【元Netflix パティ】勝つための強いチームをつくる方法

2020/2/13
 クラウドサービスやサブスクリプションサービスが人の生活や企業のあり方を大きく変えている現在。
 日本企業のみならず、世界中の企業は不確実な時代を生き残るための抜本的な変革を求められている。
 デジタルシフトや働き方改革、組織改革、ビジネスモデル変革などさまざまなキーワードが叫ばれる中、真の経営戦略の切り札は何なのか。
 2019年12月10日(火)に東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された「Next Culture Summit」では、「大企業は企業文化を進化させ、事業を加速させられるか」をテーマにさまざまなセッションが行われた。
 基調講演には元Netflix最高人事責任者であり、シリコンバレーで生まれた最も重要な文書と名高い「NETFLIX CULTURE DECK」の共同執筆者パティ・マッコード氏が初来日。
 既存の映像コンテンツ産業を破壊し、オンラインDVD宅配サービスから時価総額15兆円というGAFAに並ぶ企業価値創造に成功したNetflixの取り組みや、いかにして強力な企業文化を形成したのかを語った内容をリポートする。
 さらに講演の後半では、企業文化を変えようと動くときに立ちはだかる壁と、Netflixがどのような人事施策でそれらの壁を取り除いたのかについてセッションを実施。
 企業の変革デザイナーとして活躍するチェンジウェーブ代表の佐々木裕子氏とディスカッションした様子もお届けする。
家族からチームへ。Netflixを躍進させたマインドセット
パティ Netflixの創業は1998年。「会社の仲間はみな家族」というアットホームな企業カルチャーを大切に、約30人の従業員と世界初のオンラインDVDレンタルサービスを開始しました。
 創業時のDVDオンライン宅配サービスは、封筒にDVDを入れて郵送するという非常に労働集約的な事業でした。
 レンタルDVDの延滞料金、送料・手数料がすべて無料というのは、当時としては画期的なビジネスモデル。
 会員数は順調に増え、従業員も創業から4年で4倍まで拡大しました。
 しかし、2000年に会員が30万人を超えた頃、ドットコム・バブル(1990年代~2000年代初期にかけてアメリカを中心に起こった、インターネット関連企業への投資の異常な高まり)が崩壊。
 約120人いた従業員の30%を解雇せざるを得なくなったのです。
 ずっと一緒に働いてきた、家族同然の仲間にさようならを言わなくてはならない。「もうNetflixは終わる」と思いました。
 Netflixが再び立ち上がるきっかけとなったのは、2001年のクリスマスのこと。
 日本や中国、韓国製のDVDプレーヤーが99ドルという手頃な価格で市場に出回り、その年の最も人気のあるクリスマスプレゼントになったんです。
 それに目をつけた私たちは、DVDプレーヤーに「Netflixを無料でお楽しみください」というクーポンをつけました。
 すると事業は急成長。業務量は2倍になり、毎日ヘトヘトになりながらも「ここからNetflixは復活する」と確信し、企業文化再構築へと動き始めました。
 再生にあたって社内で話したのは、「会社の仲間はみな家族」という企業カルチャーから「勝つためのチーム」に変わるべきだ、という話です。
 そもそも、オンラインDVDレンタルサービスを始めたきっかけは、CEOリード・ヘイスティングスが、DVD1本の滞納料金に数千円も支払うことになった悔しさからでした。
 Netflixは、映像作品を好きなだけ楽しみたいという、お客様のごく自然な欲求に応えるためにあります。
 そして、この事業を続けるためには勝ち続けなければいけない。このマインド変革がなければ、Netflixという会社はなくなっていたでしょう。
インセンティブは動機付けにならない
 マインド変革によって「勝つためのチーム作り」を進めたNetflixは、エンジニアチームが約9カ月かけてストリーミングのシステムを開発し、2007年にはコア事業をストリーミング配信サービスに移行。グローバル展開の基盤を構築しました。
 クラウド活用は今となっては当たり前ですが、当時は非常に斬新な発想でした。
 「勝つためのチーム作り」をする上で大切にしてきたのは「メンバーに権限を与える」ことです。
 一人ひとりを“プロフェッショナル”としてリスペクトし、事業成長のために何ができるのか定期的に目線合わせを繰り返しました。
 過去の成功体験や慣習に従うのではなく「もっと違うやり方があるのではないか」という指摘があれば、今まで当たり前だと思っていたことを疑っていく
 そして、チーム内で建設的に意見を出し合って、形にしていきました。
 また、それに伴って評価軸も時間をかけて確立させました。
 プロセスにかけた時間に応じて対価を支払うのは簡単なことかもしれませんが、どんなアウトプットを出したのかを見ていかないと事業成長にはつながりません。
 それぞれの役割を正確にとらえ、能力のある人が才能を発揮できる適切な環境に配置するのが人事の仕事。どんなに優秀でも、適切な場所でなければ本来の力を出せません。
 さらに、インセンティブによって従業員に動機付けをする従来の手法では、激動の時代で先端を走り続けることは不可能です。
 「こうしたらボーナスが出る」ということではなく、難しい課題にぶつかり、優秀なチームで一緒に解決に向かって前進することが何よりのインセンティブ。
 そうした考えから、Netflixはインセンティブや従業員特典、人事考査が一切なく、一人ひとりがプロフェッショナルとして挑戦し、問題解決することが報酬だと思える組織になりました。
 その結果、定額制のDVDレンタルサービスが成功を収めても満足せずに、ストリーミング配信サービス会社へ、そしてオリジナルコンテンツ制作会社へと変貌できた。
 過去の成功体験にとらわれなかったことで新しいイノベーションを起こせたのです。
イノベーションには「実験できる環境」が必要
 私は現在、人事コンサルタントとしてさまざまな企業や経営者の成長戦略に携わっています。
 テクノロジー変革が激しい今、小さなチームで機敏に動いて変化し続ける必要があり、そのためには、身の回りの小さなことから変えていくのが大切です。
 たとえばある銀行で、デジタル強化のための若手採用プランの構築を支援したときのこと。ミーティングでプランを固め、承認を得て実行しようとしたら「承認を得るためには30人のサインが必要だ」と言われたんです。
 これでは変革したくてもできない。自分たちでブレーキをかけ続けることになりますよね。
 よくNetflixで「コントロールではなくコンテクストが大事」と言っていたのですが、会社のビジョンさえ共有できていれば、人は最適で最善な決断ができます。
 どの組織のどの階層にいる人でも、どうしたら利益を上げられるのか、お客様が何を必要としているのかがわかっている状態を作れたら、社内で承認を得ることに頭を使う必要はないのです。
 また、リモートワーク導入に消極的な企業はアメリカにもあるのですが、話を聞いていると「社用の携帯電話は各自持って帰る」というケースがよくあるんですね。
 「それはすでにリモートで仕事をしているということじゃないですか?」と指摘すると、はっとした顔をされる。
 変革というと、「今までとはやり方をすべて変えて全く違うことを始める」と思われがちですが、そうではありません。
 変革を起こすには、一人ひとりが意思決定権を持って“実験”できる環境が必要です。
 一度やってうまくいかなくてもそこから学べばいい。失敗を組織に落とし込んでいけば、それが組織の筋肉になります。
 変化や失敗を恐れるのではなく、むしろ違うやり方をすればどんなアウトプットが出てくるのか、ワクワクできるチームであること。
 良い判断をするためにチームで話し合える土壌を作ることが、企業文化の変革には不可欠ではないでしょうか。
今の人材が成長して事業を担うわけではない
佐々木 企業文化の変革は日本企業においても大きな課題です。変革を進めていく上での障壁は何だと思いますか。
パティ 「今までこうしてやってきた」という伝統や前例でしょう。
 習慣として身についてきたやり方に固執せず、今の世界がどれだけ急速な変化の中にあるか、何が起きているかを柔軟に見つめることが大切です。
佐々木 Netflixでは、従業員を「家族ではなくチームとしてとらえる」ことで変革してきたとお話しされていました。家族からの脱却にはどのような壁があるのでしょうか?
チェンジウェーブ代表取締役社長 佐々木裕子氏
パティ 私たちがイメージしていたのは「勝ち続けるスポーツチーム」です。
 常勝チームが、いつも最高の選手を採用してスタメンを次々替えていくように、Netflixも会社の成功のためにハイパフォーマーを採用し、メンバーの解雇にも真剣に向き合わなくてはいけないと考えました。
 チーム作りで陥りがちなのは「今の人材」がそのまま成長して、将来の事業を担ってくれると思い込むことです。
 特に、創業期から一緒にやってきたメンバーに家族のように愛着を持っていればいるほど、パフォーマンスレベルを冷静にとらえられなくなってしまう。
 会社が成長し事業内容が変われば、必要とされるスキルも変わります
 しかし家族のように思っていると「みんなのことが大切だし、一生懸命にやっている」と、間違った評価をしてしまうのです。
 人事コンサルタントとして、経営者に「6カ月後の理想の会社のあり方」「理想のチームの状態」を問うと、多くが今の人材が持つスキルや知識の延長線上には到底ない、イノベーティブな組織をイメージします。
 それを本当に実現したいのなら、見合った優秀な人材の採用はもちろん、人材の入れ替えも必要になる。
 Netflixは最高のチーム作りのために「会社が成功するにはチームがどんな業績を上げるべきか」だけにフォーカスした採用を徹底していました。
人材面でも、目指すゴールに向けた道筋を立てる
佐々木 Netflixはピーク時に全米のインターネット帯域幅の3分の1を占めるほどでした。この素晴らしい成功体験に“現状維持”の思考にはならなかったのでしょうか。
パティ Netflixは「これを成し遂げた」と満足しない、いつもハングリーな会社です。常に先を見据え、どうすれば世界の一歩先に行けるかを考え続けている。
 現在の挑戦は、グローバル企業として日本やインド、中南米などアメリカ以外の国でいかにカルチャーを浸透させていくかです。
 文化とは「完成」しないものですし、「自由で責任を与えられる文化を作りたい」と思うのであれば、毎日その理想に向けて歩み続けなければいけません。
佐々木 目指すゴールを設定し続け、そこに向かう道筋を立てていくのですね。
パティ そうです。人事戦略に基づくカルチャーづくりは、プロダクトづくりと似ているところがあります。
 Netflixがストリーミング配信事業に舵を切る5年前、私たちは「こういうDVDがあればみんな見るのではないか」「エンターテインメントを消費する方法を変えたらどうだろうか」といった話をしていました。
 当時、それらを実現させるテクノロジーは存在していませんでしたが、「あり方」の理想を描いて、そのために何が必要かという逆算で動き始めた。
 人材採用においても、今いる地点と、向かいたい地点を比べ、そこに到達するために必要なものを逆算して取りに行くことが大切です。
無関心が業績悪化を一気に招く
佐々木 優秀な人であればあるほど、採用競合は多くなります。Netflixが最高の人材獲得に成功できてきた秘訣はなんでしょうか。
パティ チーム作りと人材管理に関する方針が明確だったことでしょう。
 Netflixは常にGoogleと比較され、採用競合になることもよくありました。でも、Googleとは事業拡大の方法が根本的に違います。
 Googleは「世界中の情報を整理し、世界の問題を解決する」という壮大な使命を持っているため、自由なイノベーションを生み出すための最適な環境に、多くの人材を置いておく必要があります。
 一方、Netflixは「映像コンテンツ」という1プロダクトで、お客様を楽しませるための必要なスキルと経験を持つ人材が必要で、人数が重要ではない。
 だから「現時点で力を発揮できるかどうか」にフォーカスしてきました。
佐々木 方針を示すことはトップの役割だと思うのですが、企業のカルチャー変革は、トップダウンとボトムアップ、どちらが良いとお考えですか。
パティ 両方必要でしょうね。Netflixでは全従業員に対して「徹底的に正直である」ことを常に求めていました。
 優れたチームとは、会社がどこに向かっているのかを全員が知っていることだと考え、事業に関する問題はトップから全員に伝え、目標達成までの期限や評価指標、ゴールに向けて必要なことは何か、明確に説明していました。
 また、率直さは双方向でなければ意味がなく、必ずしも経営陣や上司の言うことが正しいとは限りません。
 だから従業員にも、言いたいことを直接相手に言う姿勢を求め続けました。
 一番避けたいのは「問題に気づいていたけれど、聞かれないから黙っていた」という事態です。変化の激しい時代の中では、その小さな積み重ねがあっという間に業績悪化を招いてしまうでしょう。
 そうした文化をつくるために行ったユニークな改革の一つが「有給休暇を廃止し、従業員の裁量で妥当だと思うだけの休暇を上司に相談する」としたことでした。
 提案した当初、誰もが「そんなことをしたらみんな仕事をしなくなる」と反対しました。
 でも、実際はホリデーシーズンに1~2週間の休みを取るだけで、それまでとほとんど変わらなかった。
 従業員を信頼し、正直であることを求め、自由と責任を与えて時間を管理させれば、みんな自分のパフォーマンスを発揮しようと自主的に動くようになるのです。
佐々木 なるほど。インセンティブが動機付けにはならない、というお話と共通しますね。
パティ とはいえ、Netflixのカルチャー変革がどんな組織にも合うとは決して思っていません。
 ただ、チーム作りや人材に対しての考え方で、日本企業の経営者や人事の方に何かヒントになればうれしいですね。
(編集:田村朋美、文:田中瑠子、写真:小池大介、デザイン:村木淳之介)