前任者である岸田(雅裕)の2期6年が終わり、バトンを受け取ることになりました。
関灘 茂(せきなだ・しげる)/A.T. カーニー マネージングディレクター ジャパン(日本代表)、パートナー

1981年神戸市生まれ。2003年に神戸大学経営学部卒業後、A.T.カーニー入社。2014年に同社最年少の32歳でパートナーに就任。2020年1月から現職。INSEAD(欧州経営大学院)MAP修了。消費財・小売りを中心に、自動車、金融、製薬、エンターテインメントなどの分野のクライアント企業とともに、グローバル戦略、マーケティング戦略、M&A戦略、組織設計、企業再生などのプロジェクトを手掛ける。経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」委員、グロービス経営大学院専任教授、 K.I.T.虎ノ門大学院客員教授、大学院大学至善館特任准教授、特定非営利活動法人ISLファカルティも務める。
私の任期は3年の予定です。A.T. カーニーの新卒入社で、弊社史上最年少の38歳での代表就任という珍しさからか、取材の機会をいただくようになりました。これらの機会に、あらためて過去を振り返り、さまざまな師に恵まれたことを再認識しています。
私は、A.T. カーニーの日本代表に選ばれるとは全く思っていませんでした。A.T. カーニーのパートナー(共同経営者)に32歳で就任し、ちょうど6年になる時期でしたが、より経験豊富な50歳前後のパートナーが多数在籍していました。私自身、より経験豊富なパートナーが日本代表に就任すべきと考えていました。
また、弊社内のほぼ全ての従業員も、私が代表になるとは思っていなかったと思います。実際に、弊社内のあるマネージャーは「さすがに想定していなかった」と言っていました。

同期の学習能力の高さに衝撃

入社当時の私は、決して「できる社員」ではありませんでした。入社1年目の終わり頃、フィードバックの場で、私のメンターであったプリンシパルという役職のコンサルタントから「関灘さんの強みは基本的にないね。まあ、体力ぐらいかな」と真顔で言われたことは鮮明に記憶に残っています。
今では組織上の正式なメンターはいませんが、今でもこの方は非公式なメンターです。そのメンターからの「常に2つ上のポジションのコンサルタントの仕事をせよ。本気で代わりをやるつもりで」といった入社当時のフィードバックは、プロフェッショナルとしての基本的な心構えとなっています。
2003年4月に、A.T. カーニーに新卒で入社したコンサルタントは、私を含め9人でした。入社直後から1カ月間はトレーニング期間です。名刺交換の仕方から、思考法、定量分析手法、資料作成方法、会計・財務知識まで多岐にわたります。
この期間中に驚いたのは、同期の学習能力の高さです。特に、驚いたのは会計・財務のトレーニングです。私は経営学部出身なので、大学時代をかけて会計・財務を学んでいました。
一方、同期の多くは理学部・工学部・心理学部などの出身で、おそらく会計・財務に触れるのは初めてであったはずです。にもかかわらず、同期の皆が5日間で貸方・借方の理解から、5日目にはEVA(経済的付加価値)の理解・計算までできている。
「すごいな。こんなに頭がいい人たちがいるのか」。まずそれが最初の衝撃でした。

作成した資料に「意味がない」

その後、4月後半に「リサーチトレーニング」という5日間のプログラムがありました。一人一人にテーマが与えられ、リサーチをして、プレゼンテーション資料にまとめて、プリンシパルに報告するというものでした。
私が担当した仮想テーマは、「会社機能の内外製の考え方、アウトソーシングの成功のカギの考察」。会社機能の棚卸し、アウトソーシングやシェアードサービスなどの定義、成功・失敗事例の考察、成功のカギの明確化に取り組みました。5日目には、プレゼンテーション資料に取りまとめて、プリンシパルの部屋まで行き、説明しました。
ちなみに、A.T. カーニーのコンサルタントには共同経営者であるパートナー、プリンシパル、マネージャー、アソシエイト、シニアビジネスアナリスト、ビジネスアナリストという役職があります。
金融プラクティス(金融業界を専門とするグループ)に所属するプリンシパルは、私が渡した10ページほどの資料をめくりながら、「うーん、意味がないね。これも、これも意味がないね。これは少しだけ意味があるかもしれないが、ほかは意味がないね」と言い放ちました。作成した資料ほぼ全てを「意味がない」と判断され、横にやられた。褒めるところがなかったのでしょう。
「クライアントの皆さんにご請求するフィーに見合う付加価値がないね」とフィードバックされました。「ご請求するフィーに見合う付加価値とは? 何が付加価値と言えるのか?」を強く意識する機会になりました。

日本語を理解するのも一苦労

入社2カ月目からは、クライアントへの提案チームに参加します。「非接触ICのポテンシャル評価」「自動車業界のサプライチェーンの高度化」「都市・地域金融機関の将来見通し」「物流市場の需要予測モデルの高度化」など多様な業界・テーマの提案チームに約1週間ずつ参加しました。
業界の理解、テーマの理解、付加価値の出しどころの理解、リサーチの設計・実施、アウトプットの作成、チームへの貢献を1週間で行うスピード感には圧倒されました。
「論点とは? 筋の良い論点とは? 筋の良い仮説とは? 仕事の生産性を高めるためには?」と克服しなければならないことが爆発的に増え、危機感を感じるようになりました。
金融プラクティスのパートナーとマネージャーとの初めての社内会議(インターナル)では、呪文を聞いているようでした。
「ボフの動向を踏まえて…○○のボラティリティが気になるから…ということで明日までによろしく」と高速の会話。入社2カ月目の金融業界のことを全く考えたことがない私の頭の中は、「ボフ? ○○のボラティリティ?」。
A.T. カーニーのインターナルで使われている言語をタイムリーに理解するのにも一苦労でした。
新卒入社で金融プラクティスに所属するマネージャーの先輩からは、「関灘君は日本語から勉強したほうがいいね」と、齋藤孝さんの『声に出して読みたい日本語』を薦められたこともありました。「母国語であるはずの日本語も仕事に使える水準では習得できていなかったのか…」と痛感しました。
行動を変えるしかないと決意し、仕事からの帰宅後や週末のほぼ全てを学びの時間にすることにしました。1人で取り組むことが多かったのですが、週末に同期などと共に、基礎能力を高め、生産性を高めるための工夫を試行錯誤したことは良い思い出です。

「ここは学校じゃないからね」