組織の新常識「従業員主体の体験価値を高める」

2020/2/15
 人財確保がますます難しくなるなか、企業に求められる競争力の源泉が、組織の生産性の最大化だ。
 従来のタレントマネジメントは幹部層など一部の従業員を対象にしたものだったが、今後は全従業員のエンゲージメントを高めなければ人財資源の有効活用は実現できない。
 では、組織における従業員価値の向上を経営戦略につなげていくために、日本企業ができること・やるべきことは何なのだろうか。
 2019年12月10日(火)に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された「Next Culture Summit」のセッション、『世界で戦うためのピープルイネーブルメント 〜全従業員の「できる化」で勝つファクターとは〜』では、従業員体験を経営戦略に置くあり方について語られた。
 すべての社員を「できる化」する「ピープルイネーブルメント」の考え方を推奨するワークデイの荒井一広氏と、ニトリホールディングス組織開発室の永島寛之氏、楽天常務執行役員・小林正忠氏によって繰り広げられた「これからの組織に必要なマネジメント」についてのディスカッションをリポートする。
これからの組織に求められる「ピープルイネーブルメント」
永島 組織には「2:6:2の法則」があります。どんな組織にも、上位2割のハイパフォーマー、6割の中間層、下位2割のローパフォーマーがいる。
 一人ひとりの能力を最大限に引き出す全社員参加型の「ピープルイネーブルメント」という人材マネジメントを提唱しているワークデイは、すべての層にアプローチするということですよね。
株式会社ニトリホールディングス 組織開発室 室長 永島寛之氏
荒井 そうです。これまでのタレントマネジメントは、上位2割の能力開発にフォーカスしたものがほとんどでした。
 しかし人財不足が深刻な今、それでは企業の競争力は上がらない。
 「ピープルイネーブルメント」は、「帰属意識」「権限委譲」「適材適所」「能力開発」の4つの要素で、全従業員の能力を最大限引き出し、全員を「できる化」することを目指すもの。
 ワークデイが提供する「Workday ヒューマンキャピタルマネジメント」は、採用計画や人材育成、報酬管理、目標管理など、人事に関する業務を単一のプラットフォームで運用しています。
 従業員の学歴や職歴、目標、評価、報酬など包括的なデータによって、従業員の仕事やキャリアに対する考え方、価値観が見えてくる。
 それらを理解することではじめて「ピープルイネーブルメント」が機能すると考えています。
小林 日本の人事システムは、勤怠管理や給与計算等を中心としたものがほとんどで、次のキャリアデザイン情報など、従業員が幸せに働くために人事システムを積極的に経営に生かしている企業は多くないのが現実だと思います。
楽天株式会社チーフウェルビーイングオフィサー / 常務執行役員 小林正忠氏
 当社も試行錯誤を繰り返しながら、今はワークデイのシステムをグループ全体で導入し始めました。
 従業員のあらゆる情報を一元管理していくことで、従業員の現状や未来が見えてくると考えています。
永島 これまで経営視点で決めていた適材適所に、従業員視点も取り込まれていく。それは、従業員自身がキャリアを形成することにつながりますね。
ミッション・ビジョンをいかに浸透させるか
荒井 ピープルイネーブルメントのベースにあるのは、従業員価値の向上を経営戦略につなげていくことです。
 そのため、ミッション・ビジョンの浸透はとても重要なファクターになります。
ワークデイ株式会社 荒井一広氏
小林 そもそも企業が何かを成し遂げるための組織である以上、ミッション・ビジョンは不可欠だと思っています。達成したいミッションと、それを体現するためのビジョンがある。
 楽天には、コーポレートカルチャーの総称である「楽天主義」がありますが、これは楽天が大切にしているミッション・ビジョン・バリューを整理し、組織に流れるフィロソフィーを改めて言語化したものです。
永島 まさに、ミッション・ビジョンは企業活動の源泉。それが行動規範に分解され、カルチャーになっていくものだと思います。
 ニトリが「ロマン(志)」として挙げている企業行動の原点は「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」こと。
 商品開発を進めるときも、その商品が社会に提供できる価値とは何か、社会課題の視点まで広げて考えます。
 たとえばコタツの開発をしたときは、「少子高齢化で独居高齢者が増えていく」という課題に対して「スイッチの安全性や持ち運びやすい軽量さが価値になる」と具体的な機能を考えました。
 住まいの豊かさは社会課題の解決につながるという発想が原点にあるのは、ミッション・ビジョンが浸透しているからだと思っています。
全従業員にビジョンが伝わるよう翻訳する
荒井 ミッション・ビジョンを浸透させるのは、やはりトップの役割だとお考えですか?
永島 そうですね。基本的にはそれらを作った人、多くのケースで創業者が常にいろんな場所で話をして届けていくものだと思います。
 それを受けた従業員が自分の言葉に咀嚼(そしゃく)して、行動規範に落とし込んでいくのが大事でしょう。
 ただ、企業がスケールしていくほど、トップの言葉は伝わりにくくなっていく。まさに今、ニトリが直面している課題でもあります。
荒井 組織規模の拡大が進むにつれ、ミッション・ビジョンの浸透は現場のマネジャーが担う役割になると思います。
 ワークデイのように全世界に社員がいるとトップが伝えきるのは難しい。
 社員1万人規模の組織で500~800人のマネジャーがいると仮定するならば、そのマネジャーがしっかり企業ミッションとビジョンを理解し浸透させていくことが重要になります。
 ワークデイでは毎週金曜日、全従業員に「Best Workday Survey」と呼ばれる調査を実施しています。
 毎週2問それを17週にわたり合計34の質問に答える調査なのですが、そのうち8割が上司に関する質問。
 マネジャーは自分のチームが健全な状態なのか、問題点はどこにあるのかを確認でき、その結果に対してマネジャーの上司からフィードバックが来る仕組みです。
小林 楽天ではミッション・ビジョンの浸透は一貫してトップがリードしています。創業期から急成長期、グローバル期を通して、三木谷が毎週の朝会で欠かさず伝えてきました。
 ただ、急成長期以降では新人に日々接するのはマネジャーなので、荒井さんがおっしゃるように企業文化を体現している人をいかに増やすかが課題でした。
 「楽天主義」の理解には、「知っている」「理解している」「自分事として体現している」「他の人を巻き込んで感化している」の4段階があり、「周りを巻き込む」レベルにいかに上げられるかが、現在進めているチャレンジ。
 創業者の言葉は、ときにビジョナリーすぎて伝わらないという課題があります。
 「この階層の人にはどんな伝え方をするべきか」、楽天主義を分解して整理し、全従業員が自身の日々の業務を通じて、理解・体現できるように翻訳も必要だと考えています。
永島 創業者の強いビジョンのもと成長してきたニトリも、共感するところがあります。
 発された言葉から真意を見つけていく作業を丁寧にやっていくことが、大事なのかなと思いますね。
 それから、全従業員の「できる化」に向けて、ニトリでは2019年11月から「エンプロイー・ジャーニーマップ」を導入し、解決したい社会課題について、具体的にどんな業務を通じて関わっていきたいのか、アンケートを取り始めました。
 その結果にもとづいて配置転換や教育研修、次のステップに進むためにやるべきことのフィードバックなどを行い、従業員主体のキャリア形成につなげていく。
 全体のマップを描く中で、現在の自分がどこにいるのか、ミッション・ビジョンとの関連性を可視化し、自分事化してもらうのを目指しています。
企業文化への投資をいかに進めるか
荒井 企業文化への投資は、重要だとはわかっていても費用対効果が見えにくい。なかなかドラスティックな変革に舵を切れない企業も少なくありません。
小林 企業文化は従業員が仲良くなるためのものでは決してなく、パフォーマンス向上のためには必要不可欠なものです。ですから投資を怠ってはいけない。
 ただ、成果を測れるのが先になるため、簡単な従業員満足度調査などを活用して、短期スパンで状況の変化を把握するのも手法の一つだと思います。
 ワークデイさんが提供するサービスは、まさにその短期的な状況変化をタイムリーにとらえるという点で、価値のあるものだと思っています。
永島 非連続な事業成長のために、企業文化への投資は大切です。
 ニトリは2022年までに売上高1兆円、2032年までに3兆円を目指していて、10年で3倍へのスケールアップですから、目先のビジネスへの投資だけでは到達できません。
 そこで、従業員の体験に投資することがイノベーションにつながるのではないかという思いから、若手社員を10日間のアメリカ研修に連れて行っています。
 その背景にあるのは、創業者・似鳥の40年前の訪米です。ライフスタイルのギャップに衝撃を受け、「この豊かさを日本で広げたい」という思いからニトリは誕生しました。
 当時と環境は相当変わっているものの、暮らしの違いを体験することで、商品やサービスに還元されるものがあるのではないかという期待があるのです。
 それこそすぐに効果が出るものではありませんが、これを体現しないと周りを巻き込んで感化するフェーズには上がれないと思っています。
荒井 まさに、数値で判断できるものだけが企業資産や価値ではない、ということですね。
 従業員主体の価値体験をいかに増やすか。会社の無形資産やブランドをどう高めるか。ワークデイが提供できるサービス価値はここにあるのかなと思っています。
(文:田中瑠子、編集:田村朋美、写真:小池大介、デザイン:村木淳之介)
※このセッションは、ワークデイの協賛によりお届けしています。