【厳選5冊】日本人には書けない「翻訳書」を読め

2020/1/10
マイケル・サンデル『これからの正義の話をしよう』、トーマス・ラッポルト『ピーター・ティール』──。
日本でヒットする数々の洋書を手掛けてきた翻訳本編集者・富川直泰は、いかにして世界中からキラリと光る本を見つけ出し、日本に紹介してきたのか。
あなたの知らない、魅力的な「洋書の世界」へ誘おう。
富川直泰(とみかわ・なおやす)
NewsPicksパブリッシング副編集長。国際基督教大学教養学部卒業、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会人類学)。早川書房および飛鳥新社で海外ノンフィクション書籍の編集に従事したのち、2019年4月から現職。

僕が「洋書」に惹かれた理由

10年以上、翻訳書の編集者としてキャリアを積んできました。かつて日本人著者の方の本も数冊担当しましたが、今では手がける本はほぼ洋書一本に絞っています。
というのも、やや乱暴な言い方ですが、洋書の世界には「日本人には書けないもの」がたくさん転がっているからです。
例えば、科学者として自身の専門分野で業績を上げつつ、哲学や歴史といった畑違いの異分野にも、深く精通している。
あるいは、そもそも「専門分野」が、文系・理系を問わずいくつもの分野にまたがっている。
そして、「人間とは何か」「世界はなぜこうなっているのか」といった、総合的なテーマを論じる。
そんな著者が、世界には多数存在します。
ジャレド・ダイアモンド(進化生物学者)『銃・病原菌・鉄』『文明崩壊
ユヴァル・ノア・ハラリ(歴史学者)『サピエンス全史』『ホモ・デウス
リチャード・ドーキンス(動物行動学者)『利己的な遺伝子』『神は妄想である
ニコラス・クリスタキス(ネットワーク科学者)『つながり』『BLUEPRINT』……
進化生物学者のジャレド・ダイアモンド氏(写真:Kiyoshi Ota/Bloomberg via Getty Images)
彼らに共通するのは、自らの専門領域にとどまらず、驚くほど多様な「異分野の知見」を駆使して、人間と世界の「本質」について大きな絵を描くことです。
そこには総合格闘技的な面白さと、自分の視野の狭さが恥ずかしくなるほど、大きく開けた景色があるのです。
日本人で、こうした総合格闘技的な本を書く人は、あまり多くない気がします(僕の発掘力の問題かもしれませんが)。
日本人の場合、鳥の専門家が鳥の生態について、一般読者向けに魅力的に書くことはできる。けれど、異分野の知見を総動員したインサイトを発信することは、ほとんどありません。
むしろ、1つのトピックを掘り下げていくことを得意としている方が多い。
それに対して、多くの海外のアカデミシャンやジャーナリストたちは、積極的に大局的に語ろうとします。
僕が数ある洋書の中から、どの本を日本に翻訳紹介するかの基準も、こうした「日本人には書けないもの」というのが、最初の条件です。

サンデル、リドレー、パリサーの魅力

では、具体的に「日本人には書けないもの」とは、どんな本か。