【樺沢紫苑】集中力が続かない原因はマルチタスクの“脳疲れ”

2020/3/19
就業時間が厳しく制限され始め、仕事に「効率」と「集中力」が求められている今。多くのビジネスパーソンがマルチタスクにさらされているが、マルチタスクによって集中力が下がり、ケアレスミスが増加しがちだという事実は意外に知られていない。

「ビジネスパーソンの脳は、マルチタスクで疲弊している」と、50万部超のベストセラーとなった『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)を著書に持つ精神科医、樺沢紫苑氏は語る。

近年の脳科学によって明らかになった研究成果に基づき、成果を上げるための「脳の最適化」に必要な情報をお届けする。
1965年生まれ、札幌医科大学医学部卒。2004年からシカゴのイリノイ大学に3年間留学。帰国後、株式会社樺沢心理学研究所を設立。Facebook、YouTube、メルマガなどで、累計50万人に精神医学や脳科学、心理学の知識をわかりやすく伝えている。『読んだら忘れない読書術』(サンマーク出版)、『神・時間術』(大和書房)、『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)など、ベストセラー多数。

マルチタスクは脳を疲れさせ、「ミス」や「ど忘れ」の原因に

「タスクは山積みなのに、集中力が続かない」「やる気が湧かず、うっかりミスも増えた」
最近、第一線のビジネスパーソンから、こんな相談を受けることが増えました。その原因は、「マルチタスクによる脳の疲れ」にあると私は見ています。
マルチタスクとは、「同時に複数の処理をする」こと。一見、マルチタスクは効率がよさそうに思えます。しかし、実は脳にストレスを与え、集中力の低下や物忘れにつながっているのです。
そんな中、「気力やスキルを上げれば、効率よく仕事ができるはず」と考える人は少なくありません。多くの人が、新たなメソッドを学んだり、本を読んだりして「効率化」を図ろうと努力します。
残念ながら、脳科学の見地から言えば、努力で問題は解決しません。なぜなら、脳のしくみ自体がマルチタスクに向いていないからです。
脳が「お疲れモード」になっているのですから、仕事の精度も速度も上がるわけがない。言い換えれば、ミスを頻発したり、やるべきことにすぐに取りかかれなかったりするのは、本人の気力や能力のせいではなく、「脳の疲労」のせいなのです。
(写真:PeopleImages/iStock)

脳を「最適化」すれば、アウトプットの質が上がる

人間の脳はマルチタスクができないと証明された最近の脳科学研究のデータを、いくつか紹介しましょう。
ロンドン大学の研究によると、マルチタスクによってIQが15ポイントも低下(徹夜明けと同程度)することがわかっています。
ミシガン大学の研究では、マルチタスクをする人たちは、タスクをひとつずつこなすグループよりも40%も生産性が下がり、ミスの発生率も増加する可能性が高いという研究結果を発表しています。
脳科学のデータから見ても、日々のタスクに追われるビジネスパーソンが、集中力や注意力が落ちたと感じるのは当然のことなのです。
実は、私自身、脳の情報処理に関わるメカニズムを知るまでは、かなり非効率的な仕事の仕方をしていました。
しかし、数千人の患者さんを診察し、脳科学の研究を重ねる中で、脳を「最適化」して、最大のパフォーマンスを引き出す仕事術にたどり着くことができました。
そのおかげで、英語の論文作成や執筆のスピードが上がっただけでなく、インプットやアウトプットの質が向上し、ベストセラーを連発することができたのです。
だからといって、がむしゃらに働いているわけではありません。いくつかのポイントを押さえて脳を疲れさせることなく仕事し、大好きな映画や街歩きも楽しんでいます。

記憶を保持する脳のフォルダーは「3つ」しかない

では、そのポイントとは何か。まず押さえたいのは、「人間の脳のフォルダー(ワーキングメモリ)は、3つしかない」ということです。
ミズーリ大学の心理学教授ネルソン・コーワン氏は、ワーキングメモリのキャパシティとして「4±1」を提唱しました。人によって個人差があるため、誰でも使えるという意味では「3」と考えておくといいでしょう。
ワーキングメモリとは、脳内で一時的に記憶を保存するスペース。いわば「脳の作業領域」です。
指示の遂行を例に取るなら、ほとんどの人の脳は、3件の指示をこなすのが精一杯で、4件の指示が同時に来ると混乱してしまうしくみになっているのです。
そんな脳が、複数の課題、案件を同時に行おうとすると、ワーキングメモリのキャパオーバーを起こし、仕事効率は低下し、当然、作業は停滞します。
仕事の遅れをカバーしようとして長時間働いてしまうと、脳に疲労が蓄積して、ワーキングメモリはさらに低下。仕事の精度や作業効率も加速度的に落ちていきます。
また、マルチタスクを日常的に行うと、ストレスホルモン(コルチゾール)が分泌され、記憶を司る海馬を傷害し、記憶力が著しく低下。
その結果、「ど忘れ」や「うっかりミス」が頻発します。おどすわけではありませんが、時には、うつの原因になる場合すらあるのです。

脳を最適化し、パフォーマンスを上げる脳内物質とは

脳を最適化するために、次に注目すべきポイントは、脳内物質「セロトニン」「オキシトシン」「ドーパミン」のバランスをとることです。
これらの脳内物質が整うと、脳の疲れは回復し、脳のパフォーマンスは最大化し、集中力や記憶力も高まります。私は、脳を活性化する「三大脳内物質」と位置づけています。
セロトニンは、メンタルの健康に欠かせない「癒やしホルモン」で、感情をコントロールします。セロトニンが低下すると気分が落ち込んだり、イライラしたり、キレやすくなったりするので、注意が必要です。
オキシトシンは、「つながりのホルモン」とも呼ばれ、家族やパートナー、友人、ペットなどとのコミュニケーション、スキンシップによって分泌されます。他者と信頼関係を築き、不安や緊張を和らげます。
ドーパミンは、幸福感や快感を司り、「幸福ホルモン」とも呼ばれています。ドーパミンが分泌されることにより意欲が湧き、高い目標達成が可能になって、人は成功していくのです。
メンタルが強くなり(セロトニン)、他者との円満な人間関係を結んで(オキシトシン)、仕事にも意欲的に取り組めれば(ドーパミン)、脳は最適化されていると言えます。
仕事の生産性を上げたいなら、まず、この3つの脳内物質をうまく使いこなすことが重要です。
これらの脳内物質は、5〜10分程度の短時間でも分泌が変化します。つまり、人間の行動や環境次第で、意識的に分泌量を上げられるということです。
特に、「脳の指揮者」と呼ばれるセロトニンの分泌は重要です。
セロトニンが十分に分泌されれば、それに連動してドーパミンや、集中力・注意力に関連した脳内物質であるノルアドレナリンの分泌も適切に調整されます。
脳内のセロトニン量が高まれば、坐禅中の僧侶のようにクリアな精神状態になり、感情も安定し、集中力が高まります。

脳の最適化には、「運動、睡眠、散歩」

では、これらの脳内物質のバランスを取り、使いこなすためにはどうすればいいか。
まず、体が整っていなければなりません。体調を整え、脳内物質の分泌を整える方法が、「運動、睡眠、散歩」です。具体的に言うと、「週150分以上の運動、7時間以上の睡眠、朝15分の散歩」を、私は推奨しています。
とはいえ、仕事に追われる毎日では、いずれも難しいかもしれません。私の提案は目標だと捉えてください。
平成30年「国民健康・栄養調査」によると、運動習慣のない人の割合は、男性68.2%、女性74.5%。日本人の3人に2人は運動不足です(「運動習慣のある者」とは、1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者と定義)。
また、平均睡眠時間は、30代男性、40代男女の約45%の人が6時間以下の睡眠しか取れていないとも報告されています。
ちなみに、ペンシルバニア大学とワシントン州立大学の研究によれば、6時間睡眠が2週間続くと、脳のパフォーマンスが徹夜明けと同じレベルになるそうです。日本人の働き盛りのビジネスマンの半数近くが、徹夜明けと同程度の低いパフォーマンスで毎日仕事をしているのです。
最低限の運動と睡眠が取れているビジネスパーソンは、おそらく15%以下。極めて少ないと言えます。
一方、ほんの30分の有酸素運動を1回するだけでも、その直後に集中力が増すことが早稲田大学の研究で報告されています。また、筑波大学の研究では10分ほどのウォーキングで、記憶を司る海馬の活発化が確認されました。
ごく短時間の散歩でも、脳のパフォーマンスを高めることは可能です。
これらの情報を意識し、生活習慣を見直すことから始めるだけでも、疲れた脳の機能は確実に変化し始めるはずです。

今こそ見直すべき、水辺のリラックス効果

先ほど挙げた「運動、睡眠、散歩」の3つの中で、もっとも簡単に始められる行動が「散歩」でしょう。
忙しいビジネスパーソンが、朝散歩するのは現実的ではないかもしれませんが、通勤時間を利用して朝日を浴びながら15分歩くだけでも、セロトニンは分泌されます。
さらに、千葉大学の研究では、森の中を散策するだけでストレスホルモンが16%減少し、血圧や心拍数も下がることが判明しています。通勤時に歩けば、ストレスを解消しながら効率よく働ける効果が期待できるのです。
「田舎ならともかく、都会を歩くだけでは効果はないのでは?」という心配は無用です。
フィンランドの国立健康・栄養研究所の調査によると、「オフィスワーカーが町中の公園を歩いただけでも、森林公園に近いリラクゼーション効果が得られた」という結果が出ているのです。
都市部のビジネスパーソンに散歩で訪れてほしいスポットが、「水辺」です。水辺には、人の心を癒やすリラックス効果があります。特に、浜離宮恩賜庭園の緑と東京湾を一望できる「竹芝」は、都心にありながら、ベストな環境が整っています。
間近に見える浜離宮恩賜庭園の森に癒やされながら、水面の揺らめきを眺める。潮風を感じながら、目の前に開ける眺望を楽しむ──。
そんな時間を過ごすことによって五感が刺激され、日頃の閉塞感から解放されます。すると、セロトニン、オキシトシン、ドーパミンが盛んに分泌され、疲れた脳が息を吹き返すのです。

「非日常」の空間で脳疲れをリセットし、くつろぎの時間を楽しむ

その竹芝で、私が注目しているのが、2020年4月に先行開業 を迎える「WATERS takeshiba」です。
私は日頃から、新しくできたスポットには、可能な限り訪れるようにしていますが、好奇心をもってフットワーク軽く動くことが、脳を活性化することをご存知でしょうか。
特に、創造性を高め、ひらめきを生む脳内物質アセチルコリンは、「新しいもの」や非日常の空間に刺激を受けて分泌されます。
ここ「WATERS takeshiba」は、アクセスのいい浜松町駅からほんの数分歩いただけで、リゾートに来たかのような「非日常」の風景が楽しめる。また、都会で気軽に自然が楽しめる。
そんなスポットは、忙しく働くビジネスパーソンがちょっと訪れて仕事をしたり、散歩しながらオフを楽しむには最適な場所だと考えています。
「散歩」「自然」「非日常空間」の相乗効果で得られるリラクゼーションの効用は、机にジッと座っている時間の何倍もの価値を生むはずです。
水辺と緑を同時に望めるテラススペースも多く、レストランやホテルも併設する「WATERS takeshiba」は、脳内物質の分泌を高めるコミュニケーションの場としても活用できるでしょう。
スタイリッシュなレストランで外の自然を眺めながら、家族や気のおけない友人たちと食事をすれば、オキシトシンの分泌が促進されます。
シアター棟に7月オープン予定の「SHAKOBA」は、これまでにないコンセプトに基づいて、非日常空間の中で仕事が出来るコワーキングスペースが併設してオープンされるので、ぜひ訪れてみたいと思っています。
普段とは違う場所で仕事をすると、海馬にある「場所ニューロン」が活性化するからです。場所ニューロンとは、新しい場所へ移動することで活発になる神経回路です。このニューロンの活性化は、即、脳機能のアップを意味します。
タワー棟にオープンするホテル「メズム東京、オートグラフ コレクション」バー&ラウンジから眺めた風景。コンセントも充実するなど、移動の合間のひと仕事にも便利な場所だ

ベストアンサーは、好奇心を満たしながら、アクティブに休むこと

AI時代を生き残るために必要なものは、新しいものを生み出すクリエイティビティに他なりません。
いつもと同じ空間の固定された場所で座り続けて仕事をしていると、脳は退化する一方です。常に新しい環境を選ぶことで脳に刺激が与えられ、創造性や発想力が育まれていくのです。
「全力でやれば報われる」「気力でがんばれば、どうにかなる」という時代は終わりました。
脳科学で解明されたデータに基づけば、パフォーマンスを上げたいのなら「効果的に休むこと」を意識すればいいのです。適切な休息によってワーキングメモリの働きも向上し、三大脳内物質がバランス良く分泌され、脳は最適な状態を保てます。
忙しいビジネスパーソンほど、これからは「どれだけ効率的に休めるか」を考えるべきです。
好奇心を満たしながら、アクティブに休んで脳に刺激を与える。新しい場所を訪れて心身ともにリフレッシュし、脳内物質をコントロールする。
これこそが、マルチタスクで疲弊しきったあなたの脳に必要な「ベストアンサー」だと言えるでしょう。
(執筆:江藤ちふみ 編集:奈良岡崇子 写真:大畑陽子 デザイン:國弘朋佳)
2020年4月「WATERS takeshiba」が先行開業し、生まれ変わり始める竹芝周辺エリア。その「街」「食」「人」の魅力を切り撮った公式Instagramアカウントはこちら。