【宇野常寛】インターネットの「大喜利」という不毛な現象

2020/3/7
NewsPicks Bookから新著『遅いインターネット』を刊行したばかりの宇野常寛氏に、現代社会への問題意識と「遅いインターネット」計画の全貌を聞くインタビュー企画。
第2回では、現代のインターネット社会の問題点について、宇野氏が舌鋒鋭く斬る。
*第1回はこちら

タイムラインの「潮目」を読む人々

──宇野さんが提唱する「遅いインターネット」という言葉には、アンチテーゼとして「現在のインターネットは『速すぎる』」という問題意識が見えます。現在のインターネットの問題点をどう考えていますか。
いまのインターネットは端的に「速すぎる」でしょう? SNSでもソーシャルブックマークでも、受け取った情報を吟味せずに反応している人がすごく多い。
たとえば、このNewsPicksのブックマークコメントでも、自分と閲覧者に見栄を張りたくて、有名プロピッカーのコメントを丸パクリして貼る人や、タイムラインやコメント欄の「潮目」を読んで、みんなこの方向で叩いているから自分も乗っかったほうが頭良く見えるかも、とか思って似たようなダメ出しを重ねて、ちょっと気持ちよくなっている人はすごく多いと思うんですよね。
宇野常寛/評論家・PLANETS代表
1978年生。批評誌〈PLANETS〉編集長。著書に『ゼロ年代の想像力』『リトル・ピープルの時代』『日本文化の論点』『母性のディストピア』など多数。2020年2月、NewsPicks Book(幻冬舎)から『遅いインターネット』を刊行。立教大学社会学部兼任講師。
まあ、いい歳してソーシャルブックマークでイキっている時点でゴミみたいな人生だなって僕は思うけれど、これは「NewsPicksおじさん」の問題ではなくて、世界中の人がいま、インターネットの、特にSNSのプラットフォームに踊らされた結果ハマってしまっている罠だと思います。
たとえば、芸能人の不倫や不祥事のニュースがTwitterのタイムラインを占拠すると、「今なら、コイツを叩いていい」という空気が醸成される。
すると、ほとんどの人がニュースソースを検証したり、周辺情報を調べたりすることなく、外から当事者に対して石を投げ始めます。それはほとんど「どれだけうまく石を投げられたか」を競う大喜利のようなもので、これを繰り返していると人間はどんどんバカになる。
いまのインターネットは、特にこの国のTwitterを中心としたインターネットは、閉じた相互評価のネットワークになってしまっている。誰もがそこでの大喜利でポイントを稼ぐことしか考えられなくなっている。
そうすると、潮目を読んで乗っかったり、逆張りしたりして評価経済的にポイントを稼ぐことしか考えられなくなって、どんどん「問題そのもの」ではなく「問題を語ることで誰が株を上げたか」のほうに中心が移動していく。
僕はこれが社会をダメにしていると思う。
たとえば「あいちトリエンナーレ」の問題では、そこで本来議論されるべき表現の自由の問題や、地域アートのあり方の問題が置き去りにされて、「このままだと津田大介が左派論壇のスターになってしまう。それが妬ましい」とか、「これを機会にこのエリアのボスが知事なのか、市長なのかをハッキリさせたい」といったどうでもいい人間関係の問題がどう考えても不必要にクローズアップされて、事態を混乱させて本来されるべき議論を遠ざけてしまう。
2019年9月、あいちトリエンナーレ「表現の不自由展」中止問題をめぐって会見する津田大介氏(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
そもそも、ウェブ2.0とか言われていた時代から、いや、その前から僕たちは人間が単に情報を受け取るだけでではなくて、インターネットが普及して日常的に発信することによって賢くなるという前提で考えてきたところがあると思うんですよね。
要するに、SNSで誰かとつながったり、承認されることの気持ち良さがあまりに大きいため、物事を考えるよりも、周囲と同じ相手を叩いてスッキリしたり、安心したいのだと思います。

2ちゃんねるとはてなの悪いとこ取り

──宇野さんは家入一真さんとの対談で、「『2ちゃんねる』や『はてな』はなかったほうがよかった」と発言しています。その真意をお聞かせください。
「2ちゃんねる」はいろんな分析があると思いますが、当時、開設者のひろゆき(西村博之氏)が考えていたことの一つに、「コテハン(固定ハンドルネーム)を大きく制限することによって、相互評価の閉じたネットワークになることを回避し、インターネットを村社会化させないこと」があったと思います。
しかし、その代わりに無法地帯になってしまった。
「2ちゃんねる」開設者、ひろゆき氏(写真:小田駿一)