【解説】大企業病・パナにも効く「イノベーションの処方箋」

2020/1/22
8兆円の老舗企業パナソニックを変えるのは、数千万円規模、つまり売上高全体の0.001%でしかない小さなビジネスかもしれない。
イノベーションとは、得てしてこうしたものだ。今は事業とさえ呼べないほどの小さなビジネスが、いつか既存の巨大なビジネスを打ちのめす日が来る。
そんな破壊的可能性を秘めるのが、カメラ搭載の端末を使ってデータビジネスする、「Vieureka(ビューレカ)」だ。
これを使えば、アマゾンや中国アリババが狙っている未来型リアル店舗の世界に、簡単に近づけられる。しかも、パナソニックは端末を売るのではなく、店舗で得たデータをビール会社などに広く売って稼ごうとしている。
パナソニックは今、試練の時を迎えている。
半導体、液晶パネル、太陽電池など、あらゆるデバイスを対象に事業整理に乗りだしているのだ。競争力を失った製品を売るのではなく、サービスで稼ぐというビジネスの変革がライバルより遅れた。そのツケを払っている。
津賀一宏社長も、「モノ売りからコト売りに変わらないと、未来はない」と危機感を隠さない。
NewsPicks編集部は、そんな大企業病パナにあって、希望の星とも呼べるビューレカ事業に着目。ビジネスイノベーション本部、PaN/VieurekaプロジェクトCEOの宮崎秋弘氏に直撃し、「イノベーションの教科書」とも呼ぶべき、変革の最前線に迫った。

①リアル店舗をeコマース化する

札幌市に本拠を置くドラッグストアチェーン店「サツドラ(サッポロドラッグストアー)」では、約100台の四角い形のカメラが設置されている。これが、ビューレカのセンシングカメラだ。
カメラ映像を使って、人の顔を分析し、「20代女性」、「30代男性」といった「属性」に分けている。そうすることで、「来客人数」、「性別」、「推定年齢」、「滞在時間」などをデータ化し、分析できるようにする。
例えば、お菓子コーナーに40代の女性が想定以上に多く訪れていた、そんな発見があるという。
これはeコマースでは当たり前にできていることだ。だが、リアル店舗では、導入費用が高いこともあり、大手小売チェーンを除けば導入が進んでいない。それが実情だ。
あのドンキホーテが密かに警戒する「異端児」こと、九州発の小売テック企業「TRIAL(トライアル)」でも、このビューレカが活躍している。
ただ、同様のシステムなら、ほかにもある。
ビューレカの違いは、性別や年齢といった属性の分析を、「端末内で処理」する点にある。いわゆるエッジコンピューティングだ。
映像データは保存せずに消す。属性情報だけをアマゾンのクラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」上のデータベースに送る仕組みだ。

②属性情報の「価値」

「個人情報」が世間を騒がせている。個人を特定できてしまう個人情報は、情報漏洩という極めて深刻な問題を起こすリスクを伴う。しかも、本人の同意なく第三者に提供することができない。
その点、性別や年齢層といった属性情報であれば、個人を特定されにくいため、第三者提供がしやすくなる。
加えて、個人情報である顔の映像を属性情報に変換するというのは、「究極のデータ圧縮」手段でもある。データ量が1万分の1に減るのだ。
データの通信と保存にかかる費用を劇的に減らせるので、中小企業も導入しやすいのだ。