【正しい英語は不要!?】世界との対話で日本人に足りないマインドセット

2020/3/4

野村(NewsPicks) まずは、日本人がグローバルの舞台でつい陥ってしまうコミュニケーションの失敗について教えてください。
澤(圓窓) 「失敗」ではないのですが、日本人は各国によって異なるコミュニケーションスタイルへの理解が少し浅いかもしれません。
 アメリカに住む日本人の友人から聞いた話なのですが、欧米のコミュニケーションスタイルは「バスケットボール型」で、途切れることなくボールをパスして回すから、何も発言しないとメンバーから外されます
 BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国の総称)は「ラグビー型」で、話し始めるとタックルするまで終わらない、つまり遠慮なく自己主張するスタイル。
 一方、日本は「ボーリング型」。決まったフレームの中で順番通りに話を進めていきますよね。黙っていても構わないし、むしろ口を挟むことがルール違反で、人のボールを奪ってはいけないと考える国民性。
 この友人は、アメリカでMBAを学んでいる時に「日本人はこれらの国によって異なる特性を考慮したマネジメントをしなさい」と教わったことが印象的だったと話していました。
清水(龍谷大学) たしかに、海外でミーティングをすると、自分から入っていかないと話すチャンスがありません。
 でも日本の場合はミーティングのオーナーが順番に当ててくれるから自己主張しなくていい。
菊川(OYO LIFE) 多国籍の人たちとディスカッションをするときは、話す機会を得たらここぞとばかりに良いアイデアを言うと一目置かれるというか、認めてもらえます(笑)。
 ただ「なんで最初から言わないんだ」と言われかねないので、タイミングは重要ですが。
 日本人が主張しない・できない根底には「正しい英語を話さないといけない」と思い込みすぎているのもあると思います。
 正しい英語を話せる自信がなくて、萎縮してしまっている。あるいは、今自分が話していいのか、誰かから許可をもらえるのを無意識に待っている。
野村 日本人が英語で会話にカットインするのは難しいと思いますか?
菊川 僕は英語に苦手意識があったわけではなかったのですが、前職で上司がインド人だったときに半分くらい聞き取れなかったんです。
 しかもインド人は、交渉術が強くて相手が折れるまで折れない傾向がある。そうなるとカットインどころか議論ができないので、なるべく文章で議論や相談するようにしてました。
 それ、僕もあります。目の前にいる外国人とチャットでやり取りしたことがあって。
 その人の英語が聞き取れなかったのはもちろんですが、僕もそもそも正しい英語を話せていなかったから有効な手段でした。
 さまざまな国の人が、必ずしも正しい英語を話しているわけではないので、筆談にするとコミュニケーションが取りやすくなることもある。
 日本人が思うほど、みんながみんな正しい英語を話そうとしていないですよね。
清水 特にインドの人は正しい英語を話しているとは思えません。それを本人たちも理解しているから強気で話すし、雰囲気で通じ合えているんじゃないかな。
 日本人もそれくらい強いハートを持てたらいいですね。
野村 コミュニケーションミスは、ポジティブな話よりもネガティブな話のときに起こりやすいように思います。言いづらい話のときに注意していることはありますか?
 ネガティブなポイントを指摘するのは、日本以外の国は得意な印象があります。
 日本人は最初から相手の悪いところを指摘して治そうとしますが、海外の人はまずは良いところを褒めて、その上で「もっと良くにするためにこういう方法があるよ」と言います。
 実際、上司がドイツ人のときもオランダ人、スウェーデン人、ブラジル人のときもみんな同じで「君の成果は評価するよ。でも、これをやるともっと良くなるんだ」と言うから受け入れやすかった。
 このコミュニケーションスタイルは日本人も学んだ方がいいですね。
清水 僕もニュージーランドで学生のレポートを採点していたとき、指導教官から「どこが悪いという書き方をするな」と教わりました。
 まずは、よく研究している、よく調べている、書き方が素晴らしいなど何でもいいので褒める。その上で、「こうすればさらに良くなるよ」と改善点を伝える。そうしないと話を聞いてくれなくなるんだと。
 カルチャーとして日本人には褒めることが根付いていない、もしくは褒めることも遠慮しているのかもしれません。
菊川 「褒めるのが小っ恥ずかしい」というのもあるかもしれないですね。
 たしかに現職や前職の非日本人の上司からは「僕は君を信頼しているよ」といった前置きがあって、コミュニケーションが始まったりすることがよくあります。
清水 僕はソフトボールの指導者資格も持っているのだけど、何か失敗したときに「なぜそんなことをしたんだ」と叱るのは間違い。
 「その行動の狙いは何だったのか、その結果何が見えたのか、じゃあ次はどうするのか」と聞かないと、叱責が入った途端に選手は動けなくなります
野村 それは部下に何かをフィードバックするときにも通用する話ですね。
 日本でよくある悪い例が「公開処刑」と言われる行為ですね。人前で怒鳴る行為は、海外では訴訟問題になりかねませんから。

野村 日本人は、どんなコミュニケーションを取ればグローバルで信頼を獲得できると思いますか?
菊川 コミュニティにおける自分の強み・役割を認識することだと思います。
 その上で、いつも必ずその領域でパフォーマンスを出すようにしていたら、英語でのコミュニケーションがうまく取れなくても信頼は得られます。
 たとえば、外資系企業で働き始めた駆け出しの頃、グローバルのメンバーと比較して、プロセス改善やExcelスキルが高かったので、僕の役割は細かいオペレーションやExcel作りだと思って仕事をしていました。
 すると「君はこんなこともできるのか、Excelマスターだ」と感動されたことがありますよ(笑)。
 自分から質問することだと思います。「私はあなたに興味を持っています」ということを表現するために、1つでも2つでも質問ができれば円滑なコミュニケーションは取りやすい。
 それから、日本人は主語を「We」で会話しがちですが、それを「I」に変えるだけで随分変わります。
 「I」で話すようになると自分がオーナーであると認識されて、情報が集まるようになるし、信頼感は強くなります。
 主語を「We」にしている時点で責任は自分にないから、グローバルでは認められません。
清水 そうなんですよね、企業に所属していたとしても、結局は個人。
 僕がどの大学で働いていようが、僕自身を知ってもらって論文が読まれ、多くの人に引用されていくようにならないと意味がない。
 ビジネスの場も同じで、日本人はすぐに「○△商事の××です」と名刺を渡そうとします。それでは「ああ、あなたは組織の中の人なんですね」という域を出ないので、相手からの信頼はなかなか得られないでしょう。
 いかに自分を見てもらって小さな関係を積み上げられるか。名刺を渡すなら最後で十分です。
野村 名刺が通用しない、名刺を出さないコミュニケーションをいかに経験するかも大事と言えそうです。
清水 海外では、話が盛り上がって「また連絡を取り会おうよ」となって初めて名刺を渡します。最初の挨拶で名刺交換する文化は日本特有ですからね。
野村 みなさんは、会話を盛り上げるための「鉄板ネタ」は持っていますか?
 いくつもありますよ。たとえば「日本人は失敗を恐れる国民性」であることを理解してもらうために、大相撲の行司の最高位である「立行司」の話をよくします。
 立行司は昔、短刀を持っていたのですが、その理由は本場所で差違いをしたら切腹する覚悟が必要と言われていたからなんですね。
 実際に切腹はしませんが、それくらい日本には間違いが許されない考え方があって、その文化は大相撲の世界に残っているんだよ、と。
 この話をすると、なるほどだから失敗を恐れるのかと理解してもらえるし「さすが日本人は侍のようだ」と興味を持ってもらえます(笑)。
 そういったエピソードをいくつか持っておくと使えると思いますよ。
菊川 それいいですね、使わせてもらいます(笑)。
 日本に興味を持っている人の場合は「何でおじぎをするのか」「何ですぐにすみませんと言うのか」といった質問責めにあうので、日本特有の文化や性質を理解しておくと強いなと思います。
 逆に自分が接待される側だったら、その国や文化などに対する質問を15個くらい用意して行けば、会話は続きますね。
 それから、僕は鉄板ネタを持つためだけにトライアスロンの一番きつい「IRONMAN」に毎年参加しています。
 グローバルの人はみんなIRONMANを知っているから、「最後のマラソンは何を考えながら走っているんだい?」などと少なくとも30分は話が続くし、完走していると言うだけでリスペクトされます。
清水 僕は出身が佐賀県なのですが、佐賀県には江戸時代中期に書かれた「葉隠」という武士道の書物があるんですね。
 そこに書かれているのは、侍は「男色」であるべきだという指南。侍たるもの、本物の恋愛は男同士でやるべきだといったことが書かれていると話すと、必ず食いついてくれます(笑)。
野村 侍や相撲など、日本をイメージさせる話を持っておくと良さそうですね。では最後に、異文化理解のために、明日からできることを教えてください。
清水 勇気を持って飛び出すことでしょう。
 異文化は必ずしも国境を越えることではなくて、たとえばいろんな世代や考え方の人が集まっている「自治会」も異文化です。
 いろんな境界を越える経験は明日からできることだと思うので、異文化なコミュニティには積極的に関わってはいかがでしょうか。
 コンビニエンスストアの店員さんは外国人の方がとても多いので、レジで外国人の店員さんと丁寧な日本語で会話をして、商品を受け取ったら「ありがとう」と会釈をすることを習慣化することです。
 海を渡って日本に来てくれている人に対してリスペクトし、会話をする。
 これができなかったら、グローバルで上手く話せないし受け入れられないと思うので、「ありがとう」と会釈することから始めるといいと思います。
菊川 英語に慣れることも大事です。僕は毎日英語に触れたことで話せるようになりました。リスニングも大事ですがライティングも重要で、書けるようになりさえすれば聞き取れなくてもチャットでどうにかなります
 それに、英語を書くことで思考もロジカルになっていくので、わかりやすいコミュニケーションが取れるようになるんです。
 だから、たとえば1日1ネタを英語で書いて、日記でもSNSでも投稿するとアウトプットできていいかもしれません。
(取材・構成:田村朋美 編集:木村剛士 写真:小池大介 デザイン:岩城ユリエ)