【戦略】なぜNBAのSNSはどこよりもバズるのか?

2019/12/7
『スポーツの熱狂を作り出す規格外のNBA』。第3回はNBAが取り組む「魅せる技術」だ。そこに常識はない。どうすれば試合が面白くなるか。ファンが熱狂できるのか。徹底的に追求したその戦略を紹介する。

おもしろいを追求する、NBAの独自発展

 NBAほど観客の満足を追求するリーグはないかもしれない。
 ここまでNBAの魅力を「数字」や「アリーナ」から見てきたが、一貫しているのが「いかに熱狂を作り出すか」という視点だ。
 象徴的なのがルール。面白く魅せるためには、ルールを変えることもいとわない。
 日本を含め世界中のリーグのほとんどはFIBA(国際バスケットボール連盟)のルールに基づいているのだが、NBAは独自のルールを使用している。
 試合時間、3ポイントラインの距離、ファウル数、ゾーンの有無などが特に顕著なものだろう。
 両者の一番の大きな違いは、FIBAが公平性を重視しているのに対して、NBAがエンターテインメント性を重視していることだろう。
 加えてFIBAは世界中のリーグと関係しているため、柔軟なルール変更はなかなか厳しい。
 逆に言えば影響範囲が自分たちだけのNBAは、ルール変更に対して積極的と言える。意図的なファウルゲームなど、ルールの穴を突いてゲームのバランスを崩すような戦略があまりにも蔓延すれば、その穴をすぐに埋めることができるのだ。
 最近では、NBAの下部リーグであるNBA Gリーグで様々なルールを試験的に導入し、ある程度の結果が出ればNBAで採用するという流れが作られている。第2回に記述した「コーチチャレンジ」もまさにそれだ。
【戦略】NBA「人を集め過ぎない」ことで作る観戦の価値
 今シーズンのGリーグでは、本来シュートファウルに与えられる2本のフリースローを1本に減らし、1本決めれば2得点、外せば0得点というルールを試している(試合終盤を除く)。
 これまでのバスケットボールの歴史を大きく変えうるルールだが、それによって試合がスピードアップし、ファンがより集中して見られるのであれば「有り」という判断で試験的に運用しているのだ。
 渡邊雄太が所属するメンフィス・ハッスルや馬場雄大が所属するのテキサス・レジェンズの試合を見る際には、ぜひそういった面もチェックしてほしい。
メンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を結ぶ渡邊雄太、普段はGリーグでプレーしている(ZUMA Press/AFLO)

時代性を生かしたSNSの活用法

 毎年のようにルール変更が行われていると世間への認知も大切になってくるが、NBAはほかのスポーツリーグと比較して圧倒的にソーシャルメディアの使い方がうまいことで有名だ。
 試合中にリプレイやコーチチャレンジが発動した場合、専用のアカウントでその理由と結果の逐一をTwitterに投稿している。
 Twitterのフォロワー数を見ても、NBAの公式アカウントが28,712,329人であるのに対して、NFLが24,796,470人、MLBが8,506,805人と大差をつけているのがわかる。
 チーム単位で見ても、NBAチームのツイッターやインスタグラムのフォロワー数は他リーグのチームよりも多い。
 これだけの「フォロー」を獲得できる理由の一つとして挙げられるのは、バスケットボールとTwitterの親和性の高さにある。
 バスケットボールは得点機会が多く、1プレーはショットクロックの24秒以内に収まるのがほとんど。ソーシャルメディアで好まれる「短くておもしろい」に当てはまる動画を生み出す機会が単純に多いのだ。
 おもしろいだけではなく、「早い」のもポイントだろう。スーパープレーが飛び出せば、もう次の瞬間にはチームの公式アカウントやテレビ局のアカウントがTwitterのタイムラインに動画を流している。
 冗談ではなく「数秒後」というスピード感で運用されている。
 さらに専門メディアや記者なども、自分たちでキャプチャしたプレー動画を使い、深く解説したものをソーシャルメディアにどんどんアップしている。『#NBATwitter』という公式タグも生まれ、NBAのツイッター内での盛り上がりは凄まじいものがある。
 懸念される著作権などにおいても、NBAは抜かりない。試合丸ごとや長時間の動画は取り締まっているものの、ソーシャルメディアに投稿される短い動画に関しては、許容する姿勢を早い段階から示した。
 それによって、リーグ側は何もしなくてもNBAの動画がネット上で爆発的に広まり、リーグに対する興味や認知度が向上するという利益を享受できているのだ。
 選手たちも積極的にソーシャルメディアを利用しており、他選手のハイライト動画に反応したり、選手同士のやりとりなどがニュースに取り上げられるケースも多くある。
 特に選手のアカウントはオフシーズン中が最も活発で、移籍情報や選手のオフの過ごし方などを覗ける最高の場として注目されている。
 今ではNBAは試合が行なわれるシーズン中だけでなく、オフシーズンでさえもがひとつのエンターテインメントとして成り立っており、1年を通して楽しむことができる。
 このように、NBAはアリーナ文化やルールへの柔軟性、ソーシャルメディアでの発信力など、様々な要素が絡み合った上で大成功しているのだ。

最重要なプレーレベル

 ただ、ここまで様々な角度から「NBAの魅力」を解説してきたが、人気や成長を下支えしているのも、NBAが多くの人を惹きつける一番の理由も、やはり「プレー自体のレベルの高さ」だ。
 派手なダンクや華麗なパス、緻密な戦術などには、多くのファンを熱狂させる圧倒的なパワーがある。
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 何より、これまで紹介してきたどんな工夫も、「プレーの本質的なレベル」を第一義に置いていることに大きな価値があると言える。
 当たり前と言われれば当たり前だが、NBAがプレーを最重要視していることが躍進の一因となっているのは疑う余地もないことだ。
 そういったプレー面での変化と言えば、現在、プレーの質の向上を促しているのがアメリカ以外の選手の活躍だ。
 近年、バスケットボールの国際的な広がりを受けて、海外出身選手のレベルが上昇している。今や構成する選手の半分以上が海外出身となっているほどだ。
 特に2018-19シーズンは、リーグの国際化が顕著に現れていた。
 年間最優秀選手賞がヤニス・アデトクンボ(ギリシャ)、年間最優秀躍進選手賞がパスカル・シアカム(カメルーン)、年間最優秀守備選手賞もフランス出身のルディ・ゴベアが獲得と、多くの個人賞を海外出身選手が獲得したのだ。
2018-19シーズン最優秀選手賞のヤニス・アデトクンボ(Stacy Revere/Getty Images)
 もちろん、アメリカ国内にもジェームズ・ハーデン、ケビン・デュラント、ステフィン・カリー、レブロン・ジェームズといったリーグを代表するスター選手が揃っている。
 まさに世界中のトップ選手が集まる、ハイレベルなバスケが展開されるリーグとなっているのだ。
 日本のBリーグでも千葉ジェッツが1万人アリーナ構想を発表したり、バンダイナムコが島根スサノオマジックの経営に参画したり、リーグとしての発展が期待される動きが出始めている。
 NBAのやり方が絶対的な正義であるとは言わないが、同じスポーツであり、かつ成功しているリーグとして、参考になる点は多いだろう。
 リーグとして、興行としてどんどん進化していくNBAは、やはり今後も目が離せない。
(執筆:大西玲央、編集:日野空斗、黒田俊、デザイン:松嶋こよみ)