【現場発】業績を“V字回復”させた、デジタルシフトの極意

2019/12/20
 近年ますますデジタルシフトの必要性が叫ばれている。しかしデジタルツールを導入すること自体が目的化し、「業績を上げる」「事業を成長させる」といった本来のゴールを見失ってはいないだろうか。

 船井総合研究所(船井総研)で、中堅・中小企業のデジタルマーケティングのコンサルティングを専門とする大山広倫氏と、セールスフォース・ドットコムのコマーシャル営業部長の久保田雄介氏に、デジタルシフトにより企業を成長させる極意を聞いた。

「デジタル化」はゴールじゃない

久保田 最近では経済ニュースを見れば「デジタル化」の文字が並び、一種のバズワードになっていますよね。
 中堅・中小企業を含め、私たちは全国の企業にSalesforceの導入をご提案していますが、「デジタル化の必要性」を説いたところで、「流行りのアレでしょ」と捉えられてしまう。
「IT」「デジタル」という言葉自体にアレルギー反応を示してしまう方もいますし、トレンドとして紹介するだけではお客様には響かないんです。
 そこで心がけているのが、お客様が「目指すゴール」を起点とし、その実現手段としてのデジタル化の必要性を伝える、という順序で考えること。そうすれば納得してくれるお客様も多いですし、現場の理解も得やすくなります。
大山 その通りですね。これは私がコンサルティングを通して感じたことなのですが、日本人って「現状に納得する力」がすごく高いのです。
「この仕組みは効率が悪いから変えなければ」と思うよりも、「頑張ってこの複雑な仕組みをマスターしよう」と考えてしまう。日本人の真面目な国民性も、影響しているかもしれません。
 ですから、客観的にはデジタルツールを導入した方が段違いに生産性の上がるケースでも、「せっかく機能しているのに、なぜ変える必要があるの?」と言われてしまう。
 そういった意味でも、「導入した結果、どう会社が伸びるのか」といった経営者目線のシナリオを描いてお伝えすることが、何より大事だと思っています。

V字回復を実現した施策とは

大山 船井総研とセールスフォース・ドットコムが協業してデジタル戦略を進め、業績がV字回復した企業の事例をご紹介しましょう。
 事務用品や包装・装飾用品を扱う専門商社の「シモジマ」。リアル店舗のほか、ECサイトや法人向けの外商販売も行っています。
 船井総研がデジタルマーケティングのコンサルティングに入る前のシモジマは、売上高が数年続けて前年比を下回る厳しい状態でした。
 要因の一つは、各販売チャネルの連携がほとんど取れていなかったこと。ECで獲得した顧客情報はEC内でしか活用されず、リアル店舗も法人営業部も、それぞれの部署で売上を最大化することに終始していました。
 そこで、「デジタルを使った新規顧客の獲得と、販売チャネル横断の販売方式」を提案しました。「ECでシモジマを発見してもらい、店舗で現物確認や商品の選びやすさの場を提供、さらに法人営業部が会社ごとに個別対応」という風に、一人ひとりのお客様の買い物体験を1本の線でつなぐ。
 複数の販売チャネルから、お客様の状況に応じて適切にアプローチできる仕組みを構築したのです。
 具体的な方法としては、まずは新規流入を増やすべく、ECサイトのUIを大幅リニューアル。ECで新たに獲得したお客様のユーザーIDをデジタル資産として活用し、リアル店舗でのキャンペーン情報の通知を送り、オンラインからオフラインへ誘導し始めました。さらに大きな取引になりそうなお客様を絞り込んで、法人営業部からアプローチ。
 こうすることで、部署ごとに囲い込んでいたお客様を、会社全体のお客様に変えることができました。結果的にLTV(ライフタイムバリュー)が、かなり増加しています。
久保田 お客様とどのように接点を持つか、どのチャネルを介してつながるのが最も効果的かの分析と最適化を、Salesforceが担いました。
 ECで獲得したお客様全員に法人営業の部隊がアプローチしていたら、もちろん人手が足りませんよね。そこでSalesforceを使って、ECと店舗のお客様の行動履歴を分析。取引額が大きくなる見込みがあるお客様だけ、フィルターにかかるようにしました。
大山 最適化されたチャネルを通じて、シモジマが提供しているサービスや商品の認知度が高まり、売上向上につながりました。以前は年間約3万円だった客単価が、法人営業部につないだことで100万円になった、といったケースが数多くあります。
 結果的に、業績はV字回復。デジタルによってシモジマの社内連携が可能になり、提供される顧客体験が良化したことの表れだと思います。
船井総研のデジタルマーケティングの仕組みを簡略化した図。顧客との信頼関係が良い口コミにつながり、好循環を生んでいく。

デジタルが目指すのは、富山の薬売り?

久保田 シモジマの事例のように、デジタル化で業績を伸ばすためのポイントは何だと思いますか?
大山 いきなりアナログに聞こえるかもしれませんが、お客様の「顔」ありきの商売を意識することではないでしょうか。お客様の行動を分析したことで、個としての「お客様像」を描けるようになったことが、シモジマの事例の成功要因だと思うのです。
 分かりやすい例は、富山の薬売り。歴史は江戸時代に遡るそうなのですが、薬売りが家を訪ねてあらかじめ医薬品を預けておき、半年ごとに巡回訪問を行って使用した分の代金を受け取る、というサービスです。
 これって実は、CRM(顧客管理)の営業マネジメント手法の原型じゃないかと言われていて。「山田さんのお宅はお年寄りの二人暮らしだから、この薬がなくなっているはず。じゃあこれを補充していこう」という風に、「個人」としてのお客様の情報を起点に、仕入れや販売の計画が始まる。
 探さなくても、自分の欲しいものを持ってきてもらえる。お客様からしたら、すごく満足度が高いですよね。こうしたことを今は顧客体験と呼びますが、デジタルで実現すべきは、お客様の「顔」起点のビジネスを、現代の規模で行うことだと思っています。
 商品をいかに販売するかといった「商品中心」の考え方ではなく、お客様が必要としているものは何なのかといった「顧客中心」の考え方ができるようになるのが、デジタルマーケティングを導入すべき最も分かりやすい理由です。
 その結果、新しい商品やサービスが生まれて、売上の拡大につながっていきます。

各分野のコンサルが連携

大山 シモジマの事例は、お客様ごとに複数の部署が連携してアプローチしたことで、成功しました。実はこの成功法、コンサルティングの仕事にも当てはまると思っていて。
 たとえばクライアントが飲食店だとすると、悩みは飲食関連のものだけではありません。飲食専門のコンサルタントに加えて、デジタルマーケティングやサプライチェーンの専門コンサルタントも一緒に知恵を絞れば、より良い提案が生まれる可能性があります。
 1つのクライアントに専任のコンサルタントが1人つくより、専門の異なる複数のコンサルタントと連携できた方が、お客様の課題を最適な方法で解決できると考えます。
 船井総研にはさまざまな分野の専門家が在籍しているので、社内のコンサルタントを横断的に見て、誰と誰を組み合わせたら最適な提案ができるのか、という視点で考えられます。「自分に何ができるか」にとどまらず、「船井総研として何ができるか」とダイナミックに戦略を立てられるのは、船井総研で働く醍醐味の一つですね。
 シモジマの時は、ECとMA(マーケティング・オートメーション)、CRMなど、複数のデジタルマーケティングツールを同時に導入しました。
 それぞれのツールの導入提案ができるデジタルマーケティングコンサルタントはたくさんいると思いますが、複数のツールを連携させ、経営戦略に落とし込んで運用し、成果につなげるのは、船井総研だからできると思っています。
久保田 シモジマの事例が成功した要因の一つは、船井総研が経営者と直接コミュニケーションが取れていたことだと思うんです。やはりトップの決断となれば、現場も動く。このプロジェクトも、最初に引いたスケジュールとほぼピッタリで進んだんですよ。
 部署を横断して改革を実行する時に、プロジェクトのど真ん中で各部門の調整をしてくれる船井総研の存在は、ありがたいですね。バラバラで動いているパーツを整理して、一つにまとめてもらえたイメージです。
大山 ありがとうございます。おっしゃっていただいた通り、船井総研がこだわっているのは、クライアントに提案や指針を出すだけではなく、実行部分までディレクションし、業績向上にコミットすること。
 戦略を提案した後は、具体的にどの部署の誰が行うのか、いつまでに終わらせるのか、などの細かい管理まで、船井総研のコンサルタントが担います。だからこそ抽象的な理論を並べるのではなく、実行戦略をきちんと描き、それを完遂できる力が求められますね。
 デジタル領域の専門知識がある人にとってはもちろん、力試しができる刺激的な環境だと思います。さらに、自分が描いた戦略を実行まで落とし込みたい人、現場での経験を通してスピーディーに成長したい人。そんな人が活躍できる環境ではないでしょうか。
(取材・編集:川口あい、取材・構成:金井明日香、写真:露木聡子、デザイン:岩城ユリエ)