【河合薫】「働き方改革」は必要ない

2019/11/30
今回の『The UPDATE』では「働き方改革は生産性を上げるのか?」と題して、LinkedIn日本代表の村上臣氏、ONE MEDIA 株式会社 代表取締役の明石ガクト氏、健康社会学者の河合薫氏、慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏、計4名をゲストに迎えて議論を交わした。
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番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、河合氏の「三つの玉(仕事、家庭、健康)をジャグリング」に決定。
働き方改革という制度自体に懐疑的な河合氏は、現状の課題についてどのように考えているのか。番組放送後にお話を伺った。
仕事、健康、家族を損なわないために
現状の働き方改革の具体的な問題点について、河合氏は番組内で「木を見ているばかりで、森を見ていない」と指摘した。
河合 例であげましたが、会社というのは森です。では森を作っているのは何かというと、土です。
そして、会社を作っている土壌というのが会社員です。森はどうやったら豊かになるかといえば、土壌を豊かにしていかないといけない。
ということは、会社もひとりひとりが生き生きと元気に働けるように改革をしないと豊かにはならない。そういう意味でお話ししました。
番組内で前野先生が幸福度が高いことで生産性が上がるというお話をしていましたが、まさにそういうことです。
土壌が豊かにならない限り、生産性も上がらない。現状の働き方改革は、土壌を豊かにするような方向性のものではありません。
一番わかりやすいのは、残業規制ですね。
長時間労働を改善するために、規制で無理やり直そうとしている。でも、企業というのは、みんなで集まってパンを食べる場所(company)なんですよ。
ひとつのビジョンに思いを寄せたひとたちが、ひとつの会社の名前のもと、同じ組織のメンバーとしてタスクをやっていくこと。
決して個人個人のフリーランスとしての働き方は焦点にはならないわけです。
そうじゃなくて、会社員としての働き方改革を考えないといけない。
土壌を豊かにするために、企業は具体的にどのようなアプローチをするべきなのだろうか。
河合 企業のカルチャーや事業内容によって変わってくるものだと思います。
ただ、ひとつ確かに言えるのは、人間を豊かにするような働かせ方をするためには、仕事と健康と家族という三つのボールをジャグリングのように回し続けられるような働き方をしないといけないということです。
働きすぎて健康を損なってしまったり家族を失ってしまったら、それは豊かな生活とは言い難いですよね。
なんのために働いているのだろう、と思ってしまう。
働くことで家であった嫌なことを忘れることができるかもしれないし、逆に仕事で嫌なことがあっても家で気持ちが安らぐかもしれない、健康も仕事のモチベーションも保てない。
三つのボールは不可分なものなんです。
豊かに働くためには裁量権が必要
河合氏は、仕事と健康と家族、この三つのボールを回し続ける働き方は、大企業に限らず、中小企業やベンチャー企業も同様に必要だと唱える。
しかし、番組内ではたとえばNetflixのような急成長でインパクトのある企業を指し、長時間労働や仕事で無理をすることに対して肯定的な意見が発せられる場面もあった。
河合 エネルギッシュでもいい企業というのもあるでしょう。
でもそれは、社員が働きづめになったとしても、ブレーキを踏んだりアクセルをふかしたり、そういう緩急を自分でつけられるような環境が整っていることを言うのではないかと思います。
つまり、社員にある程度の裁量権がある状態ではないでしょうか。
たとえば私のようなフリーランスという働き方は、すべての裁量権が自分にあるわけです。朝五時から原稿書き続けて、3本仕上げてからこの番組に来て、今23時。
一般的に見たら長時間労働ですよ。それが毎日のように続く。
でも、仕事の合間に少し汗を流そうと思って一時間バレエに行ったり、ご飯の時間をゆっくりとったり、疲れたときは休んだり、緩急をつけられるわけです。
ぶっちゃけフリーランスやベンチャー企業の社員なんて365日働いていますよ。ただ、その合間合間で休む時間を自ら作っていく意思が必要なんです。
私たちは超人ではないですから、寝なければ集中力も落ちるし、生産性も低下する。
気持ちにやる気があっても、心臓や脳みそには負担がかかっている。健康のボールだっておざなりにしてはいけないんです。
会社員が生き生きと働くためには、やはり裁量権が必要ですし、あとはきちんとルールを作ることが大切ですよね。
この時間になったら家に帰りなさい、と企業が言ってあげる。
ただ、勤務時間を短縮するのであれば、その分仕事量だって圧縮しないといけないわけです。
そこを考えるのが経営者の仕事であり、現状は経営者がきちんと経営ができていないのが問題ですね。
だから現場の社員にしわ寄せがきている。
労働基準法が機能していない?
河合氏は、そもそも働き方改革という存在自体をおかしいという。
河合 働き方改革って、法律の問題しか議論していなくて、そこで働いている人に対する視点はまるっと抜けているんですよ。
正直、本質的ではないので、やめてしまえばいいのにとずっと思っています。
残業規制は国がすればいいんです。労働基準法で定められているわけですから。
もともとあった労働基準法が機能していないことが問題なんです。
育休や産休、有給などの休暇制度もある。休暇をとることは労働者の権利なのになぜか会社が20日間とらせていない。
国が取り締まればいいだけの話なんですよ。
働き方改革なんてまるで会社員のことを想っているかのような言い方していますけど、そもそもあなたたち国がちゃんと規制すればいいだけの話なんだよ、ということです。
ちなみに、労働基準法自体はしっかりできているんですけど、罰則規定がないんですよね。
罰則規定をちゃんとつければきちんと取り締まれるはずなんです。そうやって国が最低限の部分で取り締まった上で、各企業ごとに働き方改革を考えることはいいと思います。
きっとそこで考えて出てくる課題は、人間関係だと思うんですよ。
自分から半径3メートル内の小さな人間関係。仲良しこよしをするのではなくて、風通しのいい環境を作ることが重要になってくる。
失敗をためらいなく言える心理的安全性の担保された職場、年齢や性別に関係なく一人一人が意見を言うことができる職場、お互いにリスペクトしあっている職場、それを企業が作っていけばいいだけの話なんです。
日本の企業だってすでにちゃんとやっていることはありますよ。
ついつい大企業にスポットが当たりがちですが、中小企業にだって頑張っているところはたくさんあります。元気な会社は日本にあちこちにあるんです。
働き方改革はジョブ型への移行にもつながりますが、そもそもアメリカが世界の中心みたいな価値観でジョブ型を無理やり日系企業に取り入れようとする必要もない。
文化も価値観も違うわけですから、同じ土俵で戦おうとすること自体が間違いなんです。
12月3日のテーマは「起業」
日本でも、様々なスタートアップが注目を集めるようになった昨今。
起業家という存在が注目を浴びるようになった一方で、日本の「起業数」は他の先進国と比べ、少ない状況が続いています。
中小企業庁が算出した「開業率」を他国と比べると、イギリスやフランスは13%前後で推移しているのに対し、日本は4%前後と低い水準で推移。
また、同庁の調査によると、起業への無関心層は他先進国では30〜40%前後なのに対し、日本は70%前後と、起業に及び腰であることが数字にも表れています。
なぜ、日本では起業を志す人が少ないのか?
起業に至るまでに、どんな壁が存在するのか?
実際にスタートアップを経営する起業家らを交え、徹底討論します。
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<執筆:富田七、編集:佐々木健吾、デザイン:斉藤我空>