物流クライシスという「世界の誰も解けていないパズル」がおもしろい

2019/12/18
 近い将来、「物流クライシス」とも言うべき、大きな困難が日本の物流業界で予想されている。
 配送料の値上げや、宅配の遅延だけでなく、店舗の商品の在庫補充までもが危うい可能性があるという。
 だからこそ、イノベーションが待たれるこの物流の分野で、世界の誰にも解けていないパズルに挑戦しているチームがいる。
 ラクスル株式会社のハコベル事業本部だ。ハコベルでは「物流のシェアリングプラットフォーム」の構築を通じ、これまで物流分野で生じていた非効率や、荷主と運送会社、ドライバーのマッチングの非対称を解消しようとしている。
 そもそも、このパズルはなぜこれまで誰にも解けなかったのか。クライシスを引き起こす要因は、以下のようなものだ。
・ネット通販市場の拡大による配送量の増加
・少子高齢化により加速する運送ドライバーの人手不足
・天候や道路状況などの予測しづらい環境変化
・多重下請け構造とアナログな商取引
 もしかしたら我々のもとに荷物を届ける「ラストマイル」の運送ドライバーが不足している、といった話は耳にしたことがあるかもしれない。
 しかし一番逼迫しているのは、全国各地の物流のハブとなる配送拠点、小売店の倉庫などの輸送拠点に荷物を届ける「BtoBのドライバー」なのだ。
 ここで、簡単に日本の物流の仕組みを解説する。
 日本の物流は「軽貨物」と「一般貨物」の2つに分かれている。我々がよく見るのは営業所から「軽貨物」を運ぶ軽ワゴンだ。こちらは法人、個人事業主のどちらでも開業が可能で、現在25万の事業者がいると推定されている。
 対して「一般貨物」は、2トン〜10トンといった巨大なトラックで、「地場輸送」と呼ばれる50キロ~200キロ圏内の輸送や、「幹線輸送」と呼ばれる地域の主要な地点を結んで長距離かつ大量に輸送される貨物を指す。実は軽貨物より一般貨物のほうが市場は大きく、その規模は14兆円にのぼる。
 たとえば、メーカーから見ると、サプライヤーからの仕入れにおける調達物流、卸や小売などの販売先への販売物流、メーカーの工場間での物流など、我々消費者の目に見えないところで物流は多岐にわたる。
 物流クライシスという社会課題を伴った、巨大な市場に挑むハコベル。その事業本部本部長の狭間健志氏とプロダクトオーナーの宮武晋也氏に話をうかがった。
 物流が変わると世界はどう変わるのだろうか。
 なお、ラクスルでは、現在このハコベル事業本部でビジネス開発人材と、プロダクトマネージャーを募集している。
運べるトラックはいるのに、マッチングしない不幸
2009年9月にベイン・アンド・カンパニーに新卒で入社。2017年8月までマネージャーとして勤務。日系・外資系の大手クライアントを担当し、経営戦略や実行計画の策定・支援に携わる。2017年8月ラクスル株式会社に参画。現在、執行役員ハコベル事業本部 本部長を務める。
狭間健志 物流業界をデジタル化する。これが、今まさに取り組んでいる「世界の誰にも解けていないパズル」です。言うのは簡単ですが、実現にはいくつもの壁が存在しています。パズルを難しくしているのは、ひとつは変数の多さです。
 物流の需要は、例えば、企業の販売活動、生産活動、天候によっても変わります。私たちが手掛けているのはトラック輸送ですが、そのトラックに積み込む貨物は鉄道や船、飛行機で運ばれてくるかもしれない。接続部分が多いということは、パラメーターが多いということ。
 さらにここに、物流業界の商取引のアナログさ構造の複雑さが絡んできます。荷主と運送事業者との取引の多くは、いまだに電話の相対取引で行われています。このせいで価格がオープンにならず、値付けが不透明なままなのです。
 荷主と運送事業者の間に、ブローカーと呼ばれる仲介者が入っていることもあります。そうなると、多重下請け構造が生まれ、情報が正確に伝わらなかったり、仲介料が抜かれることで配送者が低賃金になったりと不都合が生じていきます。
 それでも、業界がうまくまわっているならばいいのです。しかし現実には、メーカーが工場から製品を出荷したいときに、運送トラックを手配できないといった状況が生まれています。
 業界全体を見渡せば、動けるトラックはいる。でも、基本的には普段から電話などでのやりとりが多い付き合いのある運送会社、もしくは手配業者にしか発注しない商慣習があったり、価格の交渉が折り合わなかったりして、需要と供給がうまくマッチしないんです。
 こうしたことから、たとえば猛暑の時期には飲料の需要が急に伸び、消費者の需要に応えて工場で生産されたものの運ぶトラックがおらず、特定の商品が品薄になる事態が発生することがあります。
課題先進国の日本で、未来の物流モデルを提示
 現在はまだ、私たちの生活に直接影響があるところまで事態は悪化していません。しかしこの状況が続き、ドライバー不足が深刻になってくると、スーパーなどの小売店が定常的に品薄になったり、物流費が高騰してそれが製品価格に転嫁されるかもしれません。
 今でも、実は食品や飲料の値上げの裏には物流費が上がっていることが影響しているのです。身近なところでは、家族での引っ越しは「一般貨物」と同じ扱いなので、引っ越しの多い時期にはドライバーが足りず、2〜3年前の3倍くらいの費用がかかるようになっています。
 そして、将来のドライバー不足はすでに予見されています。コンサルティング会社の算出では、2027年にトラックドライバーは約96万人必要なところ、72万人しかいないと計算されています。ドライバーが25%も足りなくなってしまうのです。
 店舗で「輸送されてこないので商品はありません」と言われる未来、あるいは貨物の輸送費が現在の数倍になる未来は、近づいています。
 しかし、現状では本当に足りていないというよりも、マッチングがうまくいっていないことで運送・配送業者が見つかっていない、という事態が起きている。ミスマッチを解消することで、解決できる部分はまだあります。
 そこで、ハコベルでは荷物を送りたい荷主と、空き時間に仕事を受注したい軽貨物ドライバーをマッチングするサービス「ハコベル カーゴ」、そして一般貨物の物流事業者向けのプラットフォーム「ハコベル コネクト」を運営しています。
 ハコベルのサービスを開発するために、海外の物流関係のプレイヤーと情報交換していると、悩んでいる部分は共通していると感じます。そしてやはり、誰もこの物流のデジタル化というパズルにおいて、最適解をもっていない。もっと早くからビジネスが始まり、UberやLyftといった大手のプレイヤーが多いタクシー配車業界においてもまだ解けきってはいないのです。だからこそ、解ければ世界中で評価される実績になる。
 また、少子高齢化によるドライバー不足などの問題は、世界のどこよりも早く日本が直面しているものです。もし、ハコベルが物流のデジタル化を実現し、需要と供給を結びつけ、そしてそれをより効率的に実現できたら、それが世界のモデルになるかもしれません。
インフラのど真ん中にIT革命をもたらす醍醐味
 物流のパズルを解くためには、変数が多いだけにさまざまな知識が必要です。まずは業界の知識。データサイエンスの知識。特許の知識。ビジネスの知識。それらを身につけるために、私たちはさまざまな人に会いに行きます。
 トラックの運送会社に出向き、ドライバーに張り付いてインタビューする。そうしていると、どこにボトルネックがあって、何が問題なのかが見えてくる。配送を手配する電話のオペレーターも体験します。そうしているうちに、だんだん運送会社やお客さんとつながりができてくる。このつながりが、サービス開発に活きるのです。いろんな現場、いろんな人がいて、おもしろいですよ。
 これはハコベルだけでなくラクスル全体を通した「流儀」ですね。ラクスルには「ラクスルスタイル」という「Reality(高解像度)」「System(仕組み化)」「Cooperation(互助連携)」の3つの行動指針があります。
圧倒的成長を求めて。ラクスルBizDevの流儀
 その中でも「Reality」は、特に大事にしていて、現場に足を運んで解像度高くユーザーやパートナー企業の課題の抽出を行なっています。
 改善や新しいプロダクトを発案したときに、「こういうアイデアはどうですか?」と直接聞いてみることができるからです。机上の空論で、ニーズがないものを作ってしまうのが一番良くありません。
 私は、今でも週に2、3日はお客さんや運送会社に会います。そして、輸配送だけでなく、メーカーの生産ラインや小売の倉庫を見させてもらって、現場を把握する。これをおろそかにしていると、事業の判断の軸がブレるんです。
 バリューチェーンの長いビジネス、登場人物の多いビジネスなので、たくさんのステークホルダーや関係者と信頼関係をつくり、その人たちの話を素直に聞ける。これが、ハコベルの事業開発に求められる資質ですし、 行動指針のひとつの 「Cooperation」として、大事にしている価値観です。
 あとは、自ら試行錯誤できる人ですね。どうすれば物流の最適化のパズルを解けるのか。100回試行して1回あたればラッキーなくらいなので、数回の失敗ではへこたれない、タフな人が求められます。
 そしてなんといっても、答えのない問いを考え続けることを楽しめる人、難しい問題ほどワクワクするという人には、向いている仕事です。
 考えている最中に、運送会社、荷主企業、ドライバー、そして海外のプレイヤーから得た情報、収集したデータがすべてつながって、ひとつの道が見えてくることがあるんです。そのときはもう、めちゃくちゃおもしろい。こうした知的チャレンジが好きな人には、ぜひおすすめしたいですね。
 この仕事のやりがいは、インフラを支えているという誇りが持てること。物流は、止まったら経済活動そのものがストップしてしまいます。ハコベルのように、ここまで日本のインフラのど真ん中に、IT企業として関われる事業はそうありません。
 世の中の役に立つことと、事業の成長がリンクしている。自分の手掛けるサービスが世の中の役に立つ、お客様の成長をサポートできる、世界を変えるという実感をもって、日々仕事ができています。
自分の開発したサービスが、ドライバーの生活を向上させている
2011年グリー入社後、モバイルWebゲームのプロダクトオーナーとして運営とグロースを経験。その後海外オフショア開発組織の立ち上げ。2015年4月よりラクスル株式会社に参画。ハコベル事業の1人目として、事業・プロダクトの立ち上げを行う。
 私は「ハコベル カーゴ」「ハコベル コネクト」のプロダクトオーナーです。どんな課題を解決し、どういったソリューションを提供していくのか、開発のロードマップをひいて、どういうチームを構成するかといったところまで、プロダクトの全体において責任を持っています。
 2015年4月にラクスルに入社し、2015年の5月から代表の松本(恭攝)とハコベルの立ち上げを一緒にやってきました。サービスを正式に開始したのが2015年の12月なので、本当に初期から参画していることになります。
 最初は1都3県だけだったエリアも、2018年には全国でサービスを開始。提携運送会社数は数千社以上に増えました。
 また、開始当初は現在の「ハコベル カーゴ」、つまり軽貨物の取り扱いだけでしたが、2019年にはドライバー不足が一番深刻である一般貨物の分野で、大手物流荷主と一般貨物事業者がつながるプラットフォームである「ハコベル コネクト」の提供を開始しました。
 前職はソーシャルゲームの会社だったので、物流の業界はまったく未知の世界。開発をしながら、「軽貨物と一般貨物はビジネスモデルが違う」「配送業者は個人事業主の場合と企業の場合がある」「直接ドライバーが仕事を請けることもあれば、間に『配車マン』と呼ばれる仕事を割り振りする人が入る場合もある」といったことを学んでいきました。
 小さく失敗し、そこから学んでサービスを最適化していく。それを繰り返して、今のハコベルの形ができていきました。
 物流でおもしろいのは、配車のアルゴリズムを最適化することで、配送の品質を上げられるということ。例えば、「常温配送」と「冷蔵配送」の違いは、間違えると配送上の事故になってしまいます。でも、発注アプリのインターフェイスを少し変えるだけで、事故率をぐんと減らすことができたりする。
 サーバーサイドのロジック面とインターフェイスで、お客様の体験価値を変えることができるので、お客様の声を聞きながら気をつけて開発しています。
 これまでの物流業界では、新興企業が大手の運送会社に初めて配送を依頼すると、法外な値段を提案されるということもあったようです。それでも、適正な価格がいくらかわからないので、その条件を受け入れてしまう。
 また、ドライバー側も事前に価格を提示されなかったり、電話で指示を受けて現場に向かったのにいきなりキャンセルになったりと、古い商慣習が残っていることで不利益を被っている人たちがいました。そうした不便は、私たちのプラットフォームが普及すればなくなると考えています。
 今の時点でも、荷主様からは「ハコベルに頼んだら、ウェブですぐにマッチングして、担当してくれるドライバーと車両の情報もすぐにわかった。価格も大手に見積もりをとったときより安い」といった声や、ドライバーからは「知るべき情報を早く知れる。隙間時間に働けて、中抜きもされないので、売上が120%になった。生活が楽になったよ」といった声が届いていたりします。
 これは、とてもうれしいですね。自分の開発するサービスが、業界を本来あるべき姿に近づけられている。そう実感できます。
チャレンジの難易度が高いからこそ、飽きずに楽しめる
 5年前はハコベルの「ハ」の字も知らない人ばかりでしたが、今は軽貨物の業界だと「ハコベル カーゴ」がアプリの運送マッチングサービスのスタンダードになってきているんです。だから、一般貨物でも同じことができると信じています。運送事業者がパソコンを開いたら、GoogleとかYahoo!の画面のように、ハコベルの画面が立ち上がる。それくらいスタンダードになる世界をつくりたい。
ハコベルコネクト サービスイメージ
 ただ、一般貨物のほうがデジタル化の難易度は高い。電話でのアナログなコミュニケーションが根強く、電話するまでどの運送会社が配車できるかわからず、空いているトラックを確保するのにもまた電話する、といったことが起こっていました。
 いきなりすべてをウェブ発注に移行するのは難しいので、今は電話でのオペレーションと半々で対応しています。そうすると受け入れられやすい。一度「ハコベル コネクト」を使ってもらえれば、土日や夜間など時間外の対応でウェブを使う機会も出てくる。そうすると、「意外とウェブ発注は便利だ」と理解してもらえます。
「ハコベル コネクト」でポイントになるのは、荷主、ハコベル、運送会社の取引がすべてデータで入力され、データで出力されるということ。これまでは、ひとつの運送案件の情報が、複数の運送会社で、電話・FAX、個別のエクセルファイルなどで管理され、共有されていませんでした。
 それを、オンライン上で可視化し、運送業務に関係する複数の企業が情報をスムーズに連携できるようにする。リアルタイムでの配車管理ができます。また、情報伝達にかかる手間が大幅に削減され、伝達ミスもなくなります。
 このすべての案件の受発注、トランザクションと決済の情報のデータ化は、3年以内には実現したいと思っています。
 人でなければならない部分は、どんなにデジタル化しても残ると思っています。だからシステムで効率化できるところはうまくシステムに置き換えて、人にしかできないところに人を配置する。いきなり全自動にするのではなく、現実的なところからデジタル化を進めていくのが、巨大な既存産業をデジタル変革する醍醐味だと感じます。
 物流をデジタル化するというパズルは、そんなに簡単に解けるものではありません。だからこそおもしろい。難易度が高いので、長い時間がかかっても、飽きずにやれるなと感じます。
 複雑な事象だからこそ、さまざまな登場人物がいて、業務フローも込み入っている。それを構造的に捉え、順序立てて解決していける人。そういった情報の整理が好きな人には、ハコベルのプロダクトマネージャーは向いている仕事だと思います。
 あとは、ドライバーや運送担当者など、これまでに接点がなかった人と話して、そこから学習していける人。人から信頼される人ですね。社内の行動指針である「ラクスルスタイル」にもある、現場から学んで物事を高解像度で捉える、Realityを大事にすることにもつながってきます。
 ITのサービスは短いスパンで成果を求められることが多いと思うのですが、ラクスルでは長い時間軸のなかで、正しいプラットフォームの姿を定義して、そこに向かって着実に歩んでいくことが推奨される。
 そうあるべきだと、代表の松本を始めとしてメンバーみんなが思っています。そういった時間軸で、社会貢献度の高い大きな課題にチャレンジできるのは、幸せなことだと感じますね。
(編集:中島洋一 構成:崎谷実穂 撮影:吉田和生 デザイン:黒田早希)