新卒の30%は脱落。世界一「透明」な職場で成長するには

ジャーナリストに転身する前、私はブリッジウォーター・アソシエイツ(Bridgewater Associates)で1年間働いた。社内中誰もが上司や同僚を公然と批判できる企業カルチャー「徹底的な透明性」で悪名高い、世界最大のヘッジファンドだ。
ブリッジウォーターでのはちゃめちゃで充実した1年間、周囲では誰もがあるフレーズを呪文のように唱えていた。それが、「苦痛+反省=進歩」。人間関係に悩み、今にも泣き出しそうな人を慰めるのに使われた。大きな目標を達成したチームの打ち上げでも口にされた。
とりわけ、厳しい批判を受けた人へのメールのなかで使われた。そして誰かが手厳しく批判されるのは、ブリッジウォーターでは日常茶飯事だった。社員がお互いのパフォーマンスを日常的に判断する企業文化はしっかりと浸透しているのだ。

真実を直視して成功をつかむ

「苦痛+反省=進歩」はブリッジウォーターを創業したレイ・ダリオの哲学の礎だ。ダリオは『PRINCIPLES(プリンシプルズ)人生と仕事の原則』(日本経済新聞出版社)で、ブリッジウォーターの企業文化を支える210の原則を提示した。2017年にマニフェストともいえるこの本が出版されて以来、ダリオの原則についてはあちこちで論じられてきた。
自己弁護をせず純粋な好奇心を持って自分自身の強みと弱点を見つめ、一心に真実を追究してはじめて人は成功し、成長することができる。己を批判にさらすことで、自分の人柄や仕事や人間関係を高みから、客観的に見ることができる。そしてエゴにとらわれずに自分を客観視できてはじめて、人は真にロジカルな判断を下せるようになる。
もちろん、ブリッジウォーターほどに率直さを奨励する職場はほとんどないだろう。しかしどの職場にいようとも、自分を批判にさらして客観的に見つめ、真実を究めて人生を変えることはできる。
ダリオによれば、カギは効果的な目標設定と反復にあり、その2つを可能にするのが、「苦痛+反省=進歩」のマインドセットだ。

人生の手引きは自分で作る

ロサンゼルスで開かれたカンファレンス「サミットLA18」で、ダリオはスライドを見せながら「苦痛+反省=進歩」を解説した。
「大胆な目標を掲げれば、成功することも失敗することもあります。しかしそうやって、成功に至る道の途中で直面した試練はすばらしいメリットになります」と、ダリオは言う。
「試練にどう対処したか。これが非常に重要なのです。『苦痛』プラス『反省』イコール『進歩』なのだと私は気づきました」
「失敗して痛い思いをしても、その原因を究明し、次はどう乗り越えるか対処法を編み出せば、あなたは進歩し、学び、物事を変え、さらに進歩してもっと大胆な目標に挑むことができるでしょう。人生は循環して巡りゆくプロセスです。そして失敗は人生のプロセスの大事な一部であり、失敗から原則を見つけることで、人は進化しつづけるのです」
「要するに原則とは、何度も繰り返し起きる問題に対処するための処方箋なのです」と、ダリオは語った。目標を設定し、目標を達成するために努力し、その経験を振り返ることから原則は生まれる。成功してもしなくても、自分で編み出したいくつもの原則はやがて結晶化し、人生の手引きになる。
肝心なのは失敗の痛みを受けとめ、言い訳せず謙虚に失敗を振り返ることの難しさを認めた上で、積極的に原則を学ぼうとする姿勢だ。成功も失敗も公平に正面から見つめることができなければ、正しいゴールを設定するどころか同じ失敗を繰り返すことになる。

率直な発言からスタート。「小さな決断」を積み重ねる

失敗を直視するのは大切だ。しかし「苦痛+反省=進歩」の方程式において最も重要なのは、目標を定め、その達成に成功あるいは失敗するまでに下した決断を1つ1つ分析することだと、ダリオは言う。
「ゴールに向かって進む過程で私たちは膨大な数の決断を迫られ、それぞれの決断には結果が伴う。つまり、人生のクオリティーは私たちが下す決断のクオリティーにかかっています。私たちは数えきれないほどの決断を下し、そのすべてが積み重なった結果が人生です」
よい決断ができるか否かはその人に備わった知性や創造性ではなく、人柄によるとダリオは明言する。つまり賢く選択することは、誰にでも可能なのだ。
「進化するためには、限界を超えて力をつけなければならない。これは自然の基本法則で、限界を超えるには痛みを伴う。言い換えるならば痛みと強さは一般に、障壁への挑戦から生まれます。痛みを感じたとき、私たちが意志決定において重要な岐路に立たされていると知るヒントになるでしょう」

反射的に反省する癖をつける

だが痛みに直面するとたいていの人は「闘争・逃走反応」を起こしてしまうと、ダリオは言う。そうなると障壁を回避する方法を見つけるどころか、同じ過ちを繰り返すことになる。一方で痛みを受けとめ失敗を直視できる人は、強くなれる傾向にあるという。
「なぜなら学習成果のほとんどは失敗し、その原因を考え、別の方法を工夫することで得られるためです。痛みを伴う問題を解決する唯一の方法はそれについて深く考えること、すなわち反省することだから、痛みに直面したら闘わず逃げもせず反射的に反省する癖をつけてしまえば、あなたは速やかに学び、そして進化できるでしょう」
苦痛+反省=進化。頭に焼きついた方程式を、私は永遠に忘れないだろう。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Leah Fessler、翻訳:雨海弘美、写真:Sergydv/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.