マネジメント術を学んだのは異文化だった

私はキャリアを通して世界中の都市で働き、暮らしてきた。新しい任地に赴いたときはいつも、現地の文化やビジネス慣習を積極的に吸収するようにした。
そうしたグローバルな経験から、私は異文化での効率的な仕事の仕方を覚えると同時に、文化を越えて使えるスキルもあると学んだ。新しい土地で身につけたスキルが、誰とどこで交流するにも役立つときがあるのだ。
たとえばある国で無礼だと思われていることが、別の国ではとても親しみやすい印象を与えることがある。上手に人間関係を築くスキルは文化によって異なるのだ。
私が仕事で新しい国に行ったときには、ただ1、2日過ごすのではなく、何ヵ月も滞在して、そうした微妙な文化的ニュアンスを理解しようとした。

相手を知り、そこから関係を築く

ある文化圏では、商談相手や同僚と関係を築くために長い時間を過ごすことが必要な場合がある。ビジネスの取引を交わす前提として、自分の利害や意図、その関係に投資する意欲を伝えられるようになるまでには、時間を必要とするのだ。しかし一方で、すぐに本題のビジネスの話に入りたがる文化圏もある。
自分の行動が特定の文化圏でどのように受け止められるのかについては、時間をかけて理解することが重要になってくる。同時に、人と関係を築くという私たちの能力は、場所によってやり方は違っても普遍的なものであると、私は学んだ。

マネジメントに活かす「多様性の束ね方」

職場でも人の働き方は多様だ。外交的な人もいれば内向的な人もいる。チームで働くのが好きな人もいれば、協力する前にひとりでじっくり考えたい人もいる。
リーダーとしては、それぞれの異なる働き方を、時間をかけて理解し、成功できるチームを作るには一人も欠けてはいけないと認識することが重要である。私は異文化で働いた経験を生かし、要望や好み、スキルが多岐にわたるチームをうまく率いることができている。
部下の中には、私に彼らのデスクまで行って質問してほしいと思っている人もいれば、そうしたアプローチを好まず、メールのほうがやりやすい人もいる。私はそうした違いを知っている。だから雑談を好まない人には単刀直入に話すし、間接的なほうがいい人にはそうする。
すべては、みんなが最上のパフォーマンスを発揮できるように、彼らの違いを知り、それぞれについて何が効果的なのかを学ぶことにある。

好奇心をもってアクティブな聞き手になる

人の話を集中して聞くのはどこでも大事だが、見知らぬ土地で文化的なニュアンスを聞き逃しがちなときには特に重要だ。誰かとの会話に全神経を集中させるのは簡単なようで難しい。
話をしている人は、聞き手の気が散っているとすぐに感づくし、それは興味がないからだと受け取る。このように聞く力は多大な影響を及ぼし得るのだ。
会話スキルを磨いたり会話の内容を深めたりする最善の方法として私が見つけたのは、人に対する好奇心だ。それは、相手のことを本当に知りたいと思う気持ちから始まるは興味や関心を共有するために、簡単で間口の広い質問から始め、どんどん質問をしていくといい。
いったん相手が熱中しているトピックが何なのか分かったら、互いの共通点を見つけることができ、そこから関係を築いていけるだろう。たとえば、私にはこんな出会いがあった。

学び続けること、でも知らないことには正直であること

テニスの全米オープンを観戦しに行ったときのことだ。エンジニアリング・ソリューションの分野で働いている人に遭遇した。彼が取り扱う再生可能エネルギーについて、偶然記事を目にしていた私は自分の知識をもって、持続可能エネルギーについて話し質問した。その結果、彼と親しくなり、ビジネスにも繋がるような信頼関係を作ることができたのだ。
仕事に直接つながらない知識だとしても、興味を持って学び続けることで、幅広い分野の人々とつながる多くのチャンスを得ることができる。そして同時に、自分の知識と情熱について正直であることも求められる。
私はスポーツにそれほど関心はなく、決勝ラウンドになるまでだいたい興味がない。そんな私が、もし全米オープンで彼と話したときに、テニスを1年中観戦している振りをしていたら、私が「本物のファン」でないことはすぐにばれていただろう。
その一方、互いの共通点に関する話題からまた別の共通の話題へと移っていくと、ビジネスの話にスムーズにつながりやすい。日をあらためて仕事の打ち合わせをすることを確約できるかもしれない。
私はこの関係構築モデルは、クライアントとつながるだけでなく、自社の従業員との関係においても重要だと思っている。

共感と思いやりを忘れない

ミレニアル世代やジェネレーションZはインターネットとスマートフォンと共に成長してきたが、その利便性に依存して、デバイスを通したコミュニケーションに頼り過ぎることには多少のデメリットがあるようだ。
私は、部下との直接顔を合わせた対話、またはビデオ通話をできるだけすることが、とても大事だと考えている。これは前述した積極的に聞く努力の一つでもある。顔を見ながらの会話は、互いの集中力を促す。それに比べて、テキストだけのやり取りで全神経を集中できたことがあるだろうか。
クライアントに接するときと同様に、従業員について深く理解しようとするのは重要だ。私は外国での生活でステレオタイプを持たないようにすることを学んだ。これは社内で、若い人たちと仕事をする際に役立っている。その世代に対するステレオタイプに基づき、彼らについて一般化したり何かを想定したりしてはいけないのだ。
たとえば、ミレニアル世代はほぼすべてをテクノロジーでのやり取りで済ましたがるという思い込みがあるだろうが、実際には、彼らの多くが人と協力して働くほうを好んでいる。同僚やクライアント、その他のチームメンバーを一個人として見るようになれば、誰もが独自の価値をもって社のミッションに大きく貢献していると認識できるのだ。

結局はリスペクトが大事

長い外国暮らしで私が学んだのは、人は誰でも評価され尊敬されたいと思っていることだ。強いリーダーシップとは結局のところ、人の話を聞き、彼らと心を通わせるということ。
そうした姿勢で従業員と接すれば、彼らはその年齢や背景に関係なく、こちらを向いてくれるし期待に応えてくれるはずだ。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Brendan Walsh、翻訳:中村エマ、写真:the.epic.man/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.