急がば、青年会議所。「名古屋スルー」との局地戦

2020/2/6
NewsPicksの読者は、「青年会議所」(JC)という言葉を聞いて、どんなイメージを抱くだろうか。おそらく、「中小企業の2代目、3代目のボンボンの集まり」「ビジネスマッチングを求める人たちの異業種交流会」といった印象を持つ人も少なくないだろう。

たしかにAIやビッグデータが話題となる昨今、わざわざ地域の中小企業経営者たちが月に何度も顔をあわせ活動する青年会議所は、時代にマッチしていない印象がある。決して安くない会費がかかり、研修や委員会に参加するための交通費なども自腹だ。

だがそんな「前時代的な泥くさい組織だからこそ、JCでしか得られない体験とネットワーク、そして魅力がある」と名古屋青年会議所の理事長に今年就任した光田侑司氏は語る。

いったいその魅力とは何なのか。青年会議所のリアルについて、話を聞いた。

青年会議所って、なんだ

──今年1月に、名古屋青年会議所の2020年度第70代理事長に就任されたと伺いました。光田さんが青年会議所に入られたきっかけは何だったのでしょうか?
 私が入会したのは2013年、ちょうど30歳のときでした。やはり若いときに青年会議所に入っていた父から、「10年やれば色々やれて良いJCができると思うよ」と言われたのがきっかけです。
光田侑司(みつだ・ゆうじ)えびせんべい専門店を全国展開する桂新堂株式会社の専務取締役。2013年に名古屋青年会議所に入会し、日本青年会議所常任理事等を歴任。2020年1月、名古屋青年会議所の理事長に就任し、「持続可能な名古屋をつくろう!!」をスローガンに掲げて同会議所の運動を牽引している。
──お父さんも名古屋青年会議所のメンバーだったんですね。
 はい、父は第44代理事長を務めています。実家は、慶応2年創業の桂新堂というえびせんべいを製造・販売している会社でして、私はいまそこの専務を務めています。
 幼い頃から父がJCの活動で忙しくしているのを見ていたので、自分が入るのも自然な流れと感じていました。青年会議所は20歳から40歳までしか所属できませんので、30歳で入ったのはちょうど良いタイミングだったと思います。
──ここ最近の、名古屋青年会議所の会員数の推移について教えていただけますか?
 2020年期首メンバー数は667名です。ピークは2017年で、708名でした。2000年が597名、2010年が611名(いずれも1月1日時点)だったので、少しずつ増えていますね。JCでは年に1回、全国にある支部が集まる大会を開きますが、2011年に名古屋にそれを誘致したのを機に、会員数を増やしていく方針をとっています。
──名古屋JCではこれから、どのような活動を行っていく予定でしょうか?
 JCの活動は、1年ごとに方針を決めるのが基本で、理事や各種委員会委員長などの任期もすべて1年に統一されています。今年の名古屋では、大きく「国際化対応」・「経済活性化」・「人財育成」という3つの方針のもとに活動計画を立てているところです。
 名古屋は都市ブランドイメージの調査で、日本の8都市のうち「もっとも魅力がない」という評価を連続でいただいていることはご存知ですよね?
──ニュースで見た記憶があります。
 悲しい話ですが、インバウンドの観光客の多くも、東京と関西は訪れるのですが、間にある名古屋はスルーされることが多いんですね。
 我々はその状況を変えるべく、海外の人々に名古屋の魅力を発信する活動に取り組んでいきます。具体的には、日中韓、タイ、ウズベキスタンの子どもたちを集めたサッカー大会の開催を企画しています。もっとも、新型肺炎(コロナウィルス)の影響が懸念されており、慎重に対応していきたいと思っております。
 2026年に愛知県と名古屋市の共催でアジア競技大会が開かれることが決まっていますので、その地ならし的な意味も込めて、アジアの国々とスポーツ交流を行っていく予定です。
 また、今年開催の東京オリンピックでは、名古屋がホストタウンに指定されております。
 それと並行して、姉妹提携している香港、台北、ハワイ、シドニー、マニラのJCとは、お互いの高校生を集めた交流事業を進めているところです。
──名古屋青年会議所の皆さんによる民間外交を行っていくわけですね。
 はい、ご存知のように最近は、歴史認識の問題で日本とアジアの国々の間の関係が難しくなっています。他国に対する見方が変にこりかたまってしまう前に、子どもや若い世代がきちんと自分の目で、相手の国に暮らす人々の本当の姿を見ることが大切だと考えています。

目的は「ビジネスマッチング」ではない

──もう一つの柱である「経済活性化」ではどんなことをやろうとしているのでしょうか?
 その前にお話しておきたいこととして、これはよくある青年会議所に対する誤解なんですが、我々の組織は中小企業のオーナーが会員の大多数ですが、けっして「会員のビジネスマッチング」を目的としていないんですね。
──てっきり皆さん、自社の営業につなげることを目的に入会されるんだと思っていました。
 そういう目的の方ももちろんいらっしゃいますが、基本的に青年会議所は「自分たちが会で勉強したことを会社の経営に生かして、世のため人のためになることを行う」というのが主旨なんです。
 とはいえ我々は皆、商売人ですから、もちろん自分たちの商売も大切です。日本は少子高齢化で、これからどんどん就労人口が減っていきます。そこで自分たちのビジネスの持続と社会への貢献を両立させるために、我々は「外国人、障害者、女性の雇用」に力を入れていきます。
──どういう取り組みをされるのでしょうか。
 まず外国人雇用では、単純労働ではない、ホワイトカラーの優秀な人材を名古屋市内の企業に紹介していきます。「AIに詳しい外国のエンジニアを採用したい」というニーズがあっても、中小企業の経営者には探すツテがないんですね。
 外部の人材紹介会社に頼めば非常に高くつきますし、我々が「人財プラットフォーム」となって、スキルを持つ外国人と名古屋の企業をマッチングさせることを考えています。
──障害者と女性の雇用についてはどうでしょうか。
 じつは愛知県は、全国でも障害者の雇用率がワースト2位なんです。国が障害者雇用を進めていますが、従業員数が50人以上でなければ、雇用義務はありません。
 青年会議所の会員の企業はほとんど中小ですので、障害のある方を雇っているところは少ないんです。私自身も昨年、青年会議所の障害者関連の委員会活動を通じて知ったのですが、障害があってもその人に合った働き方を提供することで、十分に企業の戦力になってくれるんですね。
 いまは最低賃金以下で、軽作業に当たる人が多い状況ですが、まずは青年会議所の会員企業から労働条件の改善も含めて、名古屋を変えていきたいと考えています。
 また女性が働けない理由の一番は、「男性が家事をしないこと」だとわかっています。JCの会員の多くは30代の子育て世代ですが、女性は6%しかおらず、ほとんど男性です。
 自分たちだけでなく自社で働く社員たちの働き方を見直し、積極的に家事に参加することを通じて、女性が働く環境を整えていくことを第一に考えています。

ここでしか得られない財産

──これからの活動の成果が楽しみです。では、ここからは光田理事長が考える、青年会議所メンバーになることの意義について伺いたいと思います。ご自身は加入されて7年目ですが、入って良かったことはズバリなんでしょうか?
 それはもう、青年会議所の活動を通じて普通に仕事をしていたら、絶対にできない体験、知りうるはずがない知識を得られることですね。
──具体的にどんな体験をされたのでしょうか?
 私は2018年度の1年間、全国のJCの連絡調整機関である「日本青年会議所」の役員をやっていたのですが、その活動のなかで、ロシア連邦のサハ共和国を訪れたのが忘れられないですね。
 そのツアーは、日本の企業を誘致したい同共和国から招聘されたもので、JCのメンバーとともに世耕弘成経済産業大臣(当時)、現在は内閣府特命担当大臣を務めておられる松山政司先輩(JCでは、卒業された元メンバーのことを、尊敬を込めて「先輩」と呼びます)も参加されました。
 サハ共和国はダイヤモンドが有名で、ロシアで流通するダイヤの99%がそこでとれます。一方、地面を少し掘ると永久凍土が出てくる極寒の土地でもあり、人口も少ないことから経済の振興に悩みを抱えています。
 いわば私たちは日本のビジネスマン代表として訪問したわけですが、JCの会員になっていなかったら、大臣とサハ共和国を訪れることなんて絶対にありえません。
──なるほど。
 また役員の就任期間には、教育や経済についての勉強会に頻繁に出席し、そこで学んだことが人間的な成長の上で大きな意味があったと思います。
 地方のえびせんべいの会社の経営者に安住したままでは思いもつかないような、大局的な考え方を身につけることができました。
 また、他の役員たちと四六時中、行動をともにし、一緒に研修を受けたり議論をしましたが、そこで育んだ彼らとの友情は、何物にも替えがたい財産になっていますね。
──本業のお仕事にも影響が出そうですね。 
 はい、役員をやっている間は、生活のほとんどがJCの活動で占められていました(笑)。
 会員になろうと考える人が心配されるかもしれないのでフォローしておきますと、必ず皆がそうということではありません。世界で一番忙しいと言われる日本JCの役員クラスになるとこういった話もあるようです、ということですね。最近は働き方改革の流れを受けて、少しずつ変わってきているようです。
──ちなみに、先程のサハ共和国のツアーは青年会議所から出張費などが出ているんですよね。
 いえ、まったく出ていません。完全に自腹です。
──なんと! それは驚きです。
 はい。名古屋青年会議所の年会費は18万5千円と決して安くない金額ですし、積極的に活動に参加しようと思えば、会費以外にも交通費や研修旅行、飲み代などの出費がかさみます。
 JCの会員は全員、先程あげたような年間活動を実施するための「委員会」のどれかに所属し、会議にはなるべく参加してもらうようにしています。
 だから基本的に青年会議所は、お金と時間の融通がきく経営者以外の人が参加するのが難しいんです。今は撤廃されたそうですが、昔は、地方都市のJCは「年収3千万円以上」を会員の条件としているところもあるという話も聞いたことがあります。

 得られるのは、カネでは買えないもの。

──入会のハードルもかなり高いし、入ってからもけっこうな時間を捧げることが求められるわけですね。しかし……、ビジネスマッチングに直結しないのであれば、そこまでして経営者が青年会議所に入るメリットは、いったい何なのでしょうか?
 それはやはり、「JC」という組織が持つ力が得られるということでしょうね。
 とくに名古屋は、ビジネスにおいて地縁、血縁がかなり重視される土地柄です。昔からのつきあいも大切にしますし、どの業種の企業も新規参入が難しいと言われているんですね。
 私は家業に入る前に名古屋銀行で5年間、営業マンとして働いていたのですが、ある難攻不落の営業先に行ったときに、先方が私の名刺を見て、「光田さん……てことは、もしかして光田先輩の息子さん?」と言うんです。
 「はい、そうです」とお伝えしたら、いくら営業してもダメだったその会社が、速攻でお金を借りてくれたという経験があります。
 その方も、父と一緒に青年会議所のメンバーをやっていた人だったんですね。
──人間関係がつながった瞬間に、ビジネスが決まったと。
 はい、青年会議所では先程ご紹介した年単位のほかに、「わんぱく相撲」などのイベントを数多く実施しています。
 そのための委員会の活動にかなりの時間がとられるのは事実ですが、毎日のように会員同士顔を合わせるうちに、「こいつは逃げないやつだな」とか「責任感があるな」とか、お互いの人間性が深いところまでわかってくるんですよ。
 だから普段は仕事の話をほとんどしなくても、何か困ったことがあれば、「それなら彼に聞けば解決してくれるよ」といった具合に、電話一本で相談しあえる本当の仲間ができるんです。
 青年会議所にはいろいろな業種の経営者の他に、弁護士や会計士、医師などもいるので、僕もよく困りごとがあったときは相談しています。

伝統ある「秘密結社」

──SNSでつながってるだけの薄い人脈でなく、地縁と濃い人間関係でつながった、ある種の「秘密結社」、「サードドア」的な組織であるところが、JCの魅力なのではないかという気がしてきました。
 実際にそういう面はありますね。名古屋でいえば、名古屋銀行の頭取、西濃運輸の会長、名古屋松坂屋の社長など、数多くの地元の名士の方が、かつてJCの会員でした。
 JCには20歳から40歳までしか所属できませんが、卒業した後でも、メンバーだった実績と交流は生き続けます。ふつうの人は会えないような大企業のトップや役員、また行政の責任者クラスの方々にも、「JCの◯◯です」と伝えればだいたい会っていただけるのは、この組織にしかない強みですね。
 あと地味に大きいのは、委員会活動を通じて「根回し」の重要性を実体験で学べることです。「誰々に会う前に、こっちの誰それさんに話を通しておけ」とか、懇親会でどの席に座ってもらうかとか、そういう極めて日本的な、古くさくて非効率なことが、大きな仕事を円滑に進めるためには本当に大事なんですよ。
──ビジネススクールなどでは教えてくれない、地域に根づいたJCならではの学びですね。
 ビジネスマッチングが目的ではない、とお話しましたが、青年会議所に加入したことによって、ビジネスを劇的に伸ばした経営者も過去に何人もいます。
 加入したときはトラック3台しか持っていなかった零細運輸会社の社長は毎回作業着で委員会に参加していたのですが、周囲の2代目、3代目社長たちと交流するなかで「負けてられるか」と発奮して、いまでは従業員50人以上に会社を成長させました。
──光田さんのお話で、青年会議所のリアルな魅力がよくわかりました。活動に一生懸命取り組む人ほど、さまざまな有形無形のメリットが得られるんでしょうね。
 はい、それは日本だけでなく海外のJCも同じですね。定年が40歳なのはどこの国も一緒ですが、お隣の韓国だけは最近、理事の話し合いで定年が45歳まで延長されたんです。どれだけJCが好きなんだ、という話ですよね(笑)。
 昨年、フィリピンのマニラ青年会議所と交流したとき、打ち上げの席で向こうの中心メンバーの一人に、「次の期の理事はやらないの?」と聞いたんです。そしたら「奥さんから『またJC?いい加減にして!』と怒られてるから無理だ」と言ってました。「どこの国も同じだね」と大笑いしましたが、それぐらいJCにはハマる魅力があります。
 仕事が忙しくて委員会になかなか参加できなくても、資料をしっかり作ったりすることで「あいつはがんばってるな」と存在感を高める会員もいます。このインタビューで関心を抱いた名古屋の若手経営者の方がいたら、ぜひ気軽に訪ねていただきたいですね。
(取材・執筆:大越裕、撮影:吉沢やまと、編集:株式会社ツドイ)