「高学歴」は経済的特権を永続させる条件

2019年3月、アメリカの超名門大学に大金を払って子どもを裏口入学させた富裕層の親たちがFBIによる捜査が行われたと報道された。金銭と特権で「優秀さ」を買おうとするのはよくある話だ。この裏口入学スキャンダルは、「高学歴であること」が、社会的地位のアクセサリーというよりも「経済的特権を永続させる条件」になることを示していると感じた。
経済的チャンスの不足については、私自身が実感している。わたしは定職に就くために1年以上もの時間を費やしたばかりだ。無職はつらいが、博士号を持っているのに無職なのは、もっとつらいものだった。
昨年、大学院を修了する前、博士号さえあれば、働き口なんていくらでも選べるだろうと私は思っていた。ところが実際は、香水売り場の売り子などのアルバイトで食いつなぎながら、骨の折れる定職探しに明け暮れる毎日だった。博士号を持っていても、たとえそれがアイビーリーグ校の上級学位であっても、すぐに雇ってもらえる保証なんてどこにもないのだ。
長時間の通勤・通学と論文執筆のはざまで、私は何とか時間のバランスをとっていた。私の家からアルバイト先までは1時間10分かかり、大学までは1時間半かかった。ただし、それはニューヨークの公共交通機関が運行している時の話で、そうでないときには2時間以上かかった。
私は大学から遠く離れた場所に住んでいたので、時間どおりに教室に着くのは奇跡に近かった。ある日、経済学の授業に遅刻してしまったときには、授業のあと教授からメールがあった。「遅刻されると迷惑なので、これからは遅刻しないように」
私はいつも、6時半に起きて朝食をさっと済ませ、長い道のりを経て11時の授業に何とか遅れずに出席していた。そのことを教授は知らなかったのだろう。私は謝罪のメールを返信し、自分がどこに住んでいるのかを教授に伝え、もう遅刻しないことを約束した。
昼は授業に出て、夜はアルバイトで働き詰めの私生活について聞くと、クラスメートは驚いていた。私が遠くに住んでいることを知ると、キャンパスの近くに引っ越さない理由を知りたがる人たちもいた。
もちろんその理由は、大学に近い学生街に引っ越せば、学生ローンがさらにかさむからだった。それに、労働者階級出身の私は、できるだけコスト全般を抑えようと努力していた。

社会的地位や貧困は、容赦無くチャンスを奪う

学位の取得を目指しながら働かなければならなかったせいで、経済的特権に対する私の意識はより強いものになった。クラスメートとしゃべっていると、彼らのほとんどがお金のことなんて気にしていないことに気づかされることがよくあった。
アメリカ人であれ、留学生であれ、彼らの多くは特権階級の出身者か、母国から奨学金をもらっている人たちだった。なかには、週末はスキーに出かけたり、パーティーに明け暮れたりしている人たちもいた。
一方の私はアルバイト三昧で、海外で行う夏季フィールドワークに向けて貯金に励んでいた。クラスメートと自分の優先順位が違うことは、ほとんど気にならなかった。
きっと最後に私の努力は報われると思っていたからだ。
学位取得から14カ月が経っても、私はアルバイトを続け、努力が報われるのを待ち続けていた。私はいくつもの企業に応募していた。面接や筆記テストにつながることもあったが、採用はされなかった。
私には、人に誇れるスキルがある。海外や政府機関、国際機関でプロフェッショナルとしての経験を積んだ実績もある。3つの言語に堪能で、世界有数の名門校の博士号も持っている。そんな私が今年7月まで持っていなかったもの。それは定職だった。

「できない」のはあなたの努力が足りないせいじゃない

米国勢調査局の最新データによれば、2017年には学士号以上の学位を持つアメリカ人のうち4.8%(約370万人)が、貧困とされる状況だったという。2016年の数値は4.5%(約330万人)だったので、その割合は上昇している。教育水準が低い人々の貧困率に比べればずっと低いとはいえ、この期間に貧困者の割合が上昇したのはこのグループだけだった。
私はいま、ニューヨーク市政府で働き、心から情熱を持てる問題に取り組んでいる。不思議な気分だ。以前の私は、定職を見つけるまでにかかった時間を嘆いていた。しかし、自分がいまの仕事をどれだけ好きなのかを考えると、最高の仕事は待つだけの価値があるということもよくわかる。
私は今やっと、自分はいるべき所にいる、と実感できるようになった。そして、そのことに胸を踊らせている。
しかしその反面で、実力主義はまれなものだということも痛感している。そんな私から、最後にアドバイスを。試練や挫折はあなたの「努力不足」が原因なんかじゃない。あなたは十分頑張っている。ライバルがたまたま持っていた特権を、偶然あなたは持っていなかったのかもしれない。決して、あなたの努力が足りていないことの証しではないのだ。
筆者のアニカ・ミシェルは2018年に国際関係学の博士号を取得。現在は公共政策の分野で働いている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Anika Michel、翻訳:ガリレオ、写真:kasto80/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.