大学を飛びだせ。現役ハーバード生のキャリアの選び方

2019/12/25
 企業インターンに参加経験のある学生の割合は、約8割(※)。ひと昔前は、大学での勉強が学生の本分とされてきたが、今では社会経験を積むことが、学びを深める上での“新常識”となっているようだ。しかし、数ある企業がひしめく中、どのような軸で働く企業を選べば良いのだろうか。

 現役ハーバード大生で、現在は孫正義育英財団の支援を得て休学しながら、企業で様々な経験を積んでいる髙島崚輔氏に、後半では船井総合研究所(船井総研)で学生インターン受け入れを担当する山本翼氏も迎え、インターン企業の選び方と、学問と社会を「行き来」する重要性について話を聞いた。

※2020年卒 マイナビ大学生 広報活動開始前の活動調査

学びを「デザインする」

── 髙島さんは東京大学を4ヶ月で中退し、ハーバード大学に入り直すという変わった経歴をお持ちですね。なぜ、ハーバード大に移ると決めたんですか。
 率直に言ってしまえば、学部を絞りたくなかった。高校時代から国際政治に興味があった一方、教科としては数学や生物など、理系科目が得意だったのです。
 日本の大学に進めば、文系と理系で学部が分かれてしまう。一方でハーバード大は必修科目がほとんどなく、大学院の授業も含めてたくさんの選択肢から授業を選べるのです。ここだったら、「学びたいことを自分でデザインできる」と感じ、入学を決めました。
── 大学では何を専攻しているんですか?
 工学部に所属して、再生可能エネルギーについて勉強しています。でも実はこれまで、2回専門を変えているんです。
 入学当初は、環境政策を学んでいました。ですが大学1年の春休みに、ハーバードの大学院生と福島第一原発を訪問して。そこで働く東電の方や、避難された住人の方にお話を伺ううちに、エネルギーが国の根幹を担っていることに、改めて気づいたのです。
 そこで専門をエネルギー政策に変えました。ですが、そもそもエネルギーの仕組みを理解しないと本質的な政策を考えられないと感じて。そんな経緯で、今は工学部に籍を置いています。
 今考えてみると、「絶対にこれをやりたい」というものがあったわけではありませんでした。
 だからこそ大学の外に出て、さまざまな現場に行く経験を通じて、自分の興味関心を確かめてきたのかもしれません。
── 日本の大学と比べて、ハーバード大が魅力的だと思う点は?
「学業をどう社会と結びつけるか」を重視している点です。学生も、勉強以外の課外活動で「自信を持って頑張っている」と言えることを、みんな一つは持っていますね。
 それはカリキュラムにも表れていると思います。たとえば生物の基礎クラスを取っても、普通は最後にテストを受ければ終わりです。ですがハーバード大ではさらに、「ファイナルプロジェクト」という小論文が求められるんです。問われるのは、授業で学んだことを活かして、あなたなら社会課題をどう解決するか?といったこと。
 教科書の中、大学の中にとどまらず、学んだことを社会でどう役立てられるかを、学生に問い続けることは、とても素敵な価値観だと感じています。
Janniswerner:Getty Images

学業と社会を、行き来せよ

── 髙島さん自身も、今は大学を休学中。企業のインターンや行政の仕事など、積極的に大学の外で経験を積んでいますね。
 勉強したことがどんな形で社会につながっているかを考えると、勉強のモチベーションが上がるんです。
 授業で習ったことが、普段の日常生活をどう改善しているのか。一度学問から離れて現場を見ることで、「さらに何を学ぶ必要があるのか」のヒントを得られ、学びの視野がぐんと広がると感じます。
 今は兵庫県・芦屋市役所の政策推進課でインターン生として、総合政策やエネルギーの仕事に関わっています。芦屋市は高級住宅地のイメージが先行していますが、実はとてもおもしろい場所なんですよ。無電柱化が日本一を争うほど進んでいて、太陽光発電で作った電気を、隣の家に直接融通するスマートシティ構想も動いている。
 卒業論文のテーマとして漠然と考えている「都市における自立エネルギー網」にも非常に近く、本当に勉強になっています。
── 学生インターンとして、船井総研でも経験を積んでいると伺いました。どんなことをしてきたのですか?
 船井総研は中堅・中小企業に特化したコンサルティング会社ですが、インターンとしてさまざまな取り組みに参加しています。今年で4年目ですね。
 一番印象に残っているのが、海外企業視察「グレートカンパニー視察セミナー」に参加したこと。船井総研がクライアント企業の経営者の方向けに実施している研修で、アマゾンやマイクロソフト、グーグルなど、誰もが知っているような海外の大企業を訪問し、経営手法や世界的なトレンドを一緒に学んできました。
── 髙島さんは企業視察以外にも、船井総研のセミナーへの参加もしていますね。経営者の方々と話をしてみて、どんな学びがありましたか。
 経営者の方って、その会社のすべてを担っているようなもの。だから当たり前なんですけど、企業の視察に行っても、見ている視点が僕と全然違うんです。
 僕だったら「こんな働き方や取り組み、おもしろいな」としか思わない場面でも、みなさんは「自分の会社にどう取り入れられるか」という目線で見るんですよね。
 規模は全然違いますが、僕も「留学フェローシップ」という、日本から海外の大学に進学する高校生を支援するNPOの理事長をしています。
 試行錯誤を重ねてリーダーシップを取る中、どういう風に後輩に仕事を任せていくかという悩みもあって。経営者の方に、そんな悩みを親身に聞いていただき、時には励ましたり、叱ったりしてくださるのは、ありがたいですね。
── 髙島さんから見て、船井総研のコンサルティングのおもしろさは?
 海外の大学生って、戦略系コンサルに行く人がとても多いんです。その場合、ほとんどのクライアントは大手企業なので、ビジネスの相手が部署やプロジェクトといった事業部単位になる。
 それに対して船井総研の主なクライアントは中小企業、とりわけオーナー企業が多いので、主なビジネスの相手は企業のトップ。経営者と直接向き合えるわけです。会社全体を、また経営者をコンサルティングするというのはユニークで、ワクワクしますよね。
 船井総研のコンサルタントの方とお話しすると、日本全国のあらゆる場所や業種を網羅しているし、業界に対する理解が深いだけでなく、いろんな業種、ビジネスモデルのことをご存じです。
 僕が言うのもおこがましいのですが、船井総研のコンサルタントの方が互いの専門知識を持ち寄れば、イノベーションを生むきっかけにもなると感じます。

自分の“ビジョン”は何か

── 「経営者のコンサルティング」という言葉が出ましたが、船井総研で実際にインターン生の受け入れを担当している山本さんは、どうお考えですか。
山本 髙島さんの言う通りで、「経営者をコンサルティングできる」という点は、船井総研の大きな特徴です。企業全体の経営戦略を経営者と一緒になって考えて、実行していく。そのやりがいと達成感は、非常に大きなものです。
── 船井総研のインターンシップでは、学生もそうした経験ができるのでしょうか?
山本 はい、私たちのインターンシップでは、実際の企業のモデルケースを用いています。
 どんなプログラムかというと、たとえば後継者の育成に悩んでいる中小企業の経営者を想定し、「後継者問題を5年以内でどう解決するか」というお題を出します。第一線で働くコンサルタントからアドバイスを受けながら、1週間かけてチームで答えを出してもらうのです。
 そこでポイントになるのは、きれいな戦略を描くことより、描いた戦略がきちんとプロジェクトやコンサルティングとして実行できるかということ。机上の空論ではなく、その提案や戦略が本当にクライアントを成長させるのかが、重要なのです。
 インターンに参加していただければ、コンサルタントが現場でどのようにクライアントと向き合い、戦略を描いているのかが体感できると思います。
── 実際に採用された学生のアイディアはありますか?
山本 ありますね。たとえば、インターンの学生が考えてくれた「美容室に託児所を作る」案は、方向性はそのままクライアントに提案する予定です。
 課題は、「スタイリスト不足に悩む美容室が、どのように人材を確保するか」でした。そこで学生が目をつけたのは、子育てが忙しくて働きたくても働けないスタイリスト。
 美容室に託児所を作ることで、子育て中のスタイリストも、仕事に復帰しやすくなります。さらにお客さんの子どもも預けられれば、子育て中の方も気軽にそのお店を利用できるようになりますよね。
髙島 おもしろいアイディアですね。インターンにはどんな学生に参加してもらいたいですか?
山本 船井総研の創業者の舩井幸雄の言葉でもある、「勉強好き、素直、プラス発想」の人ですね。これは成功の3条件と言われているものです。
 コンサルティングのスキームやコミュニケーション論は、入社してから身に付くもの。ただ、その能力が育つ素地として「3条件」が備わっていないと、なかなか定着しないのです。
── 改めて髙島さんがインターンシップ先や就職先を選ぶとしたら、どんな軸で選びますか。
髙島 これは僕も今、すごく悩んでいるところです(笑)。ですが、企業のトップが描くビジョンが自分のものに近いかは、大事にしたいと思っています。そうやって選んだ仕事なら、「人生の一部として楽しむ」ことができるのかな、と。
 とはいえ僕が悩んでいるように、自分のやりたいことを明確に決めるのは難しいですよね。でも経営者に対するコンサルティングは、いわば「企業」という人格の将来設計を考えるもの。
 それは自分の人生を考えることと、よく似ていると思うんです。経営者のコンサルティングという職業を経験することで、自分が「何をしたいのか」という輪郭が見えてくるかもしれません。
 僕がインターンで新しい視点を得られたように、学生のうちから企業や社会との関わりを持って、自分の学びを深める方法がスタンダードになればと思います。
(取材・編集:川口あい 金井明日香、構成:日沼諭史、写真:後藤渉、デザイン:岩城ユリエ)