(ブルームバーグ): ソフトバンクグループの孫正義社長は2日、ニューヨークのゴールドマン・サックス・グループを訪れ、ヘッジファンドなど米国の投資家に対し自社の近況を説明する。ファンド事業で巨額の赤字を発生させた状況から潮目が変わったと納得させられるかは、想定される6つの質問に孫氏がうまく答えられるかどうかにかかっている。

1.エリオットへの対応は

物言う株主のポール・シンガー氏率いるエリオット・マネジメントがソフトバンクG株を30億ドル(約3300億円)近く保有していることが2月に判明。孫氏は会見で、エリオットを重要なパートナーと見なし、機動的な自社株買いの実施では考え方が同じだと述べた。

事情を知る関係者によれば、エリオットとのやり取りは孫氏自身が行っている。後藤芳光専務執行役員兼最高財務責任者(CFО)やマルセロ・クラウレ副社長兼最高執行責任者(COO)、ファンド事業を統括するラジーブ・ミスラ副社長に加え、法務統括のロバート・タウンゼンド常務執行役員も密接に関わっている。

エリオットの自社株買い要求を受け、ソフトバンクG株は2月12日に7カ月ぶりの高値を付けたが、その後は新型コロナウイルスを巡る世界的な株安の影響を受けたほか、これまでのところ自社株買いの発表もなく、直近高値から10%超下げた。

エリオットの代表者が2日の投資家ミーティングに出席するかどうかは明らかになっていない。

2.自社株買いはいつ、どの程度の規模に

エリオットが求めたとされる200億ドルは過去の自社株買いの数倍の規模となる。ソフトバンクGは2019年2月、ソフトバンク上場で得た資金の一部で、過去最大規模となる6000億円(発行済み株式の10.3%)を上限とする自社株買いを発表。株価は約20年ぶりの水準まで上昇したが、自社株買いが終了すると実施前の水準まで下げた。

孫氏は、自社株買いの原資としてアリババ・グループ・ホールディング株の売却を迫るエリオットの要求に対して賛同意思を示していない。2月の会見では「慌ててアリババ株を売るつもりはない」と述べた。ただ資金調達には従来から活用しており、18年には、アリババ株を担保にしたマージンローンで約80億ドルを借り入れている。

関係者によれば、ソフトバンクGはエリオットと自社株買いの具体的な規模については話していないものの、エリオットの取得前から検討はしており、難しいことではないという。2月19日に国内通信大手ソフトバンク株を担保に最大5000億円の借り入れを発表したことも自社株買いへの期待につながっている。

3.負債のリスクは

借り入れを増やしたことで、増大する負債のリスクへの懸念も高まっている。発表によれば、借り入れ期間は最長3年で国内外の金融機関16社が参画した。日本経済新聞によれば、借り入れはクレディ・スイスとJPモルガン・チェースが主導しており、融資額はそれぞれ680億円に達した。

ジェフリーズ証券アナリストのアツール・ゴヤール氏は、5000億円の借り入れのために16金融機関に頼まなくてはならなかったことは「非常に気がかりだ」だと指摘。発表時点で1兆4000億円相当に上る担保が必要だったことを考えると、「日本の金融機関はソフトバンクGへの集中リスクを心配している」と述べた。

ソフトバンクGの発表によれば、19年12月時点での単体の有利子負債は7兆9690億円と前年同期から5500億円超増加した。今年6月と11月には、合計1500億円の普通社債の償還を控える。

4.ビジョン・ファンドはどうなる

昨年7月に国内外の金融機関などと結んだ基本合意書(MOU)では2号ファンドの規模は12兆円に達する見通しだったが、計画は白紙になった。孫社長は2月の決算会見で、「ブリッジ・ファンド」として規模と期間を縮小する考えを示した。

関係者によれば、エリオットは株価の足かせとなっているビジョン・ファンドでの投資プロセスを検証する特別委員会をソフトバンクGに設置させたい意向だという。

昨年10月、約1兆円の追加金融支援策を発表したウィーワークは世界的な新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、シェアオフィスに対する需要が減少する恐れがある。出資先のウーバー・テクノロジーズの株価も世界的な株安を受けて下落傾向にあるほか、米オンライン小売りのブランドレスでは事業を閉鎖し、犬の散歩代行アプリを手掛ける新興企業ワグ・ラブズからは出資を引き揚げた。

5.ガバナンスは改善されるか

ソフトバンクGは投資先企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)に関わる基準を明確化し、グループ投資方針を改定した。新たな基準は、投資先の「取締役会の構成」「創業者・経営陣の権利」「株主の権利」「利益相反の回避」などに注目したものとなっている。

ウィーワークの救済では、企業統治も問題視された経緯がある。孫氏自身も11月の会見で「良い点を見過ぎていたという反省はしている」と話した。

6.ミスラ氏を支えるのか

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、ビジョン・ファンドの最高経営責任者(CEO)も務めるミスラ氏が、かつて孫氏の後継者とみられていたニケシュ・アローラ氏と補佐役を務めていたアロック・サーマ氏を追い落とそうと妨害工作を働いた疑惑があると報じた。同報道の真偽を問われた場合、孫氏はどうコメントするのか。

ジェフリーズ証券のゴヤール氏は「主張が事実だった場合、ミスラ氏自身だけではなくソフトバンク全体の評判が傷つくことになる」と指摘し、「孫氏は早急に対処することになるだろう」と述べた。

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