体内時計に合わせた生活が、高パフォーマンスへの近道になる
株式会社ヤクルト本社 | NewsPicks Brand Design
2020/1/17
働き方改革が浸透した今、私たちビジネスパーソンは、短時間で最高のパフォーマンスを出すことを求められている。しかし、ある調査によれば、「(心身の不調により)最高のパフォーマンスを出せていない人」の割合は約4割と、現実とは大きな乖離があるようだ。
では、最高のパフォーマンスを実現するために必要な「最高の体調」は、どうすれば得られるのか。その名も『最高の体調』などの著書を持つ、サイエンスライターの鈴木祐氏にインタビューを行った。
では、最高のパフォーマンスを実現するために必要な「最高の体調」は、どうすれば得られるのか。その名も『最高の体調』などの著書を持つ、サイエンスライターの鈴木祐氏にインタビューを行った。
「最高の体調」とは何か
ここに、「全体の約4割の人が半年以上続く慢性的な疲労に悩んでいる」という衝撃的なデータがあります。私たちは今、働き方改革などの影響もあり、短時間で最高のパフォーマンスを出すことを求められていますが、全員がそれを実行できるコンディションにはないということです。
なぜそうなるのか。メンタルも含めた体調の良し悪しには、非常に多くのことが影響するので、原因をひとつに絞り込むことはできません。ですが、多くの人に共通するのが「慢性炎症」です。
炎症は、体が外敵や死んでしまった自分の細胞を取り除いて自分を守ろう、何かを治そうとする正常な免疫反応です。
一般的に知られるのは、ケガや細菌・ウイルスへの感染により、発熱、痛み、赤み、腫れが発現する「急性炎症」ですが、慢性炎症はそういった症状を示さないまま、体の内部で絶えずボヤが起きているようなイメージ。
慢性炎症が起きていると、体のさまざまな機能のリソースがそちらに食われてしまうので、当然パフォーマンスは上がりません。また、炎症をそれ以上広げないように、周辺組織を壊す動きをするので、体に変調をきたします。
その原因は、バランスの悪い食事による栄養不足や、睡眠不足、運動不足など、悪しき生活習慣とも言うべき、つまりは「誰でも身に覚えがある」ものばかりです。
僕は『最高の体調』という本を書いていますが、そこでいう「最高」とは、朝目が覚めた瞬間から体中に力がみなぎっていて、いくら動いても疲れなくて、仕事をすればものすごく生産性が高い、といったスーパーマンのような状態を指しているのではありません。
最高の体調とは、端的に言えばムダな不調がない状態。
普通に生活していれば、隣の席の人から風邪をうつされたり、突発的な頭痛に悩まされたりすることもあるでしょう。ですが、バランスのいい食事をして、意識して睡眠時間を確保していれば、慢性的な疲れなどのムダな不調は防げる。
最高のパフォーマンスを出そうという話になると、作業の圧縮方法を学んだり、集中力を高めるための工夫をしたり、テクニカルな努力をしはじめる人が多いのですが、そんなことをする前に、まずは不調や不調の原因を取り除き、最高のパフォーマンスを出せる「ベース」を整えよう。
これが僕が一番伝えたいメッセージです。
あなたは朝型? 不眠型? クロノタイプ診断
そもそも、僕が健康に真剣に取り組みはじめたのは、自分の体調がボロボロだった時期があるからです。先ほど「まずベースを整えるべきだ」なんて言いましたが、僕自身が忙しくて、睡眠不足で運動不足で、今より20キロくらい太っていたし、よく風邪も引いていました。
でも、仕事を休むわけにはいかないから、エナジードリンクやサプリを飲んで、つまりは楽をして乗り切ることを考えていたんです。
普通の人が考えうるおよそすべての「楽なパフォーマンスUP術」は試した自信がありますが(笑)、全部やってみたうえで言えるのは、どれも効果は一時的だということです。
エナジードリンクを飲めばその晩はテンション高く乗り切れるけど、翌日以降にどっと疲れが出る。どんなに集中力を高める工夫をしても、体調を崩せばすべての予定が瓦解してしまう。
結局、最高のパフォーマンスを出すためには、悪い習慣を断ち切り、良い習慣を続けることで、最高の体調を維持するしかない、という結論にたどり着きました。
では、実際に僕がどのような生活をしているのか。
僕は、「クロノタイプ=生まれつき備わっている体内時計のパターン」に合わせて生活をしています。
世の中的には「朝型がよい」という風潮が強いけれど、実はそうではない。朝がもっとも活動的になれる人もいれば、夜になってパフォーマンスが最高潮に達する人もいるのです。
クロノタイプのわけ方にはいくつかの流派がありますが、僕の場合は朝型、昼型、夜型、不眠型と大きく4つにわけるバージョンを使っています。まずはこれで自分がどのタイプなのかを診断してみましょう。
起床時間、就寝時間、運動する時間、仕事をする時間、食事を摂る時間など、すべてクロノタイプごとに最適な時間が違います。自分のクロノタイプがわかったら、それに従って生活リズムを最適化すること。
僕自身は昼型だということがわかったので、それに従って生活しています。本当は狩猟採集をしていた時代のように、日が沈んだら眠りたいくらいなのですが、それをすると、さすがに仕事が滞って社会生活に差し支える(苦笑)。
今は23時半くらいに寝て、7時くらいに起きるルーチンが定着しました。
クロノタイプに合わせて生活してみると、2週間ほどで体調がよくなったり、仕事の効率が上がったり、さまざまな成果が実感できるはずです。
ベッドで「寝る」以外のことをしていないか
クロノタイプに従って生活するコツは、最初に就寝時間を決めて、睡眠時間をキープすること。多くの人が家でも仕事ができるから、いつまでも仕事をしてしまうし、スマホがあって、面白いコンテンツも無限にあれば、どんどん寝る時間は遅くなってしまう。
また、スマホやPCを見ていると、交感神経が刺激されて、「寝る=副交感神経」モードに切り替えにくい。すると、いざ寝ようと思ったときに脳が高ぶって眠れないんですよ。厚生労働省の調査で、「日本人の5人に1人は睡眠に問題を抱えている」という結果も出ています。
睡眠不足でパフォーマンスが上がらないのは感覚的にもわかると思いますが、慢性的な睡眠の問題は心にも体にも影響し、さまざまな不調の原因になります。そのため、僕も「良質な睡眠」のためにいくつかの工夫をしています。
先ほどの、交感神経から副交感神経への切り替えをスムーズにするために、就寝時間の最低30分前にはすべてのコンテンツを遮断。また、寝るときは電気を消し、遮光カーテンを引いて、真っ暗な環境を作ることにしています。
というのも、ブルーライトを感知すると、人間の脳は昼間だと認識し、メラトニン(睡眠ホルモン)の分泌が阻害されるので、結果として眠りにくくなります。ブルーライトというと、PCやスマホを思い浮かべる人が多いと思いますが、テレビや照明器具、太陽光にも含まれているのです。
僕は21時頃になると、ブルーライトを90%程度カットする「オレンジグラス」をかけて入眠準備をはじめます。さすがに普通の人は、ここまでやる必要はありませんが(苦笑)。
室内の二酸化炭素濃度もウォッチしています。特に寒い時期は部屋を閉め切っていることも多いと思いますが、二酸化炭素濃度が高いと脳に酸素が行き届かず、集中力が落ちたり眠くなったりすることがわかっています。
と聞くと、眠るためには悪いことではないように思われるかもしれませんが、酸素が足りない状態では、良質な眠りは得られません。
二酸化炭素濃度を測る必要はありませんが、集中力を保つためにも、良質な眠りを得るためにも、定期的に換気をすること。10分ほど窓を開けておくだけで、二酸化炭素濃度は正常に戻ります。
そもそも「なかなか眠れない」という悩みがある人は、普段の生活を振り返ってみてください。ベッドに腰掛けて仕事をしていたり、寝転んでスマホゲームをしていたりはしないでしょうか。
人間の脳は勝手に学習してしまうので、普段からベッドで「寝る」以外のことをしていると、ベッドに入ってもなかなか眠れなくなってしまいます。
同じ理由で、しばらくベッドに横たわっていても眠れないときは、一度ベッドから出ることをおすすめします。「ベッド=眠れない場所」と脳が覚えてしまう前に起き上がって、別の場所で過ごしてみる。そうして、眠くなってからもう一度ベッドに入る。
これらのことを習慣にするだけで、眠りの質は必ず上がっていきます。
睡眠にまさる疲労回復はない
このように僕が睡眠を重視するのは、究極的には睡眠にまさる疲労回復はないからです。疲労感は間違いなく「不調」のひとつ。慢性的に疲労感が残った状態が続けば、確実にパフォーマンスは落ちていきます
ベッドに体を横たえていても、休まるのは体だけ。遊んで気持ちをリフレッシュさせても、遊びと仕事は脳にとっては同じ交感神経優位の「緊張」した状態ですから、休んだことにはなりません。
あるデータによると、仕事はしていなくても、勤め先に「就業後でも仕事のメール返信はすべきだ」という文化があるだけで、働いている本人の脳は常に「緊張」した状態になり、強いストレスがかかるそうです。
逆に言えば、日中どんなにハードに仕事をこなしていても、睡眠時間さえ確保できれば疲労をリセットして、なんとか乗り切ることができるでしょう。
そこにクロノタイプを組み合わせ、集中力が高まる時間帯に集中力が必要な作業を、集中力が落ちた時間帯に、比較的軽い作業を、と作業時間を割り振れば、いつもより短い時間で高いパフォーマンスを発揮することができます。
これは僕独自の計測方法なのでみなさんに当てはまるかはわかりませんが、この生活をはじめてから、書ける原稿量が10%程度増えました。
大切なことなのでもう一度言いますが、まずは不調や不調の原因を取り除き、自分の「ベース」を整えること。2020年こそ、自分史上「最高の体調」で最高のパフォーマンスを目指してください。
(取材・文:大高志帆 撮影:加藤ゆき デザイン:國弘朋佳)
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