【辻愛沙子】起業家には「余白」が必要

2019/12/8
今回の『The UPDATE』では、「なぜ日本は起業に無関心なのか?」と題して、辻愛沙子氏(株式会社arca CEO/Creative Director)、本間毅氏 (HOMMA, Inc.CEO)、山本将裕氏(ONE JAPAN 共同代表)、渋川駿伍(株式会社noFRAME schools 代表取締役CEO)氏、林揚哲氏(中小企業庁 創業新事業促進課)計5名をゲストに迎え議論を交わした。
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番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、辻氏の「自分に向いてる役回りがある」に決定。
株式会社arca CEOである彼女は、誰もが気軽で気楽に健康診断/婦人科検診を受けられるワンコインレディースドック(Ladyknows Fes 2019)や、自身が立ち上げのブランディングを手がけたタピオカ専門店の「Tapista」のキャンペーンとして、選挙当日に投票所でもらえる投票済証明書を提示すると、タピオカドリンクを「全品半額」で購入できる「Tapista ×選挙に行こう!キャンペーン」など、若者を中心に社会的にインパクトのある施策を次々に打ち出している。
果たして彼女は、起業をするということについてどのように捉えているのか。番組放送後、お話を伺った。

凸凹差が強烈で自然と見えてきた

自分の役回りを起業家だと自覚したのは、どのような経緯からだったのだろうか。
 私の場合は、幼い頃から得意不得意がすごく明確だったんです。
昔から学校でも、学年一位の教科と学年最下位の教科がどちらもあるようなタイプで、今までも経費精算とか勤務表の記録とかすごく苦手で、いつも周りの何倍も時間がかかっていました。
もし自分が経理やPMをやるとなると社内で一番能力が低い自負があります。
できないことで人に迷惑をかけたくないという思いもあって、次第に自分が好きなものや得意なものにシフトするようになりました。
加えて、学生時代は価値になるとは思っていなかった自分の性質が、社会人になってからは社会やクライアントなど、他の誰かに価値として提供できる物なのだと初めて感じられるようになったんです。
誰かに楽しんでもらったり、誰かの手助けになったりするようなアイデアを考えることが、ビジネスとして評価してもらえる。
日本の学校って特に、平均点を求める世界なので、学年一の教科があっても赤点がひとつでもあれば放課後居残りになってしまう。
そういう平均点を求める社会においては、私のような人間はとても生きづらかった。どのフィールドにいたら社会や周囲に貢献でき、自分自身も輝けるのか。
そして、どのフィールドにいたら迷惑をかけるのか、ということを、私の場合はあまりにも自分の中の凸凹の差が大きかったから、自然と見えてきたところはあります。
あと、私は単純に仕事がめちゃくちゃ好きなので、雇用されていないから好きなだけ仕事に向き合えるというのもあります。
会社員だとどうしてもオフィシャルでは労働時間に制限があるじゃないですか。経営者なら好きなだけ仕事ができる、それがとても幸せです。
もちろん、凸凹の差がそこまで強烈ではなかったとしても、誰だって大なり小なり自分の個性というのはあると思うので、まずそこを自覚するといいのだと思います。

他の「役回り」との連帯

また、辻氏は起業をする上で自己認識に加えて「周りとの連帯」も重要だという。
 なぜ日本に起業家が少ないかという話だと、番組内でもありましたが、旗揚げする人だけでなく、起業家をサポートしてくれる人が少ないからだと思うんです。
起業家をサポートするような社会構造ではないし、何かアイディアや夢をかかげたときに「いいね!」よりもまず「え?」とちょっと引いてしまうような日本の風潮は大きいと思います。
何か声をあげたときにまずは聞いてくれるような人が増えれば、一言目を発することも躊躇いがなくなるし、それによってチームも生まれやすくなります。
番組内でお話しした「役回り」という言葉も、決して起業家だけに限った話ではありません。
別に誰もが旗揚げして名をあげることが全てではないと思うし、自分の輝ける場所を見つけることの方が大事だと思います。
私はバランサータイプではないから、それによって仕事で活かせている部分はあるけど、できないことも山ほどあります。
今の仕事でいうと、クリエイティブディレクターがいて、コピーライターがいて、デザイナーがいて、進行のプロデューサーやPMがいて、いろんな人たちが関わっています。
PMがスケジュールをひいてくれないと、私はスケジュール管理が苦手なのでその日に何をすればいいのかもわからなくなってしまう。
自分とは他の領域を担い合える人がいないと生きていけないし、いろんな人たちの力があって、だからこそ得意な領域にフォーカスすることができる。そのために組織があると思っています。
だから私はフリーランスとして個人で働くのは向いていないタイプですね。

経営者に必要な「余白」

また、辻氏は起業家が陥りやすい孤独についてこう語る。
 ビジネスや、私の仕事であるクリエイティブ領域って、具体的なアウトプットがすべてなんですよね。
企業や企画の個が立っていくプロセスにある苦悩や葛藤って、見える化しないので。社会がどこにお金を払うかといったら、プロセスではなく、アウトプットです。
もちろん、対社会の評価はそれでいいと思うのですが、組織で一緒に働いている仲間たちが具体的なアウトプットの前段階にある「見える化されていない思考」に対するリスペクトがないと辛いですね。
経営者の孤独って、社員が自分以上に自分ごと化してくれないことなどもあるとは思うんですけど、そのアウトプット前の思考に対するリスペクトのなさもあると思うんです。
日本って行間を読む文化があるはずなのに、対経営者になるとあまり発揮されていないような気もします。
たとえばGoogleカレンダーで打ち合わせやプレゼンがぎゅうぎゅうに詰まっていて、ぱっと見とても働いているように見えるけど、大切な思考の時間がとれていない。
これは経営者としてはあまり良くない状態だと思います。
経営者やクリエイティブディレクターという仕事は組織の道筋を立てることがひとつの仕事であったりするので、具体的に見えている仕事以外の余白が大事。
そこに対する社員のリスペクトや理解、コミュニケーションがないと、一人疲弊していくなと思う。
具体的に動く仕事ではなくて、思考する仕事がある、ということを理解してもらわないといけないんですよね。
日々業務で忙しい人からしたら、考えているだけの経営者に対して「いやいや仕事してくださいよ」って思われちゃうのもわかるんだけど、やっぱりそこには役回りがあるから、その役回りに必要なプロセスがある。
これは経営者に限らず、自分の役回りと違う役回りの人がしている仕事に対する理解の重要さですよね。
経営者やマネジメント層も、当然のごとく別の役回りのメンバーにとって重要な部分や時間の使い方などをリスペクトしていくべき。
他の役回りの人が大事にしているプロセスは、自分が普段している役回りからは想像を超えるものである、と理解する。
違う役回りに対するリスペクト、そして自分の役回りをしっかりと自己認識していく。
そのふたつが組織においては重要なのかな、と思いますね。

次回のテーマは “2020年の日本”

2020年はオリンピックも開かれる節目の年。
オリンピックを前に、インフラ、移動などシステムの整備も進み、日本が大きく変わる年です。
果たして、2020年を境に日本は繁栄するのか?それとも国力は後退するのか?
経済、ビジネス、ソーシャル、政治や文化など様々な観点から、著名人や専門家を招いて討論します。
<執筆:富田七、編集:佐々木健吾、デザイン:斉藤我空>