大地震で2週間断水。そのとき病院は水をどう確保したか

2019/12/6
 自然災害が頻発する日本で、災害時の水の確保が重要な問題だ。
 国立病院機構水戸医療センター(以下、水戸医療センター)では、水や電気などライフラインの「2WAY」システムを採用。2011年の東日本大震災でも、茨城県の災害拠点病院として十分に機能を果たした。
 災害時の水の重要性と、それをどう備えるかを、震災時を振り返りながら、水戸医療センター名誉院長・園部眞氏、レジリエンスジャパン推進協議会理事・羽深成樹氏、三菱ケミカルアクア・ソリューションズ代表取締役社長・栁川秀人氏が語る。

災害時も院内で患者を守る決断

園部 私が名誉院長を務める水戸医療センターは、茨城県基幹災害拠点病院です。500床の規模を持ち、地域医療の中核を担っています。
東北大学医学部卒業、脳神経外科を専攻し、1978年から水戸医療センターに勤務、2003年から院長。脳神経血管内治療の創生に参加し、第14学術総会を開催した。2011年東日本大震災を経験。2013年に院長を退職し、現職。被災の経験から、国土強靱化基本計画レジリエンス推進協議会の「水のレジリエンスワーキンググループ」に参加し、「提言書~災害時の水の確保~」を作成。
 2011年の東日本大震災では、茨城県も甚大な被害を受けました。地震発生から1時間もすると、病院には多くの方々が押し寄せてきました。
 院内では、待合室のスプリンクラーが壊れて水浸しになり、さまざまなものが倒れてきて、数人ですが、ケガ人も出ました。
支えのないものは全て倒れた。待合室ではスプリンクラーが壊れて、水浸しに
 当時、私は院長でしたが、一番難しい判断だったのは、患者さんを病院の外に出すべきか、中で診るべきか、でした。
 水戸医療センターは2004年に移転新築した際、私が自分で災害対策の設備を整えた病院です。耐震性、ライフライン、そして人員確保について、対応できているという自信はありました。
 患者さんにとっては、病院が一番安心できる場所ですから、「患者さんを病院の中で守る」という決断をすることができました。
栁川  震災時は、上水道は全面的にストップしていました。
 実は、水戸医療センターさんは、震災の直前、2011年1月に、「地下水膜ろ過飲料化システム」を導入したばかりでしたね。
 水道の浄水場でも利用している中空糸膜を使った膜ろ過設備で、地下水を浄化し飲料水として使えるシステムが機能していました。不幸中の幸いのタイミングでした。
1981年に日本錬水入社。レンスイアジア社社長、水処理事業副事業部長を経て、2014年、三菱レイヨンアクア・ソリューションズ取締役就任。機能品事業、水処理事業を統轄した後に、2016年、地下水膜ろ過システムを主業とするウェルシィ執行役員となり、2018年に社長就任。2019年4月、ウェルシィと統合した三菱ケミカルアクア・ソリューションズ代表取締役社長執行役員に就任。
園部 市営の上下水道も、東京電力の電気も止まっていました。
 そんな中、水戸医療センターでは、水は地下水を使うことができましたし、電気は病院の地下に予備を含めて3台の自家発電機を持っていました。夜、自家発電で明かりがついているのは、うちと県庁くらいでした。
 茨城県内や福島県から、建物が壊れたり、ライフラインがストップした病院の患者を受け入れました。事前に緊急時対応を備えていたおかげで、80人ほど受け入れることができたのです。
 例えば、待合室のソファは簡易ベッドにできる仕様のものですし、会議室には吸引設備や酸素の配管を格納して、臨時の病棟にできるようにしてありました。外来の待合室は救急病棟として使い、震災発生後5日間は、まるで戦場のような忙しさでした。
ソファを簡易ベッドとして、待合室や廊下を緊急病棟に
会議室にも酸素・吸引の配管を完備して、災害時は病棟として利用

上水道1割、地下水9割の2WAY(二元供給システム)

園部 院内では人工透析など大量の水を使う治療も行っていたので、「災害時に水が使える」のは、非常に大きなことでした。
 うちのような500床の病院で、1日270トン使います。水戸医療センターでは、200トンの貯水タンクを設置し、上水道1割、地下水9割という割合で、水をためながらまかなっています。
 電気も同じで、昼間は自家発電機を1台ずつ交互に稼働させ、夜は東京電力の電気を使う「2WAYシステム」です。
羽深 災害時だけでなく、日常的に水も電気も自前のシステムを活用しているということですね。水は地下水を活用しながら、一度貯水タンクにためることで、災害時にもタンクの水が使えるという利点があります
園部 それが重要なポイントです。普段から使っていないと、いざというときにうまく作動しないことも多い。このシステムを採用することで、大幅なコストダウンもできました。
 雨水を200リットルためられる水槽も地下にあり、こちらは適切に処理した後、トイレなどに利用しています。
栁川 我々は地下水膜ろ過システムのサプライヤー、例えば今回なら水戸医療センターさんに土地を提供してもらい、地下水を組み上げた水を提供します。
 初期コストや維持は三菱ケミカル側が負担。それらを含めて給水サービス料金を設定していますが、それでも上水道よりは割安になります。
地下水のプラントを活用し、病院で使う水の9割をまかなう
発売元:三菱ケミカルアクア・ソリューションズ
園部 うちの場合は、年間1000万円ほどコストダウンできました。
 ただし、地下水は病院内でしか使えない、専用水道です。もちろん、震災時には例外ということで、地域の方々にも水を提供しました。

国土強靱化のノウハウを集約する

羽深 私は2016年から17年まで、内閣府の公務員として防災を担当していました。現在は三菱ケミカルホールディングスに籍を置きながら、レジリエンスジャパン推進協議会で理事をやっています。
 内閣府時代、熊本大震災後、地元の方へのアンケートで目立ったのが、「生活用水と飲料水の不足が一番困った」という声です。全体の4割くらいを占めていました。
 特に、ペットボトルで手に入れやすい飲み水はまだいいが、洗濯や入浴など大量に使う生活用水の不足に不便を感じている方が多かったですね。
 災害時は、生きるための飲み水だけでなく、生活環境を守るための生活用水も非常に大きな課題です。
1981年に大蔵省(現財務省)に入省。予算編成、税制改正、広報、行政改革などを担当。防衛省大臣官房審議官、内閣総理大臣秘書官、内閣府政策統括官などを経て、2016年に内閣府審議官となり防災を担当。2017年に退官し、2018年6月から現職。また、2017年から三菱ケミカルホールディングス執行役員となり、2019年4月から同社執行役。
栁川 三菱ケミカルでも、災害対策としての水に力を入れていこうというときに、ちょうど内閣府で防災を担ってきた羽深さんに参加していただきました。
羽深 政府でも、災害への「国土強靱化=レジリエンス」は長年取り組んできましたが、具体的なノウハウは民間の方が持っています。
 そういったノウハウや国民への防災意識の普及、災害対策のイノベーションなど、さまざまな情報を集約するのがレジリエンスジャパン推進協議会です。
 2018年には「水のワーキンググループ」の提言を協議会としてまとめています。災害時に必要な水を各自治体が定量的に把握し確保する、官民が協働して水対策のソリューションを生み出すことなどを提言し、国土強靱化計画のガイドラインにも盛り込みました。

災害拠点病院としての使命感

羽深 震災が起きる前から積極的に防災に取り組んできたという点で、園部先生はかなり先見の明を持っておられたのだな、と感じます。
園部 2004年に病院を新築移転する際、大きな予算を使うので、「絶対にいい病院をつくろう」と、全国の病院を見て回りました。自家発電などもそういうリサーチで導入を決めました。
羽深 地下水のシステムは、どういうきっかけで導入を決めたんですか。
園部 三菱ケミカルから提案していただきました。話を聞いて、これはすぐにやろう、と思いました(笑)。
 病院は、平常時でも住人にとってのライフラインです。特に災害時は地域の核となって重要な機能を果たさなくてはなりません。非常時の電気は確保していましたが、水はまだでしたので、「ぜひ地下水を利用すべきだ」と即決しました。
羽深 災害拠点病院としての使命感ですね。
園部 それはもちろんです。水戸医療センターでは設備を備えるだけでなく、自然災害、放射能、テロ、大規模火災などを想定した訓練も行っています。訓練の中で、「やはり、水は重要だ」と認識が強まった部分もありますね。
 もうひとつは水道料金が下げられるというのも、大きな魅力でした。まさにウィン・ウィンです。
栁川 我々は、病院や介護施設を中心にシステムを提供しています。水道料金が年間1000万円を超える施設であれば、システムの導入で水道料金を下げられることが多いです。
 ただ、掘れば必ず地下水が使えるわけではありません。どの地域なら地下水を使えるのかは、これまでのデータから、ある程度の確率で推測できます。

公共水道と共生しながら、水を地産地消

羽深 厚生労働省では、災害拠点病院は断水が続いても診療機能を3日程度維持できる体制をつくるようにとガイドラインを決め、そのための補助金も用意しています。地下水ろ過システムや貯水タンクが対象となっています。
 一方で、これまでは地下水のシステムの普及は公共の水道を脅かすという声も少なくありませんでした。
 しかし、最近は、水道設備の老朽化とその維持費用などの問題もあり、特に過疎地では、地下水の活用を検討すべきという動きがあります。水道局の人たちも一緒に、今後の水道のあり方をトータルで考えていければと思います。
園部 電気は、すでにそういうスタイルで、エネルギーの地産地消が進んでます。むしろ、自治体の水道事業に地下水を組み込むという考え方もありでしょうね。
栁川 特に数十軒〜百軒程度の過疎地に水道を引くことは、今後、現実的ではなくなってきます。そういうところに、小型の浄水場のような役目を果たす分散型水道事業が役立つはずです。

どれだけの地下水を使えるかを示す「水のバランスシート」

園部 避難所の条件を考えるときに、広さに加えて、電気と水を備えているというのは最低条件になっています。
 避難所に一番適しているのは学校です。ですから、学校でも、私たちの病院のように、日常的に自前の電気や水を使う仕組みが必要だと思います。2つの系統で日常的なライフラインを回すことが、災害時に一番の強みとなります。
羽深 確かに学校に地下水を活用したシステムがあれば、水を確保でき、避難所としてきちんと機能できます。トイレも使えないのでは、避難生活が長期化したときに、耐えられません。
園部 ところで、地下水を組み上げると地盤沈下が心配だという声をよく聞きます。その対策として「水のバランスシート」をつくるべきだと思います。
 水のバランスシートとは、地域の地下水で供給できる量、災害時に必要な水の量と地下水が使える量を数値化したものです。
水のレジリエンスワーキンググループ「提言書〜災害時の水の確保〜」より
 例えば、公共水道と地下水の2WAYで1日平均10トン使っているとして、災害時は100トンまで地下水を使っても大丈夫、というようなことを災害計画に入れておく。そういうことが、国土の強靱化に必要だと思います。
羽深 レジリエンスジャパン推進協議会でも、各自治体で水のバランスシートを作成できないか検討しています。
 重要なのは、具体的な数字で出すこと。被害が起きたときにどれくらいの水が必要で、それをどう調達するか。計算の仕方もクリアにしていきたいです。

水や電気を確保した避難所で生活環境を守る

園部 日本ではさまざまな災害が続いています。今年は台風15号や19号もありました。どこに住んでいても、災害の可能性はあります。
 災害で断水や停電をすると、避難所に水や電気が届くのに3日はかかります。その3日間をどうしていくかを考えることが必要です。災害発生直後から、どの避難所でも水や電気を確保できる環境をつくっていかないといけません。
羽深 これだけ災害が増え、避難が長期化する中、とりあえずの水と食べ物があって、雑魚寝ができればいい、という時代ではなくなっています。
 避難所の環境改善のためにできる工夫は、ほかにもあるはずです。例えば、「クリンスイ5年保存水」が入っているダンボールは、避難所でベッドになる工夫がされています。そういうきめ細かいアイデアもどんどん考えていきたいですね。
園部 もしものときも、できるだけ人間的な環境で避難生活を送れること。水や電気などのライフラインが確保できる環境で、少しでも安心と安全を提供することが、国土の強靱化になると思います。
(編集:久川桃子 撮影:小禄慎一郎 デザイン:月森恭助)
■「クリンスイ5年保存水」についてはこちら
■「地下水活用膜ろ過システム」についてはこちら