【とにかく早く降りたい】ホリエモンが「タクシー配車アプリ」に求めること

2019/12/20
 都内タクシー5社とソニーによる合弁会社みんなのタクシーが運営する、東京最大級のタクシーアプリ「S.RIDE」が、国内タクシー配車サービスアプリ初として「事前確定運賃サービス」を開始。

 タクシーの乗車する前に乗車予定地と目的地を入力すると、地図上の走行距離をふまえて自動計算で運賃が確定。これで渋滞や迂回路により運賃が高くなる不安を抱いたり、到着までメーターを気にする必要もない。

 今回は堀江貴文氏にHORIEONEの収録後、東京駅から六本木駅まで実際にサービスを使用してもらった。都内だけではなく地方でも頻繁にタクシーを利用する堀江氏にとって、S.RIDEのサービスを始めタクシー配車アプリや決済機能はどのように映っているのだろうか。

 また、そんな堀江氏のコメントに応える形で、みんなのタクシー社の西浦賢治社長にもサービス開始から今に至るまで、そして今後の展望についてお話を伺った。

重要なのは支払いとウォレットが紐付いていること

 タクシーの運賃が事前に確定することについては、堀江氏はこう語る。
堀江 僕は運賃の額は気にしないので、正直そこはどうでもいいんですよね。どちらかというと、ウォレットと紐付いていることの方が重要。たとえばUberとかって、事前にウォレットが登録されているから支払いの時間が必要ない。
 このS.RIDEウォレットも事前に口座情報などを登録しておけば、あとは車内でQRコードを読み込むだけだから、めちゃくちゃスムーズ。着いたら降りるだけ。それがいいですよね。
 あと、東京はタクシーが多いから、たとえば未来のことを考えると、流しのタクシーでも僕のスマホを乗るときに勝手に認識してくれて決済を確定してくれるようなサービスがあったら良いなと思うんですよね。とにかく乗り降りの無駄を省いて欲しい。

降りるまでがとにかく早い、それが良い

 以前からタクシーのヘビーユーザーであった堀江氏は、直接ウォレットから決済がされていなかった時代の決済事情についてこう振り返る。
堀江 電子マネー一択でしたね。ただ、当時は運転手さんが小さな液晶端末で支払い方法を選んでいたんですよ。iDとかSuicaとか。でも、車内は暗いし運転手さんも老眼だから、なかなか見つけられない。なんであんなUIにしたのかなっていうのは不思議でしたね。
 運転手さんが操作する時間が長いから、実はキャッシュレスによる時短効果ってあんまりなかったんですよね。むしろ現金の方が早かったかもしれない。ただ、現金は現金で1500円の運賃で1万円とか払うといやな顔をされたりするし、大変だったよね。
 今はこうやってタッチパネルで支払いを自分ですることができたりするじゃないですか。降りる前からLINE Pay(※)の画面を用意していておいて、降りるときにパッと支払えばそれで支払いが完了できる。圧倒的に降りるまでがスムーズになったんですよね。それが良いと思います。
 ※……S.RIDEはLINE Pay未対応。ネット決済・二次元バーコード決済「S.RIDE Wallet」に対応している

忙しいビジネスパーソンにとって「配車」自体に価値はない

 そもそも「S.RIDE」というサービスはどのようにして生まれたのか。みんなのタクシー社代表の西浦氏はこう語る。
西浦 日本のタクシー業界にはいま、危機感があります。海外で急速に普及しているライドシェア(乗用車の相乗りをマッチングするソーシャルサービス)が国内で解禁されることへの危機感です。
 たとえば堀江さんが仰っていたUberなど外資系ライドシェアの台頭。日本のタクシー事業者にも、これらの外資系ライドシェアを利用する選択肢がありました。
 しかしながら、日本のタクシー事業者には、自らサービスを展開し、タクシー産業を盛り上げていきたい強い気持ちがありました。
 私たちソニーもちょうど、自分たちがもつ技術をタクシー業界で活かせないかと考えているところでした。
 お互いの思惑が一致し、ともに議論をしていく中で「みんなのタクシー」という会社を設立し、独自のタクシー配車サービス「S.RIDE」を開発するに至りました。
 今年の5月にサービスを開始。半年が経過し、手応えを感じているという。
西浦 我々は東京を中心にサービスを展開しています。ターゲット層は忙しく、時間を有効に活用したいと考える経営者層やビジネスパーソンです。まさに今回乗っていただいた堀江さんのような、タクシーのヘビーユーザーですね。
 S.RIDEの運賃平均は、東京のタクシーの運賃平均に比べて130%ほど高いんです。狙ったターゲット層に届いているのを感じています。
 忙しい経営者層やビジネスパーソンにS.RIDEが支持される理由は、機能面からも見て取れる。
西浦 ターゲット層の方々にとって「アプリでタクシーが呼べる」ことだけではなく、それ以上の付加価値が必要になります。配車の仕組みがどれだけ整理されるかよりも、いかにすぐに来て、すぐに降りられるかを重要視しています。
 そういうコンセプトに基づいて、アプリのUIはとにかくシンプルに、バーをスライドするだけで配車が完了するようにしました。目的地の設定をするのは、後回し。先に配車をしてしまって、待ち時間の数分の間に設定していただくことができます。待っている時間も無駄になりません。

ドライバーにとっても快適なUIを

 今回堀江氏には事前確定運賃サービスも利用してもらったが「金額は大して気にしていないから」と一蹴されてしまった。西浦氏は「まさに人生の勝者の言葉ですね」と笑いながら、今回新たに展開したサービスの狙いについて語る。
西浦 多くの人にとって、タクシーに乗ってから降りるまで金額が確定せず、いくらかかるかわからないのは不安要素です。Uberなどは金額のレンジが事前に出ますが、タクシーの場合、渋滞に巻き込まれると、動いていないのにメーターが上がり続けてしまったりする。それが心の障壁になってタクシーを使わない人もいるかもしれません。
 事前確定運賃を使えば、渋滞に巻き込まれたとしても金額は最初に提示されたところから変わりません。これにより、今までターゲットとなっていた層からさらにユーザーの範囲を広げられたらいいな、とは思っていますね。
 ユーザーとして「S.RIDE」を使用している分には、配車や決済がスムーズであること、事前に運賃が確定することは安心で快適だ。しかし、実際にサービスを取り入れている事業者側がその技術をいかに使いこなせるかも大きな課題である。
西浦 堀江さんが指摘していたように、ドライバーが技術をうまく使えずトラブルになることがないとは言い切れません。ドライバーの高齢化は続いていますし、彼らにとって使いやすい形を模索する必要もあります。
 ただ、ここで活きてくるわたしたちの強みもあります。株主の半数以上がタクシー事業者であることです。いまでも週に一回は、彼らと集まって現状の課題を共有し、今後取り入れる予定のサービスについて議論を交わしています。
 この場で初めて知る現場の課題なども現れます。
 たとえば、同時配車キャンセル問題。ユーザーによっては、いくつもスマホを用意して、それぞれで別の配車アプリで配車依頼をして、もっとも早く来たタクシーに乗って他はキャンセル、そんな使い方をしている方もいます。

身一つでタクシーに乗れる未来は可能

 最後に今後の展望について。堀江氏は、スマートな決済機能の展開について、「流しのタクシーでも僕が乗っていると勝手に認識してくれ、自動で決済が行われるサービス」が欲しいと語った。この案について、西浦氏は「可能だろう」と答える。
西浦 技術的には、できると思います。ひとつは、乗った瞬間にスマホとタクシーを自動で接続する方法ですね。
 特定のアプリをダウンロードしたスマホを持ってタクシーに乗り込むと、Bluetoothで車載のタブレット端末と接続。アプリのIDがタブレットからサーバー上に投げられて料金情報と紐付き決済をする、ということは技術的に可能でしょう。
 あるいは、中国でも流行っている顔認証技術があります。個人を特定できるカメラを導入し、あとはユーザーが事前にクレジットカード情報などを登録していれば、スマホも持っていなくても身一つでタクシーに乗ることはできます。
 いずれにしても、ユーザーの事前承認や、オペレーションを考えたときに最適解なのか?という問いなど、解決すべき課題は多くありますが、実現できる未来はそう遠くないと思います。
 堀江さんのお話については、聞いていて僕も同感な部分が多かったです。やっぱり、すぐに乗りたいし、すぐに降りたい。そこに無駄な時間をとられたくないんです。
 だからこそ僕たちのもつ技術で、可能な限りタクシーの乗降を簡略化していきたいと思っています。タクシー事業者がソニーと手を組んだのも、そういう部分への期待が強かったからだと思うので。
 タクシーを呼ぶ、とか、タクシーでお金を払う、とか、最早そういう感覚がユーザーから無くなるくらい自然に気軽にタクシーに乗れる世界を作っていきたい。大きなチャレンジですが、突き詰めていきます。
(執筆:富田七、撮影:持田薫、編集:株式会社ツドイ、デザイン:斉藤我空)