【宇野常寛】「良質な発信」が世界を少しずつ豊かにする

2020/3/8
NewsPicks Bookから新著『遅いインターネット』を刊行したばかりの宇野常寛氏に、現代社会への問題意識と「遅いインターネット」計画の全貌を聞くインタビュー企画。
第3回では、同プロジェクトの柱の一つである、「書く」行為の意味について語られる。
宇野常寛/評論家・PLANETS代表
1978年生。批評誌〈PLANETS〉編集長。著書に『ゼロ年代の想像力』『リトル・ピープルの時代』『日本文化の論点』『母性のディストピア』など多数。2020年2月、NewsPicks Book(幻冬舎)から『遅いインターネット』を刊行。立教大学社会学部兼任講師。

「バズる」を目的にしない

──前回は、「遅いインターネット計画」の真意について伺いました。その中で宇野さんは、「自分たちのメッセージは、一瞬で広く届けるのではなく、長く残していきたい」と述べられました。
すると「遅いインターネット」の発信内容は、「バズる」ことを避けた方がいいと考えていますか?
積極的に避けようとまでしなくてもいいと思います。うっかりバズったり、Amazonランキングで1位を取ってしまったら考えればいいことであって、大事なのは瞬間最大風速を上げるために魂を売らないこと、読者を裏切らないことです。
たとえバズったとしてもそれは手段であって目的じゃない。売るために誰かを貶めるようなことをしたり、質の低い記事をつくったりしないこと。
例えば、不倫した芸能人を批判したり、コロナウイルスのフェイクニュースを拡散して注目を集めたりすると、結局読者は離れていくと思うんですよ。
(写真:ロイター/アフロ)
もちろん、たくさんの人に記事を読んでほしいし、本も売れてほしいけど、そのために「遅いインターネット」の精神を裏切ってはいけない。でも、そんな汚い手、卑しい手を使わなくても、ある程度までは行けると思うんです。
なので、正攻法で多くの人に読んでもらい、買ってもらうための努力を、長い時間をかけて続けていくだけです。
ここさえ守れれば、むしろたくさんの人に読んでほしいなと純粋に思います。だから、「遅いインターネット」のウェブマガジンは閲覧数に比例して収入が上がるたぐいの広告は一切入れていません。
いまのところ、この運動に賛同して、このレベルの記事を定期的に更新して無料公開する活動を支援してくれる人たちが、PLANETS CLUBに入会してくれて、その資金で運営しています。

六本木と中央沿線の不幸な分断

──宇野さんは自身のブログで、今の日本の言論界の問題点として「『がんばれ』か『バランスを取れ』しか言えなくなっている」ことを挙げています。「遅いインターネット」はこうした構造も乗り越えるものですか。