【キリン×ユーグレナ】20年代を生き抜くビジネスマインドCSV

2020/3/2
 環境、超高齢化、人口減少など、ビジネスパーソンが多種多様な社会課題に対峙することになる2020年代。

 こうした世界が抱える社会課題を解決しつつ、その上で自らもベネフィットを得ようとする考えとして注目されるのが、CSV——いち早くそれに気付き、経営戦略の中心に据えて実行に移しているのがキリンホールディングス、そしてユーグレナ社だ。

 NewsPicksStudiosは、キリンホールディングスCSV戦略部の大島健太氏と、ユーグレナ社CEO出雲充氏の対談を企画。

 2社がなぜCSVを追求しようとするのか、出雲氏が「CSVなき企業は滅びる」とまで言うのはなぜなのか。先端を行く両者の、志高く、また、したたかな戦略の意図と、「CSV人材」に求められる人物像を聞いた。

2025年、CSVなき企業は滅びる

大島 今日は、2020年代を生き抜くビジネスパーソンの心得、姿勢といったテーマでお話できればと思って参りました。どうぞ、よろしくお願いいたします。
大島健太。キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部。2003年入社。キリン広島ブルワリー(当時)に配属され、ビールづくりの全行程を学ぶ。その後、滋賀工場での醸造工程の生産管理、本社での原材料調達を経て、Four Roses Distillery, LLC. へ出向。キリンが擁するウイスキーブランドである「フォアローゼズ」の生産と物流に関するマネジメントや組織作りなどを手がけ、さらにはブランディングなどにも関与。海外留学しMBA取得後の2018年、帰国とともにCSV戦略部に配属。
出雲 こちらこそ、よろしくお願いいたします。
出雲充。株式会社ユーグレナ 代表取締役社長。駒場東邦中・高等学校、東京大学農学部卒業後、2002年東京三菱銀行入行。2005年株式会社ユーグレナを創業、代表取締役社長就任。同年12月に、世界でも初となる微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の食用屋外大量培養に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leaders、第一回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」(2015年)受賞。著書に『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』(小学館新書)がある。
大島 出雲さんは以前、弊社が企画したインタビューで「今後、CSVなき企業は生き残れなくなる」と断言されました。私がCSV戦略部にいることもあり、たいへん興味深い発言だったのですが、真意をお聞かせ願えますでしょうか。
出雲 もまず、そこからお話したいと思って今日参りました。2020年代、CSVなき企業は滅びます。お題目ではだめで、本気でやっていないと滅びます。
 理由はふたつあります。ひとつは、日本の人口の変化です。日本は平成の30年間に経験した1億3000万人の数字をピークに、これから先、何十年間、人が減るいっぽうになります。次の30年で生産年齢人口、つまり15歳から64歳までの働く人の人数が3300万人も減るんです。
大島 どれくらいのインパクトがあるのか想像もつきません。
出雲 例えばこれは、世界10番目の経済大国であるカナダの総人口と同規模です。
大島 非常に大きなインパクトですね。
出雲 もうひとつは、価値観の変化です。
 2008年のリーマンショックのあと、ハーバード大学とピュー研究所がアメリカの大学生に「これから資本主義はどうなると思いますか」と聞いたら半数以上が「資本主義は信頼に値しない」、「資本主義の考え方が長期的に続くとは思えない」と、そう答えたと聞きました。
 資本主義によって繁栄を得てきたアメリカの大学生が、ですよ。これが次の世代の最大の特徴です。彼らのやりたいことは金儲けではないんです。社会課題を解決したい、持続可能な社会に寄与したいと考えています。日本の若者にも、同じ価値観の変化が起きています。
大島 なるほど。
出雲 人口が減り、価値観の変化したデジタル・ソーシャルネイティブな若者が半数を超える。つまり、ものを買ってもらうにしても人を採るにしてもこれまで以上に競争が激化するうえ、商品の質がよかったり、ただ儲かっているだけの企業は選んでもらえなくなるわけです。
 どんなにいいものを作っても買ってもらえないし、どんなに労働環境を整えても入社してもらえない。そんな企業は当然、つぶれてしまいます。
大島 そこで、CSVが効いてくるとおっしゃるわけですね。
出雲 そうです。これからの若者は、企業が本気でCSVに取り組み、社会的責任を果たそうとしているか、持続可能な社会に貢献しようとしているかを必ず見抜きます。
大島 その本気とは、何で伝わるんでしょうか。
出雲 そこは単純で、いつからやっているかです。CSVだ。SDGsだ。言うのは簡単です。2020年代の中盤、2025年にもなれば、そういった姿勢の有無が如実に結果となって現れるでしょう。
 大慌てでCSVを標榜する企業も出てくることは容易に想像がつきますが、そんなときに見られるのが取り組んでいる年月の長さ。ユーグレナ社も、付け焼き刃の企業と大きな差が出るはずだと信じて取り組んでいます。
【Light Up】シリーズ CSVの最前線をキリンの「CSV特派員」とともに学ぶ動画シリーズ。第1回では、キリンホールディングス磯崎社長自らが、なぜCSVを経営の中心に据えるのかを答える。第2回では、ユーグレナ社の出雲社長と対談。本記事冒頭の「CSVなき企業は消える」という発言も飛び出した。【Light Up:全8回】はこちら

17歳のCFOを採用したワケ

大島 若い方の意識の変化は、私たちも如実に感じています。特に志望動機の変化が著しい。
 私が入社した17年前、入社理由としてよくあがったのは、商品の競争力だったり、海外展開への力の入れ方だったのですが、今はSDGsへの取り組みや、CSV戦略が理由だと語る学生も多くなっています。
出雲 共感してもらえると、僕も勇気がわいてきます。いろんな企業の方にCSVが大事だと言っても、うちは大丈夫だからとか、そんな若者一部でしょとか言われることもあって。そういう人はだいたい、ミレニアル世代に会ってないんですよね。価値観の変化を肌で感じた経験がない。
大島 まさにその肌感を得るためにCFOを採用されたんでしょうか?
出雲 はい。僕はメディアや講演で「若い人の意見を聞きましょう!」と伝えてまわっていますが、じゃあ自分は出来ているのかと。
 もっと真剣にやらないといけないんじゃないかと考えて、CFOを募集することにしました。いわゆる最高財務責任者のCFOではなく、チーフ・フューチャー・オフィサー。最高未来責任者です。
大島 すごい倍率だったとうかがっています。
出雲 18歳以下の募集に、500人を超える応募があり、そこから小澤杏子さんというCFOが生まれました。
大島 やはり、直接聞くのは違いますか?
出雲 説得力が違いますね。我々がトランスフォームするためには何が必要かを、シャワーのように浴びています。
 もう、当事者がダメだと思ったらダメなんですよ。エネルギー使いすぎだ、CO₂が多いじゃないか、なんでこんなにゴミが出るんだって、本当になんの忖度もなく素朴に、なんでこの会社こうなってるんですかって言ってくれるので。痛いときもありますけど(笑)。
大島 その小澤さん、手前味噌なんですが弊社が2014年から主催する中高生向けの、主に環境に関する社会課題について考えるワークショップ「キリン・スクール・チャレンジ」ご出身です。それを聞いて、私たちもたいへんうれしく思っております。
出雲 そうなんです。そこについて、感謝を申し上げないといけない。繰り返しになりますが、これが「ずっとやってる」ことの強さなんです。
 2014年にワークショップをやられていたことも素晴らしいですが、もっとさかのぼると、そのワークショップで紹介されたキリンの環境への取り組み、レインフォレスト・アライアンスの事例、この具体性が素晴らしかったと。
 キリンが熱帯雨林を保護するためにどんな活動をしているのか、農家さんにどういう技術を提供しているのかっていうのを、現地、現場の写真をたくさん使ってワークショップをやってくださった。
 それを見た彼女がアクションの起こし方を知り、CFOへの応募という具体的行動へとつながっていったわけです。
大島 そう言っていただけると、たいへんありがたいです。
出雲 派手なことをする必要はないんだと、僕たちも再認識しました。彼女のような人に届けるために、長く、本気で取り組んでいくことが大事。キリンさんには、好調なときはもちろん、景気が悪くなっても続けていってほしい取り組みです。
大島 継続性の話が出たのでお聞きしたいのですが、ユーグレナ社さんでは、CSVと利益のバランスをどうとってらっしゃるのでしょうか。
 社会課題はたくさんありますし、それを解決する方法も数多あると思いますが、同時にお金を生み出していく、つまり事業の持続的成長につなげる、CSVの難しさを感じているところでして。
出雲 たいへん本質的な問いで、答えはないですよね。成長とCSVを矛盾なく両立させ続ける事は本当に難しいし、できるかどうかわかりません。
 ただ、シェアードバリューのないものを作り続けて成長して、この社会が、もっと言えば地球が、次の世代に渡せないものになってしまったら、もうそれは何のために成長しているのかわからなくなってしまいます。
 だから、いちばん大事なのは自社の成長じゃなくてCSV。これがあと5年で常識になると思います。いま過渡期だから悩むんですよ。大島さんの悩みは、時間が解決してくれるはずです。
大島 それを聞いて安心しました(笑)。

独占ではなく、シェアを

大島 CSVは継続が大事というお話、たいへん納得しました。ただ、漫然と続けているだけではいけないとも思っていまして。より本質的にCSVを実践していくため、組織にどのような態度が求められるでしょうか?
出雲 CSVの「S」、これがいちばん大事だと考えています。Sは「Shared」の意味が本来ですが、CSV実践のための行動様式として、ふたつに分解できるというのが私の考え方です。
 ひとつは「ソーシャル」。社会課題と向き合う態度です。繰り返しになりますが、儲けてさえいればよかった資本主義の時代は終わりました。ズルしたり、地球環境に負担をかけるやり方はすぐに見抜かれ、そっぽを向かれてしまいます。口だけではなく、本気で社会課題に向き合うことが大事です。
 もうひとつは元の意味と同じ「シェア」。独占ではなく、共存し、分かち合っていくという考え方です。
 今までは、お客さんがいちばん大事でした。「お客さまは神様」だったわけですが、今は違います。すべての人がステークホルダーです。この人は客かどうか、付き合って得をするかどうか、そんな考え方はCSVとは真逆です。内と外を決めて勝手に分けない。
 この人がお客さま、ここが仲間、その中で頑張っていればOKというのは、昔のやり方。これからはシェア、マルチステークホルダー、みんなに働きかけていく、みんな仲間なんだっていう共感、共有っていうものが頭に入ってないとダメなんです。
大島 強く共感します。これまでは課題もシンプルで、社内でチームを組み、専門部隊で取り組めば大概の問題は解決できました。しかし今は社会が複雑化し、ステークホルダーの要求もさまざま。課題自体が随時変化しているような状態です。
 この時代に向き合うために大切なのは、新しい意見や、異分野の知見に対して常にオープンでいること。それが、変化し続ける課題への対応力につながるんじゃないかと思います。
出雲 カーシェアはじめ、シェアリングエコノミーはかなり普及してきたじゃないですか。この調子で、ビジネスにも「シェア」の意識が浸透するといいなと思います。

"Get Out of Your Comfort Zone"

大島 CSV戦略を実践していくために必要な組織のあり方、納得しました。一方個人がCSV人材になるためには、どんなことからはじめたらいいでしょうか?
出雲 自信をもっておすすめできる方法があります。難しい本を読むとか勉強しなさいじゃなくて一言、"Get Out of Your Comfort Zone"、自分の居心地の良い場所から飛び出してみてほしい。
 ずっと同じところにいると、その場がホームタウンになり、新しいところに飛び出していくのがリスクになります。知らない人に声かけるって緊張するじゃないですか。それは私だってそうです。でもそれだとご縁が広がっていかない。CSV活動ができなくなっちゃうんです。
 だから意思をもって居心地の悪いところへと赴く。常に新しい場所、新しい仲間を求める。知らないところに行く、知らない人に会う。居心地が悪いところこそ行ってみる。
 こう言うと、アウェーに行って恥をかくのがイヤだってみんな言うんです。でも、僕なんかユーグレナ(ミドリムシ)ですよ(笑)。
 こんなわけのわかんないことやって、なんでユーグレナやってんですか、ちょっと変ですね、気持ち悪いですね、来ないでくださいと散々言われて、毎日毎日恥ずかしい思いをしてきました。
 でも、死んでないんですよ。恥ずかしすぎて死んだって人は、人類史上1人もいないですね。恥をかきながら色んな人にユーグレナ面白いですよー、一緒にこの技術を使って社会をより良くしていきませんかーって働きかけたら、少しずつ、このCSVの取り組みに共感してくれる人が増えて、それで今の会社がありますから。
 とにかく恥をかきに行く、居心地の悪いところに自分の命を投げ出す、Get Out of Your Comfort Zone、これをやったって死にませんから。どんなに恥ずかしい思いしても、英語が通じなくても、自分の専門分野じゃなかったとしても、恥かいていいじゃないですか。
 それで新しい仲間が1人でもできたら、自分の未来、可能性が広がるわけなので、居心地の良いところに安住しないでください。
 ぜひ居心地の悪いところに。新しい友達、新しい知り合いに会って、行ったことがないところに行って、新しい価値を作るんだって言う友達、仲間を増やし続ける。そういう人になって欲しいなと思います。
 記事の内容をさらに深掘りする『DEEP STORY』。キリンがCSV経営に力を入れる理由に迫る。さらに「CSV人材」に求められる人物像についての提言も。
(撮影:飯本貴子、編集・執筆:株式会社ツドイ、デザイン:國弘朋佳)