Katharine Houreld

[ナイロビ/アジスアベバ 23日 ロイター] - 3月10日にケニア行きのエチオピア航空ボーイング機が墜落し、乗員乗客157人全員が死亡した事故の後、遺族は、米国の法律事務所関係者を名乗る見知らぬ人物からの電話や訪問を受けるようになった。

彼らは呼ばれもしないのに、涙に暮れる親族を訪ねて葬儀場や自宅に現われた。勧誘の電話をかけ、パンフレットを送りつける。

妻を亡くして哀しみに沈む男性に、会ってくれれば謝礼を出すと言ってきた例もあった。また、法律事務所の仕事をしていることは明かさずにカウンセリングを持ちかけてくるケースや、精神的支援のためのグループを創設しようと言ってくるケースもあった。

ロイターが37人の犠牲者遺族・代理人に取材したところ、そのうち31人が、米国の法律事務所関係者を名乗る人物による不適切なアプローチへの不満や苦情を訴えた。

法曹界の倫理規範に詳しい複数の専門家によれば、いくつかの例で見られた振る舞いは、教唆や欺瞞的な行為を禁じる米国の法令のもとで、違法又は非倫理的とされかねないという。

エチオピア航空墜落事故で特に積極的に動いていた法律事務所は、シカゴのリベック・ロー・チャータード、グローバル・エイビエーション・ロー・グループ(GALG)、テキサスのウィザースプーン・ロー・グループとラムジ・ロー・グループ、ミシシッピのウィーラー&フランクス・ロー・ファームPC、イーブス・ロー・ファームだ。

ロイターの問い合わせに対し、ウィザースプーンとウィーラー、イーブス、ラムジは、何も不正はないと回答。リベックとGALGからは回答を得られなかった。

このうちリベックとGALGは合同で、ボーイング相手に訴訟を2件起こし、具体的な請求の額は示さずに「法に基づいて可能なあらゆる損害賠償」を求めている。ラムジが提起した3件の訴訟は棄却された。その他の法律事務所は1件も訴訟を起こしていない。

シカゴ連邦裁判所では12月19日までに、ボーイングを相手取って事故犠牲者112人を原告とする訴訟が114件起きている。原告側主任弁護人のロバート・クリフォード氏が明らかにした。原告側の代理を務める法律事務所は40社近くに及ぶ。公判の日程はまだ設定されていない。

ボーイングはロイターの問い合わせに対し、「捜査当局に全面的に協力している」とコメント。安全は最優先事項だとした。

2018年10月にインドネシアで犠牲者189人を出したライオンエア機墜落事故と、その5カ月後に発生したエチオピア航空機墜落事故では、737MAXのソフトウエアが操縦士に不十分な情報しか提供していなかったエラーが絡んでいるものと見られている。だがボーイングは、これまでのところ、同機種の開発手法に問題があったことを認めていない。現在、737MAXの運航は中止されている。

ボーイングは訴訟についてのコメントを避けた。

<招かれざる客>

ケニアにあるポール・ンジョロゲさんの自宅に、招かれざる客が訪れたのは、エチオピア航空機墜落事故で亡くなった妻、3人の幼い子ども、義母の葬儀を終えた数時間後だった。

ンジョロゲさんによれば、その客は、法律事務所ウィーラー&フランクスの宣伝パンフレットを彼に渡したという。

ンジョロゲさんはロイターに対し、「私は相手に『誰の指示で来たのか。ここでは今、誰もが祈っている』と言ってやった」と話す。

他にも2組の遺族が、葬儀の前後にウィーラー&フランクスの弁護士や、その代理を名乗る人物の訪問を受けたと話している。

1998年のケニアにおける米大使館爆破事件で負傷した際にウィーラー&フランクスによる弁護を受けたジェームス・ンデダ氏は、ンジョロゲさんのもとを訪れたと話す。ンデダ氏によれば、同社の経営パートナーであるビル・ウィーラー氏とジェイミー・フランクス氏から、エチオピア航空機墜落事故の遺族との接触を手伝うよう依頼されたという。ウィーラー氏からは、彼の法律事務所と、ミシシッピのもう1社、イーブス・ロー・ファームの概要を伝える資料が送られてきた。

ンデダ氏は、自ら犠牲者遺族のもとを訪れたこともあれば、従業員を派遣したり、ビル・ウィーラー氏やジェイミー・フランクス氏、あるいはイーブスの調査員レオ・ジャクソン氏と同行したこともあると話している。ジャクソン氏はコメントを拒んでいる。

ウィーラー&フランクスとイーブスは共同で電子メールで回答し、先方から呼ばれた場合にのみ遺族と面会している、とした。

「伝えられた話は完全に間違っている」、「我々は先方から呼ばれなければ、遺族に接触することはない」としている。

<多くの提案>

エチオピア人のベイイヘ・デミシエさんは、客室乗務員の妻エルザベートさんを事故で失った。ベイイヘさんはロイターに対し、事故から3日後に、ウィザースプーン・ロー・グループを名乗る男の訪問を受けたと語った。だがベイイヘさんは気が動転しており、話もできなかったという。

その後2─3ヶ月にわたり、30社以上もの企業を名乗る人々が彼に接触してきた、とベイイヘさんは語る。ウィザースプーンの関係者も再訪、GALGの名もあったという。補償問題に関する訪問が続いたことで、妻の死が金になると示唆されたように感じて辛かった、とベイイヘさんは言う。

<拒否されたアプローチ>

8月、あるケニア人遺族のもとに、ミフレット・ギルマと名乗る女性からのメッセージが届いた。グリーフ・カウンセラーとケニア法曹協会との会合への出席を勧める内容だ。

このとき彼女は、自分とGALGやリベックとの関係を明らかにしていなかった、と遺族はミフレット氏からのメッセージを示しつつ語った。

ロイターが閲覧したほかのメッセージによれば、ミフレット氏は、メッセージングアプリ「ワッツアップ」上で、GALGのスタッフや米国人弁護士マニュエル・リベック氏、モニカ・リベック・ケリー氏を含むグループに参加していた。多くのメッセージから、GALGのスタッフやリベック夫妻が遺族に近づく方法について協議していたことが読み取れる。

イリノイ州懲戒委員会は、モニカ・リベック氏が2014年に、すでに契約を解除していた人物の名義で航空機事故に関する訴訟を起こしたとして非難決議をしている。

同委員会は2015年、マレーシア航空370便が行方不明になった事故に関する証拠開示手続について根拠なき訴訟を提起したとして、モニカ・リベック氏を60日間の資格停止とする勧告を行った。ただしこの処分は、再審理の結果、撤回されている。

ロイターが閲覧したGALGとリベック夫妻の間のメッセージによれば、リベック夫妻は今年、新会社としてGALGを設立した。複数の遺族が提供したメッセージや電子メールからは、GALGがクライアントをリベック夫妻に紹介していたことが明らかになった。

GALGがウェブサイトを開設したのは、事故からわずか18日後の3月28日であり、イリノイ州で会社定款を提出したのは4月24日のことだ。

姉と甥を事故で亡くしたエイモス・ムビチャさんは、GALGを含む10社以上の法律事務所が遺族と接触するのを手伝ったという。だが彼は10月にGALGへの協力をやめた。彼が制止したにもかかわらず、GALGがある犠牲者の親族に接触しようとしたからだ。

ロイターはリベック夫妻とGALGにコメントを求めたが、どちらも回答がなかった。

ロイターが取材した家族の多くは、こうした売り込みを相手にしなかったと言うが、たいていは、自分自身で調べた後に弁護士を雇うことになった。

自身がケニアの弁護士であり、事故で弟のジョージさんを失ったトム・カバウさんは、「すべての弁護士が悪徳というわけではない。もしそうだったら、ボーイングが勝つことになる。我々が必要なのは、正義を実現してくれるような弁護士だ」と話す。

彼の家族は、フセイン・ロー・アンド・アソシエイツ、ウィズナー・ロー・ファームの2社と契約した。

<巨額の報酬の可能性も>

弁護士が航空機事故の犠牲者を代理し、米国の裁判所で訴訟に勝つ、あるいは和解に達する場合、賠償金に応じて高額の報酬を得られる可能性がある。

事故が航空会社の過失によるものではない場合、会社側が負担する賠償額には上限が設けられる。だが、航空機メーカーに関しては上限がないため、ボーイングに対する訴訟は、弁護士にとって大きな稼ぎになりうる。

この種の事故における原告側弁護士は、通常、着手金を取らない代わりに、和解金や賠償金の少なくとも20%を受け取る。遺族らによれば、エチオピア航空機事故においても、こうした標準的な慣例に沿っているという。

一部法律事務所の積極的なアプローチ以外にも、エチオピア航空機事故においては、ある弁護士が、遺族との接触に対して報酬を提示している。

前出の遺族のイイヘさんによると、、テキサス州のラムジ・ロー・グループの弁護士アダム・ラムジ氏が7月13日、ベイイヘさんに宛てて20分間に6回もメッセージを送り、面会してくれれば現金で謝礼を払うと申し出た。これは同氏のテキストメッセージの記録でも裏付けられた。

「15分お時間を頂ければ100ドル差し上げます」と、ラムジ氏は書いている。

ベイイヘさんはその後、シカゴのクリフォード・ロー・オフィシズを通じて訴訟を起こした。売り込みを掛けてこなかった弁護士を意図的に選んだという。

ラムジ・ロー・グループはシカゴで3件の訴訟を起こしたが、裁判官はそのうち2件を棄却した。遺族が、訴訟の原告とされている遺産「管理人」が見知らぬ人物だと申し出たためである。3件目の訴訟も、犠牲者とされる名前が搭乗記録にないとして棄却された。

この記事を配信した後、ラムジ氏は不適切な行為はなかったと主張するメールを送ってきた(ロイターはラムジ氏の主張を盛り込み記事を再配信した)。同氏は、彼の会社が応対した個人はすべて、先方から接触してきたか、広告に反応したケースだという。

ラムジ氏は「(場合によっては)貧困層のクライアントに交通費を提供する例があった」と述べている。

棄却された訴訟について尋ねたところ、ラムジ氏は「別人が犠牲者遺族を装ったものだ」として、「どのような仕事でも、こうした徒労は普通に見られる」と述べている。

<不足するリソース>

米国の各州では、倫理規定により弁護士やその代理人が電話や直接の面会による契約勧誘を行うことを禁じており、ほとんどの場合は、期間の限定はない。

また、弁護士がクライアントになりそうな相手に金品を提供することは禁じられている。

さらに、弁護士が45日以内に犠牲者遺族に接触することを禁じる米連邦法もある。ただし、法律専門家2人によれば、この規定は米国における航空機事故に限定されるように思われるという。

本記事で紹介した事例について、ミシシッピ州法曹協会で利用者支援プログラム担当ディレクターを務めるロバート・グレン・ワドル弁護士に問い合わせたが、コメントを拒否した。イリノイ州法曹協会の懲戒委員会で広報担当者を務めるスティーブン・スプリット氏、テキサス州懲戒委員会の広報担当者もコメントを拒んでいる。

イリノイ州法曹協会の懲戒委員会で副局長・主任弁護士を務めていたことのあるジム・グローガン氏によれば、米国の懲戒委員会には、海外からの苦情を調査するだけのリソースが不足している場合が多いという。

「特に海外では、法律事務所関係者の行動をめぐるグレーゾーンが非常に多い」とグローガン氏は言う。

(翻訳:エァクレーレン)