【新】「やりたいことがわからない」人のためのキャリア講座

2020/1/10
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントを紹介する連載「The Prophet」。今回登場するのは、Yahoo!アカデミア学長で、ベストセラー『1分で話せ』(SBクリエイティブ)などで知られる伊藤羊一氏だ。
最強の「プレゼンの教科書」として30万部を超えるヒットになった『1分で話せ』に続き、伊藤氏が昨年末に上梓(じょうし)した待望の新刊は「キャリア論」がテーマ。そのタイトルもずばり『やりたいことなんて、なくていい。』(PHP研究所)である。
現在、リーダーシップ開発とプレゼンテーションの専門家として年間300回もの講演を行うなど、精力的な活動で知られる伊藤氏だが、社会人になりたての頃は「やりたいことなんて何ひとつなかった」と話す。「リーダーシップ」という言葉自体、伊藤氏の人生に入り込んできたのは40歳をすぎてからだという。
何事にもビジョンが求められる今の時代、「やりたいことがない」のをコンプレックスに感じている人も少なくないだろう。そんな「普通」の人が、自分の可能性を最大化するための極意を伊藤氏に聞いた。
伊藤羊一(いとう・よういち)
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリストYahoo!アカデミア学長。株式会社ウェイウェイ代表取締役。東京大学経済学部卒。グロービス・オリジナル・MBAプログラム(GDBA)修了。1990年に日本興業銀行入行、2003年プラス株式会社に転じ、2011年より執行役員マーケティング本部長、2012年より同ヴァイスプレジデントとして事業全般を統括。2015年4月にヤフー株式会社に転じ、次世代リーダー育成を行う。グロービス経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教壇に立つほか、多くの大手企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。著書に、『1分で話せ』『0秒で動け』(ともにSBクリエイティブ)がある。

最初は「やりたいこと」なんてない

──「人生、やりたいことを明確に定めて、それに向かって邁進(まいしん)していかねばならない」というような強迫観念にとらわれている人は多いかもしれません。
伊藤 自分もそうでした。でも、そんな強迫観念を持っていても、うまくいくわけがない
世の成功者って、最初からやりたいことが決まっているというイメージがありますよね。でも、よく考えてみると、ジャック・マーだって最初は先生だったわけですよ。最初からアリババがどうとか言っていたわけじゃない。
つまり「やっていくうちにできてくるものが大きい」のです。
ジャック・マー(Wang HE/Getty Images)
ただ、僕なんかもいろいろ仕事が面白くなってくると、今の状態がいいからということで、「こうなろうよ」と、ショートカットして語ってしまう部分があるんです。
そうなると、志を立てて、ミッション・ビジョン・バリューみたいなことを考えて行動しよう、みたいなメッセージになりがちです。
でも、「俺、最初からそんなこと考えてたか?」という話ですよ。
──成功した人々が、必ずしも計画的にキャリアを築いてきたわけではない。
物事を計画してやりましょうというのが成り立つのは、夏休みの宿題にしても、職場の業務にしても、他人が定めたゴールがある場合です。
でも、何のゴールもない場合は、計画の立てようがありません。
自分でゴールを設定するにも、何が自分に向いているのかといった判断の材料が何もないのにゴールを決めろと言っても無理な話です。
ならば、そこでモヤモヤするより、まずは自分の経験値をためるのが何より大事。目の前の仕事に、一度全力でぶつかってみろ!と。そうするうちに、見えてくるものがある。
それが、今一番伝えたいメッセージです。

「鍋」のイメージで経験をためる