【提言】ビジネスパーソンこそ、教養書を読むべきである

2019/12/19
これまで NewsPicks Bookでは、おもに日本の起業家やビジョナリーたちによる、いわゆる「ビジネス書」を毎月お届けしてきた。

一方で、今年の10月に新しく立ち上げたNewsPicksパブリッシングは、「経済と文化の両利き」をモットーの1つにしている。端的に言うと、ビジネス書だけでなく、文化・リベラルアーツ的な本もきちんとセレクトして刊行していく。

今回の対談では、「ユーザーのみなさんにどういう価値を提供できるのか」について、まずはお話ししたい。そして、「経済と文化」のうち、「文化」側のビッグタイトルとして、『21世紀の啓蒙』(発行発売=草思社)を刊行した。この本を読む価値についても、お届けしたい。
人類10万年史と「編集思考」
富川 僕は海外の翻訳書の編集を12年くらいやっているんですが、これまでに手がけた本の中でも最高に面白いと思っている本が1つあるんです。マット・リドレーという科学ジャーナリストが書いた『繁栄:明日を切り拓くための人類10万年史』という本なんですが。
佐々木 あれはいい本ですよね。
富川直泰 NewsPicksパブリッシング副編集長/1978年大阪生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。早川書房および飛鳥新社でノンフィクション書籍編集に従事したのち、2019年4月より現職。これまでの主な担当書に、マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』、ポール・クルーグマン『さっさと不況を終わらせろ』、マット・リドレー『繁栄』、パリサー『閉じこもるインターネット』、ラッポルト『ピーター・ティール』、ピンター『ハロルド・ピンターI~III』など
富川 リドレーは「人類を進歩させてきたエンジンは何なのか?」という問いを立てて、10万年にわたる人類史上のあらゆるエビデンスを駆使して、1つの答えを出しています。それは何かというと、「アイデアとアイデアをかけ合わせる力」です。
佐々木 「編集思考」じゃないですか(笑)。
富川 まさにそういう話です(笑)。佐々木さんの新刊のテーマと同じ。
たとえば人間は、大昔にとある場所で「紙」というマテリアルを発明しました。もちろんこれはすごい発明です。で、それとはまったく別の時代に別の場所で、人間は「印刷」という技術も発明した。これもすごい発明です。
でもリドレーは、人間が本当にすごいのはここからだ、と言います。つまり、人間はさらに一歩踏みこんで、「紙」と「印刷技術」という2つの発明をかけ合わせて、今度は「本」を生み出した。
つまり、アイデアとアイデアをクロスすることによって、人間は指数関数的に飛躍的に進歩してこられたし、これからもこの能力を磨き続けるべきだ――という話です。
佐々木 そうでしたね、うん。
富川 佐々木さんが『編集思考』で、2010年代のビジネススキルとして語っていることが、リドレーが10万年の人類史を検証して導いた結論の延長線上にあるというのが示唆的だなと思うんです。
10万年の人類史と、2010年代のディズニーやNetflixのビジネスモデルは、実は線でつながっている。
「経済と文化の両利き」になれれば、自分のビジネスだけでなく、人として世界を見渡す視野も広くなり、よりユニークなものの考え方もできるようになる――ということなんです。
佐々木紀彦 NewsPicksStudios CEO NewsPicks新規事業担当取締役/1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年7月にNewsPicksへ移籍。2018年から現職。最新著書に『異質なモノをかけ合わせ、新たなビジネスを生み出す 編集思考』、ほかに『日本3.0』『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』。
「ビジネス以外の素養」が欠けている
佐々木 面白い。じゃ、その文脈で『編集思考』の話を絡めてみましょうか。
私が本の中で提案している「編集思考」には、「セレクト」「コネクト」「プロモート」「エンゲージ」の4つのステップがあるんですが、今回の「経済と文化」という文脈だと、一番大事なのは「セレクト」かな。あらゆる分野から一流の素材を選びぬいて、ストックしておくということです。
いま富川さんは、組み合わせることが大事だとおっしゃいましたよね。けど、文化、つまり哲学や歴史やサイエンスといった、ビジネスと直接関係しない分野についてのまともな素養が、日本のビジネスパーソンには圧倒的に欠けていると思うんですよ。もちろん私も含めて。
富川 なるほど。僕もまったく自信ありませんが。
佐々木 料理と同じです。まず良い素材を持っていないと、良い料理は作れない。ビジネス書ばかりを読んでいると、その人の中に素材が広がっていかないわけです。
でも、そこに文学的な素養であったり、一見無関係ないろんなものが入ってくると、アイデアが無限に出てくる。まさしく経済と文化のかけ合わせですね。
私は、これこそが日本のビジネスパーソンがイノベーションを起こす上で、遠回りに見えて実は一番の近道だと思っています。
だからこそNewsPicksが、ビジネス書と同時に、きちんとセレクトされた教養系の本を刊行していくことには、非常に大きな意味がある。両利きになるという意味でね。
富川 そう思います。たとえばペイパル創業者のピーター・ティールのバックグラウンドは、実は哲学ですよね。
佐々木 ルネ・ジラールでしたっけ?
富川 はい、当時スタンフォードで教鞭をとっていた大物哲学者ですね。
ジラールは、人間の本性は何なのかというテーマを「欲望」という切り口から考えた人です。
彼の卓見は、「人間は“他人が欲しがるもの”を欲しがる生き物である」というものでした。で、ティールはジラールに大きな影響を受けていて、アカデミズムを離れて起業家・投資家に転身してからも「競争には絶対に加わってはいけない」という、通常のセオリーとは真逆の原則を貫いていますよね。ジラールが見抜いた人間の本性からして、競争に巻き込まれるのはデメリットしかないからと。
佐々木 「競争するな。独占せよ」ですね。
富川 彼はジラールの哲学を受け継いで、それをビジネスに反映させている。海外のビジネスリーダーのバックグラウンドを見ていると、必ずしもMBAではなく、人文系だったりサイエンス系だったりと、「文化」に深く通じてる人たちが多いように思います。
「人間とはどういう生き物なのか」の探求に並々ならぬエネルギーを注いでいて、それについて自分の見解ができている。そしてそれが、自身のビジネスに生かされているように思えるんです。
ルネ・ジラール(photo:Laurent MAOUS / gettyimages)
佐々木 確かに。ブリッジウォーターの創業者、レイ・ダリオもそうですよね。彼の書いた『プリンシプルズ』は一種の哲学書ですからね。ダリオは「経済はマシンだ」って言うじゃないですか。
ダリオのような人たちには、みな、自身の哲学や経験をベースにした自分なりの研ぎ澄まされた法則があるんでしょうね。「こうしたら、こう動く」みたいな法則が頭の中にあるので、ブレない。
法則がないと、安易にはやりに乗っかったりしてブレてしまう。「プリンシプルがない日本」なんて言うと、白洲次郎になっちゃうけど(笑)。
ゲイツが絶賛する『21世紀の啓蒙』
富川 NewsPicksパブリッシング第4弾では、第1弾の『編集思考』、第2弾の『他者と働く』、第3弾の『新規事業の実践論』というビジネス系タイトルに続いて、教養系のビッグタイトルが登場します。『21世紀の啓蒙』という本です。
佐々木 ビル・ゲイツが激賞するスティーブン・ピンカーの最新作ですね。ハーバードの超人気教授の。私も読むのが楽しみです。
富川 この本、本国アメリカでは当初、2018年の2月末に出るはずだったんです。ところが、見本刷りを事前に読んでいたビル・ゲイツが、発売前に「この本はぼくのオールタイム・フェイバリットになるだろう」とツイッター上で大絶賛した。
それを受けて、原書の出版社は急きょ2週間発売を繰り上げているんです。
佐々木 そんなことがあったんですか。ゲイツのそのツイート、最高のキャッチコピーですね。
富川 そういうこともあって、米英では刊行直後から大ベストセラーになっています。「エコノミスト」等の経済メディアをはじめ、クオリティメディアはこぞって本書を年間ベストブックに選んでいます。
佐々木 いや、すごい。
富川 『21世紀の啓蒙』にはビジネスのビの字もでてきません。でもそれをビジネスリーダーやゲイツのようなビジョナリーたちがこぞって読んでいる。
佐々木 ピンカー、すごい人ですよね。日本で彼に比肩する教養人って、ちょっと思いつかないかもしれない。
スティーブン・ピンカー(photo:Jun Morikawa)
富川 この本のメッセージは、端的にいうと「世界は幸福に向かっている」というものです。
寿命、健康、所得格差、環境問題、紛争、犯罪、差別、幸福、等々、われわれが日々のニュースで目にするテーマは、この本でほぼカバーされています。『ファクトフルネス』以上にこれ1冊で大局観を養える、究極の教養書と言っていい。
あと論証の仕方も、「そういうところから引っぱってくるのか」といちいちプレゼンの勉強になります。
たとえばトランプに象徴されるような「偏見」「差別」は、実はこの15年で、トランプ政権誕生後ですら減り続けている、とピンカーは言います。
その根拠の1つとしてピンカーが持ち出してくるのが、各種差別用語のグーグル検索頻度だったりするんです。
過去15年の地域別グーグルトレンドで、検索ワードに占める差別用語の検索頻度は一貫して大きく減り続けている、と。もちろんそれだけが論拠じゃないですけど。
佐々木 ああ、それは面白いかも。私も早く読まないと。
ハングリーさとノーブルさを養う
佐々木 「経済と文化の両利き」の具体的なかたちが見えてきて、ますます楽しみになってきました。
あと私が面白いと思ったのは、箕輪さんや堀江さんたちが打ち立てた、勢いのある一連のビジネス書の流れ、あちらとはカラーの違いが鮮明に出てきた点ですね。
うちの社外取締役でもある塩野誠さんはよく「ハングリー&ノーブル」って言うんですけど、まさしくそれかなと。箕輪さんや堀江さんはとにかくハングリーです。
【塩野×佐々木】ハングリー&ノーブル。これがリーダーの条件だ
富川 貪欲(どんよく)にがつがつする部分と、一歩引いて大局的に見る視点と。両方必要なんですよね。
佐々木 そうです。そういう意味で、ノーブルなものをNewsPicksパブリッシングが作って届けるというのは非常にバランスがいいと思う。
『他者と働く』の著者・宇田川元一さんもノーブルじゃないですか。経営学者でありながら哲学や心理学、神学の深い知見がある、卓越した思想家でいらっしゃいますよね。もちろんピンカーもノーブルです。
富川 ええ、確かに。
佐々木 そういう意味では、先のビル・ゲイツは、ハングリー&ノーブルをもっとも体現する人かもしれません。Netflixのドキュメンタリーを見ていても、特にこの数年でノーブルさが出てきたなと思います。
富川 確かにそうかもしれません。20年前のゲイツにはノーブルな印象はあまりなかったですよね。パイを投げつけられたときとか。でもこの10年のゲイツには思想家としてのノーブルさを感じます。
佐々木 うん、見えてきましたね。NewsPicksパブリッシングが掲げる「経済と文化の両利き」って、つまりはビジネスパーソンに不可欠な「ハングリーさとノーブルさ」を養えるということだと私は思いますよ。
(構成:金泉俊輔、撮影:山田雄一朗、デザイン:黒田早希)