“未経験”は強みだ。市場のパイを広げる新・エンジニア採用論

2019/12/20
 データ活用や業務のデジタル化の重要性が叫ばれる中、優秀なITエンジニアの獲得は、企業にとっての死活問題だ。

 そんな中チームラボエンジニアリングでは、優秀なエンジニアを「育てる」試みをしている。同社が活用するのは、未経験からエンジニアを育て人材紹介まで行う「テックキャンプ」。同プログラム経由で20名以上採用し、社内教育にも力を入れる。

 IT業界に限らずどの企業も抱えるエンジニア採用の課題を、どのように解決しているのか。IT人材不足の背景を読み解きながら、チームラボエンジニアリング創業者の森山洋一氏、テックキャンプを経て同社への入社を果たした菅原圭太氏へのインタビューで解き明かす。
“奪い合わない”採用戦略
──チームラボエンジニアリングは、デジタルアートで知られるチームラボのグループ会社なんですよね。
 はい、そうです。担っているのは主にソリューション部門で、大規模開発から実証実験まで、多種多様なウェブサービスやスマホアプリの受託開発を行っています。社員は100%エンジニアです。
 2016年の創業時のメンバー数は、たった2名。事業として伸びる手応えを感じ、ここ2年で採用体制を強化し、入社予定を含めて約100名までメンバーが増えました。
── それだけの数のエンジニアを、どうして一気に採用できたのでしょうか?
 もちろんスムーズに採用できたわけではなく、最初は課題だらけでした。
 まずは採用担当者がいない。つまり、面接の日程調整から、候補者とのコミュニケーションを含め、採用プロセスを全部私自身が担当していたんです。完全なワンマンプレーで、もちろん手が回らなくなります(笑)。
 さらに今は、IT業界に限らずどの企業だって、優秀なエンジニアを採用したいんです。実務経験のあるエンジニアは、もう採用マーケットで取り合い……。採用する際には、会社の雰囲気や考え方にマッチしている人かどうかも、重要です。
 そこで考えたのが、人材を「奪い合う」のではなく、「育てる」方針。エンジニアとして経験が浅い方でも採用し、社内で教育することにしたのです。今では3割程度のメンバーが、実務経験なしで採用されています。
──実務経験なしのエンジニアを採用することは、リスクではないのでしょうか?
 前提としてプログラミング経験がゼロの人は採用していません。そもそも向いているかも判断できませんし、本人の熱意も測れませんから。
 そこで「実務経験はないけれど、プログラミングの基礎が固まっている」層の採用方法として、テックキャンプを活用し始めたんです。この2年で20人以上、テックキャンプ経由で採用してきました。
 テックキャンプ経由で面接に来る方の共通点で気づいたのは、学習意欲が高いこと。エンジニアになるために仕事を辞めて10週間、プログラミングだけを勉強してきた人たちなので、とにかくやる気がある。
 そんな若手を見て、「こんな人材を教育したら、どう成長するんだろう」と、ワクワクしたんです。
 そこでまず一人採用してみたところ、そのメンバーが複数のプロジェクトで、結果を出し続けてくれて。今では、安心して開発を一人で任せられるまで、育ちました。その実体験から、テックキャンプ出身者の採用を、どんどん増やしていきました。
──実務経験がない人材を増やしてみた感想はいかがですか?
 もちろん、人は勝手に育っていくわけではないので、入社後のサポートは必要です。
 私たちの場合は、経験の浅いメンバーには、チームラボのリードエンジニアの中から専任の教育担当をアサイン。知識やスキルのキャッチアップのために併走し、成長を支援しています。
 ですがそれだけではなく、エンジニア経験が浅い人材だからこその、強みがあることにも気づきました。
 エンジニア経験がないことの裏を返せば、別の職種や業界での経験があるということ。クライアントの要望を聞き出す力や、チームをまとめる力など、幅広いスキルを備えている人も多いんです。
 たとえば営業出身者であれば、クライアントの要望を仕事にフィードバックさせるのは当たり前で、クライアントの獲得数や売上といったKPIを意識した動きもできますよね。
 今はエンジニアだけでなく、プログラミングの知識を持ちつつ、全体管理もできるプロジェクトマネージャーの需要も高い。異業種出身者をエンジニアとして育成することで、長期的にはエンジニア以外のポジションも期待できると思います。
なぜ“ミスマッチ”が少ないのか
── テックキャンプでは、エンジニアとしての育成だけでなく、転職サポートも行っていますね。
 採用する立場としても、かなり価値を感じています。特にありがたいのは、チームラボエンジニアリング専任の、キャリアアドバイザーがついてくれること。私たちのカルチャーを理解して、テックキャンプ受講生に伝えてくれるので、採用時のミスマッチが少ないんです。
 たとえばチームラボグループは、リモートワークを認めていないんです。チームで開発を進めるので、「コミュニケーションを大事にしたい」思いからです。
 ですから「誰とも話さず、黙々とコードを書きたい」という人は、あまり向かない職場。このような傾向を理解していただいているので、テックキャンプ経由の採用は、スムーズに進みます。
 受講生の中には「チームラボエンジニアリングに入りたいからテックキャンプに入った」人もいると聞いていて、すごく嬉しいですね。
── 森山さん自身も、独学でプログラミングを習得したとお聞きました。
 そうなんです。実は私も文系出身で、プログラミングを始めたのは社会人になってから。1社目の会社でエンジニアとして採用してもらい、当時インターネットがそこまで普及していなかったので、本を何冊も買って勉強しました。
 仕事が終わってからまた勉強、休日も朝起きてすぐにパソコンに向かうような生活を続けていました。当時テックキャンプのようなプログラムがあったら、確実に利用していたでしょうね(笑)。
 こういった実体験があるから、経験が浅い方でも雇ってみたい、どう成長するのか見てみたい、という気持ちが強いのかもしれません。
 エンジニアの仕事は、スキルアップするほどに見える景色が変わる。一緒に新しい景色を見られるよう、これからもメンバーが存分に成長できる環境を整えていきたいと思っています。
「今やらないと後悔する」
── 菅原さんは異業種からエンジニアへ、キャリアチェンジしたと聞きました。その背景を教えてください。
 大学卒業後、非鉄金属メーカーで3年間、ネットワーク機器を販売する法人営業をしていました。
 仕事は楽しかったのですが、ネットワーク機器を売っているうちに「自分も作り手側に回ってみたい」と考えるようになってしまって。人の生活を変えるようなITサービスが、世の中に次々と誕生していることにも、ワクワクしていました。居ても立っても居られず、エンジニアになる決意をしたんです。
── それまでプログラミングの経験はあったんですか?
 いえ、大学も経済学部だったので、経験はゼロでした。確かに不安はありましたが、当時の僕は26歳。「今やらないと後悔する」と決断し、会社を辞めました。
 それと同時に、テックキャンプを受講し始めました。そこから約2ヶ月半、平日も土日も渋谷の教室に通いつめる日々が始まりました。1日約10時間、ひたすらプログラミングです(笑)。
── どんな内容なのでしょうか?
 オリジナル教材が用意されており、基本的にはそれを自力で進めていきます。最終的には、Web上に写真やコメントを投稿できる、簡易的なInstagramのようなサービスを、一人で作れるようになりました。
── 途中で嫌になってしまうことはなかったのでしょうか?
 初心者はつまずくことばかりなので、もちろん大変な日々でした。ですが、分からないことを質問できるメンターがいたので、完全に行き詰まってしまうことはありませんでした。
 また、周りの受講生の存在も大きかったです。みんなエンジニアになるため会社を辞めて受講しているので、モチベーションが高いんです。良い意味で切磋琢磨できる環境でした。
卒業から3週間で転職成功
── テックキャンプを選んだ決め手は、何だったんですか?
 転職までサポートしてもらえることは、決め手になりました。やはりそこが一番の不安要素だったので。
 実際、テックキャンプを卒業してから、3週間ほどでチームラボエンジニアリングに転職が決まりました。このスピード感は、ありがたかったですね。
── 今の仕事内容を教えていただけますか?
 サーバーサイドのエンジニアとして、クライアントから依頼を受け、APIの実装やインフラ部分の構築を担当しています。
 入社して最も達成感があった仕事は、あるECのアプリ開発のプロジェクトを、メインのテスターとして一貫してやり遂げたこと。
 テスターの仕事って地味に感じるかもしれませんが、プロダクトの仕様や使われている技術をしっかり理解した上で、不具合はないか、使い勝手はいいかを検証する必要があります。入社3ヶ月ほどでそこまで持っていけたのは、自信になりましたね。
── テックキャンプでの経験は、仕事にどのように役立っていますか?
 プログラミングの基礎を固められたのは、もちろん非常に役に立っています。ですが、もう一つ価値を感じているのが、手詰まりになった時に、自分でどう解決するかを学べたこと。
 エラーになってしまった時の解決法として、さまざまなアプローチがあるんです。それを学べたことで、先輩の負担になる前にまずは、自分で手を打てるようになりました。
── チームラボエンジニアリングで、今後チャレンジしたいことを教えてください。
 入社して1年以上経ち成長を感じる反面、体系的な知識や言語特有のノウハウは、まだ足りないと感じます。自分で本を買って勉強したり、テックキャンプ時代の仲間と勉強会を開いたり、まだまだ勉強の日々ですね。
 チャレンジというと、今もまさに新規アプリ開発の実装部分を担っていて。これを達成できたらもう一段階レベルアップできそうだと、不安もありつつ今からワクワクしています。
 今後はお客様の要望を聞いてプロダクトに落とし込む、上流工程にも携われるエンジニアも目指していきたい。これからも初心を忘れず、学んでいこうと思います。
※2020年3月2日以降、「TECH::CAMP/TECH::EXPERT」はブランド統合され、「TECH CAMP(テックキャンプ)」となりました。これに伴い、文中のサービス名も記載を変更しております。
(取材・編集:金井明日香、構成:小林義崇、写真:小島マサヒロ、デザイン:岩城ユリエ)