集中の最大の敵は、”社内で好かれるための仕事”だ
fondesk | NewsPicks Brand Design
2020/3/25
ワンフロアのオープンオフィス、フリーアドレス制、あるいはオフィスに縛られないテレワークなど、仕事をする場のカタチも多様化している。
コミュニケーション活性化やコスト削減といったメリットがある一方で、「仕事に集中できない」といった声も少なくない。
仕事場で、高い集中力を発揮するにはどうしたらよいか。あるいは、集中できる仕事場をつくることは可能なのか。
『集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方』の著者で、ソロワークスペース「Think Lab」を手掛ける株式会社Think Labの取締役 井上一鷹氏と、BtoB企業のマーケティングコンサルティングを手掛ける株式会社才流の代表取締役社長であり、ディープワークを実践する栗原康太氏が話し合った。
コミュニケーション活性化やコスト削減といったメリットがある一方で、「仕事に集中できない」といった声も少なくない。
仕事場で、高い集中力を発揮するにはどうしたらよいか。あるいは、集中できる仕事場をつくることは可能なのか。
『集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方』の著者で、ソロワークスペース「Think Lab」を手掛ける株式会社Think Labの取締役 井上一鷹氏と、BtoB企業のマーケティングコンサルティングを手掛ける株式会社才流の代表取締役社長であり、ディープワークを実践する栗原康太氏が話し合った。
オフィスでの集中を妨げる3大要因
──集中を左右する要素は、外的・内的さまざまあると思うのですが、オフィスに関してはどのようなポイントが挙げられますか?
井上 僕は普段、いろんな企業に行って、メガネ型の集中力測定デバイス「JINS MEME(ジンズミーム)」を使って、集中力を高めましょうと、コンサルティングをしているんです。
井上 でも、いざ自分のオフィスでも測定してみたらひどくて……。まったく集中できない環境だということがわかりました。その年の「日経ニューオフィス賞」をいただくほど、非常にいいオフィスをつくったはずなのに、です。
井上 ほとんどのオフィスに共通するのが、コミュニケーション主体型のオープンオフィスであること。そして、そこで集中を妨げる3つの要素が、同僚とスマホと、代表電話です。
人が深い集中状態に至るまで23分かかるという学説があります。それなのに、現代人はオフィスにいると、11分に1回は話しかけられるか、電話やメールが鳴るんです。
ちなみに、この11分というデータは5年以上前のもので、今はチャットツールも増えて、もっと劣悪なはず。コミュニケーション重視のオフィスにいる限り、絶対に深い集中には至らないと言っても過言ではない。
井上 僕の考えで言うと、この集中を妨げる3つの要素のうち、もっともアンコントローラブルかつ、自分にとって有益である可能性が低いものが代表電話だと思っています。
栗原 代表電話は本当に困りますよね。だから弊社は、そもそも番号を自社サイトに載せていません。万が一かかってきても、電話代行サービスの「fondesk」を導入したので、オフィスの電話は一切鳴らなくなりました。
栗原 私用電話にもfondeskを入れたくらい、電話は避けていますね。プライベート用にまで導入したのは、さすがに自分含めて2人くらいしかいないそうですが(笑)。
井上 僕なんかまったく電話に出ませんからね。これは企画職だから許されているんですけど、電話のたびに深い集中が途切れてしまったら、新しいものなんて生み出せるわけがない。だから、“嫌われる勇気”に近いことを僕はやっちゃってます。
コミュニケーションと集中は、天秤にかけられているようなもの。同僚やスマホに意識が傾くほど、個人の集中は上がりません。でも、その両方を高めなければ、イノベーションが起こりにくくなるという研究があります。
それが、早稲田ビジネススクールの入山章栄先生が引用している“両利きの経営”です。
井上 コミュニケーションが主体の「知の探索」と、集中を主体とした「知の深化」。この2つのバランスが大事です。
なのに、日本の労働環境は「知の探索」ばかり。オープンオフィスが人気で、スマホが絶え間なく鳴り続けるせいで、まったく集中に向かない環境になってしまっているのです。
“好かれるための仕事”をなくし、“ピュアな仕事”で評価したい
栗原 僕がfondeskを使っている理由が、まさにそこです。たとえば、僕らのようなコンサルティング会社の場合、マーケティング戦略の企画を練ったり、プレゼンの準備として資料やレポートをつくったりする。その上で、お客さまとのコミュニケーションを取る。これこそが本業じゃないですか。
だから、それ以外の業務は、テクノロジーを活用して自動化したりアウトソースしたりして、なるべく自分たちの手を動かさないようにしています。これは経営者の立場からも、社員に無駄なことをさせないようにマネジメントし、純粋に本業で評価したいという思いがあるからです。
井上 そうですよね。本来のミッションである本業に、どうやってもリソースの7割程度しか割けなくて、残りの3割は社内の調整係のような仕事になる。僕は「嫌われてもいいや」と割り切って、なるべく圧縮していますけど(笑)、これをやるのは、若手には難しいと思います。
若手のときって「俺の話を聞いておかないと損だぞ」みたいなことを言ってくる先輩もいるじゃないですか。この時間をできる限り圧縮してあげたいですよね。
栗原 同意ですね。前職のITベンチャーで働いていた頃は、あらゆるところに本業と関係のない評価基準があると感じていました。たとえば、朝ちゃんと来る、しかも5分前じゃなくて30分前だとか、始業後の掃除とか、飲み会の幹事業とか、それこそ代表電話を素早く取るだとか。
それで、本業で成果が出ないときにやってしまったのが、全社プロジェクトに一生懸命になることでした。自分の業務とは無関係だし、直接の評価にはつながらないんですが、今思うと「こっち頑張ってるんだから、ちょっと大目に見てよ」という気持ちがありました……。
そういうのが僕はすごく苦手だったので、社員にもやらせたくない。なるべくピュアに、自分のやった仕事が評価されるのがいい。朝出社したほうがいいのはその通りですけど、5分前に来ようが、1時間前に来ようが関係ありませんから。
井上 「あの人はちゃんとしている」というのが評価に影響してくると、人は“社内で好かれるための仕事”をしよう、“ちゃんとした姿”を見せようという方向に目が行く。それは避けたいですよね。
社内で率先して代表電話に出る人って、誤解を恐れずに言えば、そういった“みんながやりたがらない仕事”や“社内で好かれるための仕事”をちゃんとやる自分に誇りを持っている。たとえ他の仕事ができていなくても、そういうベーシックなことをやっていない周囲を責める場合さえあります。あ、僕は完全に責められる側です(笑)。
もちろん、そこを一人で巻き取ってくれる人は本当に偉い。そういう人がいるおかげで、本業が円滑に進む面もあるので、みんなで「いつもありがとね」って感謝したり、たまにお土産とか優先的に差し入れたりします。
井上 でも、実はその申し訳なさで、みんなのリソースが少し食われるんですよ。もし別の仕事でちょっとしたミスがあっても「まぁ、いつも助けてもらってるしな」って指摘しなかったり。
だから、こういう仕事はなるべく社外パートナーなどの顔が見えない人に、職責として任せられるほうが、僕はありがたいですね。いつも率先してやってくれる人がいるからといって、そこに甘えてはいけない。全員でもっと本業に集中できるように、組織として解決すべき問題なんです。
その象徴が、代表電話に出る行為です。もしかしたらfondeskのメリットって、電話が鳴らなくなることより、こういった副次効果が大きいかもしれません。
人は、何のために集中するのか?
──集中力を上げるために、オフィスの外、あるいは個人でしている工夫はありますか?
栗原 集中力でいうと、fondeskだけじゃなくて、本業に関わらないすべての意思決定を減らしていきたいんですよね。
移動も極力なくしたい。ルート検索とか何分前に到着とか、こういう思考すら、もはやピュアな本業には無関係。だから、最近は極力ウェブ会議を活用しています。
井上 実は最近、この服を上下まとめて7着作って、それだけ着ると決めたんですよ。朝ごはんは毎週届く宅食サービスにして、僕も“何も決めない”をどんどん突き詰めています。
栗原 集中力という今回のテーマを聞いたときに、まず何のために集中力を上げるか、という重要な問いがあるなと思いました。
僕がこんなに集中力や生産性にこだわるのは、そもそもライフハック好きというのもありますが、会社や個人として達成したいと強く願うものがあり、集中力や生産性を高めたほうが、そこに早く到達できると思っているからです。
井上 なるほど。僕、よく人に「午後のパフォーマンスを下げたくないので、お昼ご飯は抜いています」と話すと、「何のために生きているの?」「食事って大事でしょ?」みたいな空気になるんですよ。
自分はJINSのイントレプレナーとして、新規事業立ち上げのスキームをつくって伝播させていきたい。カツ丼を食べたい気持ちもありますが、そのバランスの中で自分がその選択をすることが大事なんですよね。僕の話を聞いて「じゃあ、俺もランチ抜こう」と思った人は、絶対続きませんよ。
栗原 雑誌の特集とかでも「大企業の経営者の生活習慣」がよく載っていて、だいたいストイックな内容ですよね。そのおかげで彼らがその地位を築けたと思う反面、習慣化できた背景として、彼らにやりたいことがあり、それを実現できそうだからこそ、モチベーションが保てるのだとも感じます。
僕も、自分のビジョンの実現可能性が高まるほど、やる気が上がる一方だし、日々健康に気を使うようになってきました。なぜなら、もうすぐ掴めそうだから。
井上 それに近い話を、高野山の住職さんに聞きました。Think Labは、東京に高野山をつくろうというコンセプトで始めたプロジェクトで、何度か現地へ足を運んだんです。
そこで集中には何が必要か伺ったときに、1200年以上も前からある“如実知自心(にょじつちじしん)”という仏教用語を教わりました。ありのままの己の心を知る、という意味です。
要は、集中力が高い人って、何がしたいかを宣言できる人なんですよ。何ができる・何をすべき、shouldやcanの話ではなく、自分はこうしたいんだというwantやwillを言える人。まずそれを見つけるのが大事だな、と。
ただ、栗原さんがおっしゃったように、遠すぎても習慣化にはつながらないので、3年くらい先のビジョンを日常に落とし込む。人が妥当性をもって描ける未来は、3年先までという話もあります。
集中力のキーワード「分ける」
──ビジョンのある若手でも、すぐに取り入れられる集中力アップのコツが知りたいです。
栗原 愛用のアイテムでいうと、AirPods Proですね。ノイズキャンセリングの集中効果は予想以上でした。会社としてイヤホンOKならオススメですね。
井上 僕がよく言う簡単な集中のメソッドは、集中すると決めたらスマホを裏返す。もっと大事なのは、スマホを裏返している人には話しかけないというルールの徹底です。
井上 もう一つは、共有カレンダーに、集中タイムの枠を書き入れること。これだけで集中は上がります。あとは、できるだけメールやチャットの通知を切ることですよね。
必要なのは、人の集中をリスペクトすることだと思うんです。ちょっとしたコミュニケーションのつもりでも、それは相手の23分を無駄にしかねない行為だということを忘れてはいけません。
──では、もしオフィスそのものを自由につくり変えられるとしたら、どんな空間が理想でしょうか?
栗原 血流が良くなると集中力は上がるので、社内にジムをつくりたいですね。Googleとか、アメリカにはジムを設置している企業もあるようです。途中で筋トレを挟んで、もちろん、その時間もお給料が発生する仕組みにしたい。
最近導入しようと考えているのは、学校のチャイムです。工場で導入しているとは聞くのですが、我々ホワイトカラーにも役立ちそうです。血流を良くするために、たまには席を立とうと言ってもつい忘れてしまうので、45分や90分区切りでチャイムが鳴り、半強制的に10分休憩を挟むスタイルもいいかな、と。
井上 ぜひ試してほしいですね。集中力を上げる有名な理論に、ポモドーロテクニックというのがあって、25分ごとに強制的に5分休憩を挟む30分1セットを繰り返す集中法。すると、アクティブレストで、次のタームの集中力が上がるんです。
井上 僕なら、ABW(Activity Based Working)に即したオフィス設計をしたい。要するに、“集中する場所”と“コミュニケーションする場所”、そして“その2つのモードを切り替える場所”というように、機能で場所を分けてあげる。
人の脳みそはそんなに賢くないので、色や香りも場所ごとに変えて刷り込んであげると、モードをスイッチしやすくなるんです。在宅ワークで集中できない人も、ここをはっきり切り替えられるかがポイントです。
栗原 そういえば最近、スマホを仕事用とプライベート用とで完全に分けました。これは個人的にすごく良かったですね。
井上 まさにスマホの問題はそこ。ゲームもするし、仕事もするし、メッセージもやり取りする。マルチタスクだから、この環境に脳を置いたときに「今、何すればいいの?」と混乱してしまうんです。
──スマホのホーム画面で、アプリを分けるだけでも効果がありそうですね。
井上 それもいいと思います。そういった区分けが、オフィス空間に関しては非常に難しい。
ある企業さんの話ですが、都内に数十店舗あるコワーキングスペースと提携していて、社員は自由にテレワークできるんです。そのなかで、利用率が圧倒的に高いのが、本社の最寄りの店舗だったとか。
つまり、会社の近くにいないと急な呼び出しなどの対応が不便だけど、同僚からは距離を置きたい。僕も昔はよくオフィス近くのカフェに逃げていました。そんなオフィスの“はなれ”として、Think Labのニーズが高まっていると感じています。
オフィスはあらゆる所から声をかけられる環境で、そこから逃れる手段が求められている。この意味では、Think Labとfondeskは近いと思っています。
栗原 お話を伺って、自分のオフィスにほぼストレスがなくなってきたと気づきました。fondeskのおかげで電話は鳴らないし、みんなが黙々と作業できる場所になった。
テレワークをしたこともあったけど、毎回どこで作業するか、自宅か打ち合わせ場所の近くか、そもそも空いているかなとか意外と面倒で……。今は「オフィス=仕事する場」に定まっているので、余計なストレスがありません。
──お話は尽きませんが、私の集中力が切れてきたので、そろそろ終えたいと思います。ありがとうございました。
(取材・文:中道薫 編集:木村剛 撮影:森カズシゲ デザイン:堤香菜)
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