自然エネルギー時代、ガソリンスタンドはどうなる?

2020/2/10
日本全国のガソリンスタンドの数は全国約3万。自動車しか移動手段がないような地域では、ガソリンスタンドは欠かすことのできないインフラだ。
地方の公共サービスを支える郵便局の数が、約2万4000だということを考えると、いかにガソリンスタンドが全国に根を張っているかが、わかるだろう。
一方で、現在、ガソリンスタンドは自動車離れや環境意識の高まりを背景に、減少の一途を辿っている。
エネルギーシフトと共にガソリンスタンドは役割を終えてしまうのか。それとも新たな価値を生み出すのか。
2019年4月に出光興産と昭和シェル石油は経営統合、今まさに生まれ変わろうとしているサービスステーション(以下、SS)を軸としたMaaSへの挑戦を紹介する。

移り変わるサービスステーションの役割

気候変動抑制に関する多国間協定であるパリ協定を受け、環境省は2050年に向けてCO2を80%削減していくビジョンを示した。
出光興産は、中期経営計画のなかで、これまでの石油を中心とした事業から脱却し、2050年に向けて事業の多角化、次世代事業の創出に取り組むと発表。そのなかには、SSの次世代業態開発も盛り込まれている。
これからの時代にあったサービスを提供していくために出光興産は全国の販売店、特約店と協力し、ビジネスの多角化に取り組んでいくという。
SSの次世代業態開発に取り組む、出光興産の販売部ビジネスデザインセンター朝日洋充氏は次のように語る。
「地方の移動手段は車が主流。SSが減少し続けると、多くの人々の暮らしに影響が出てしまいます。実際、すでにガソリンスタンドが1軒もない村も現れはじめています。SSの減少を食い止め、地方のエネルギーインフラを維持していくためにも、多角化は急務なのです」(朝日氏)
従来のSSは給油のほか、カーメンテナンス、車検、洗車などのカーライフ領域のサービスを提供してきた。しかし、出光興産ではカーライフ領域におけるEVや水素ステーションといった次世代エネルギーへの取り組みはもちろんのこと、今後は人々の生活全般を支えるインフラへと転換を図っていくという。
ローソンやプロント、ピザハットなどの小売・飲食店の併設、果てはコインランドリーに至るまで、地域で需要があると思われるものであれば、広い視点でサービス提供に取り組む。最近では、少子高齢化を背景に、販売店・特約店とパートナーシップを組み、高齢者向けのデイサービス事業にも乗り出している。
出光興産の全国約6500のSS。その資産はハードに限ったものではない。出光興産の販売店・特約店は昭和30年代のモータリゼーションの時代に契約をした企業が多く、もともとは各地方の名士であるケースがほとんどだ。それがゆえに各地域への思い入れが強く、また地元密着で事業を始めるには有利に働く。
日本の地方都市がさまざまな課題に直面していることを考えれば、SS及びそのネットワークの利活用には地方創生の大きな可能性が秘められている。

SSネットワークによる出光昭和シェルのMaaSへの挑戦

今、出光興産が販売店・特約店とパートナーシップを組み、出光昭和シェルで取り組んでいる肝いりの事業がMaaS領域だ。
実証実験として、2019年8月より、岐阜県飛騨市・高山市を拠点に超小型EVを活用したカーシェアリングの実証事業「オートシェア」を展開。この実証実験は、タジマモーターコーポレーション社の超小型EV「ジャイアン」を、出光興産のSSを飛騨高山で運営する牛丸石油株式会社に貸与し、カーシェアリングサービスを提供するというもの。
「飛騨市と高山市に拠点を置く牛丸石油も、弊社と同様に燃油の需要が減っていくなかで事業転換が課題でした。
近年、観光需要が増加している飛騨高山という土地で、観光客をターゲットにした乗り物を提供していきたいという思いを持っていたそうです。そうした課題を共有しながら事業を共に検討していくうち、超小型EVというアイデアが出てきました。
これを事業化させようというのが、『オートシェア』事業がスタートした経緯です」(朝日氏)
地元企業や道の駅、ホテルの駐車場をEVステーションとし、近距離移動手段を提供。平日は、法人向けに地元企業に営業車として車両の貸し出しもしている。
こういった地場の企業との連携をスムーズに行うことができるのは、地場に根ざしたSSネットワークがあるからに他ならない。今回、SSは車のメンテナンスなど後方支援の役割を担う。
カーシェア事業における課題は休日に需要が集中し、平日の稼働率が安定しないこと。そこで「オートシェア」では地元企業の駐車場を活用することで営業車として貸し出された車両を観光客や近隣住民に向けて開放するビジネスモデルを考案した。
全体の戦略を担当したNext事業室の福地竹虎氏は今回の実証実験の手応えを口にする。
「まだ実証実験をはじめたばかりではあるのですが、思った以上に良い反響をいただいています。ご利用いただくのは観光客が多く、カーシェアで市内をぐるっと散策してみようという方が多いようです。
また、出張で訪れた方が、高山市の営業所までの移動手段として利用するというケースもあるようですね。
牛丸石油にも地元の観光協会や商工組合など各所から、ステーションを設置してほしいという問い合わせが来ているそうです。地元の介護施設から訪問介護用の車両として貸してほしいといった要望も届いています」(福地氏)

太陽光パネルによる100%再生可能エネルギーのEV

出光興産は、既に2020年の春から「オートシェア」2拠点目となる千葉県館山市での実証実験を予定している。
館山のステーションには、関連会社であるソーラーフロンティア社の太陽光パネルが設置される。加えて、ワイヤレス充電設備を実装し、より利便性を高めていくという。
EVを動かす電気の発電も再生可能エネルギーで賄うことで、文字通り「100%再生可能エネルギー」のEVを実現しようという試みだ。
「EVといっても石油燃料で発電した電気で走るのでは、カーボンフリーとはいえません。太陽光パネルで発電した電気でEVを走らすことで、自然の力のみでモビリティが実現することになります。
館山は昨年の台風で大きな被害に遭い、多くのご家庭が停電に遭われた地域。太陽光発電によるカーシェアリングサービスというアイデアは、館山市の方からも好意的なご意見をいただけています」(福地氏)

「石油の出光」から「エネルギー共創企業」へ

出光興産は「オートシェア」を展開するにあたり、他の交通機関との連携も視野に入れているという。
「MaaSは移動をシームレスにつないでいくことが重要です。しかし、それを1社だけで実現するのは難しい。行政や、航空会社、鉄道会社。そういったプレイヤーといかに協調していくかが今後の課題だと思います。
飛行機や鉄道などの一次交通に対して『オートシェア』は二次交通を担うわけですが、そこでSSという全国6500カ所のリアルな拠点を保有していることが活きてきます。
コンビニや飲食店など全国展開している店舗は他にもありますが、モビリティの拠点となる場所を全国に有しているのは、出光興産ならではの強みです。
弊社で手がける発電事業と合わせて、さまざまなご提案を多方面にしていきたいです」(福地氏)
時代の変化と共にチャレンジを試みる出光興産。最後に、これからのSSのあり方について、朝日氏は次のように語った。
「SSの次世代業態開発に取り組んでいますが、それは、これまで築いてきた燃料油事業やSSネットワークの延長にあるもの。
EV自動車はオイルフリーではありますが、メンテナンスフリーというわけではありません。お客さまに安全、安心なカーライフを提供するために、SSはこれからも重要な拠点であり続けます。
出光はそもそも、石油の会社である前にエネルギーで日本に貢献する会社。EVはこれからの時代に向けて新たに加わった、新しいSSの提供サービスです」(朝日氏)
(構成:高橋直貴、撮影:小池大介、編集:川口愛、野垣映二、デザイン:岩城ユリエ)