【浦和レッズ】ACLファイナルに見る「アジアで勝つ価値」

2019/11/25
無念のホイッスルが埼玉スタジアム2002に鳴り響いたーー。

昨日行われたAFCアジアチャンピオンリーグ(以下、ACL)決勝の第2レグ、浦和レッズは0-2でアル・ヒラル(サウジアラビア)に敗れ、3度目のアジアチャンピオンの座を逃した。

今季の浦和はJリーグや天皇杯で苦戦を強いられても、ACLに懸けてきた。しかし、決勝に立ちはだかったアル・ヒラルはアジアレベルを超えたチームだった。

Jクラブが再びアジアの頂点に立つには何が必要か。昨日の戦いを振り返りながら、その条件を探る。

次元が違う“アジアのレアル・マドリー”

 埼玉スタジアム最寄りの浦和美園駅への車中で、ブルーのユニホームを着こんだり、旗を持つ日本人が目に留まった。もちろんACL決勝セカンドレグの舞台は、浦和レッズのサポーターがほぼ真っ赤に染めていたのだが、反面対戦相手のアルヒラル(サウジアラビア)を応援するファンも確実に存在した。
 今までこうした光景が見られるのは、欧州から有名なクラブが来日して親善試合を行うときに限られていた。だがついに同じアジアからも、日本のファンを魅了してしまうクラブが誕生したということなのだろう。
 実際アル・ヒラルは、所属の助っ人選手たちが「アジアのレアル・マドリー」と公言するように、従来の大陸水準を完全に飛び越えていた。最近では中国のクラブの爆買いが国際的にも話題になり、Jクラブのライバルとして浮上した。
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 しかし中国勢が欧州や南米のビッグネームを獲得しても、それは「補強」を通り越して「依存」に陥ってしまっていた。助っ人勢同士のボール回しは流麗でも、そこに中国人選手が絡んでいけない。
 むしろJクラブにとっては、ターゲットが明確な分だけ戦略を描きやすかった。さらにいくら名将を連れて来ても、助っ人選手たちのモチベーションを高めるのが難しいようで、上海上港のオスカール(元ブラジル代表)などは攻撃の局面でしか仕事をしない試合が目についた。

個に頼らない「組織の強さ」

  今年の浦和も、決勝までに中国の3つのクラブとホーム&アウェーで戦い、3勝3分けと無敗で乗り切っている。
 だがアル・ヒラルは、中国勢とは次元が違った。
 ACLではノックアウトステージに入る時期に、ルーマニア人のラズバン・ルチェスク監督が就任。決勝でMVPを獲得した元フランス代表のバフェティンビ・ゴミスは「個性の強い優秀な選手たちを組織的に戦えるようにまとめてくれた」と証言している。
 「僕自身もFWだけど、最初の守備者として相手の攻撃を抑えにかかる。それはリバプールやマンチェスター・シティと同じスタイル。もう欧州のトップクラブと大きな差はないはずだよ」(ゴミス)
 まず中国勢と比べれば、基盤となる自国選手の水準がケタ違いで、代表クラスを集め助っ人勢と対等の関係でハーモニーを奏でている。
 だからこそ助っ人勢も役割を自覚し、チームの勝利のためにしっかりと闘い汗も流す。セバスティアン・ジョビンコ(イタリア)や現在28歳で脂の乗り切ったアンドレ・カリージョ(ペルー)は、そのうえで攻撃に極上の味つけを施している。全員がテクニック、フィジカルともに高水準を保ち、駆け引きにも長けているので隙が見当たらない。
 それでも3度目のアジア制覇を目指す浦和も、プライドに賭けて善戦した。アウェーの初戦は、幸運も手伝い1点差の敗戦に止め、ホームの2戦目も劣勢ながら74分に失点するまでは希望をつないだ。
YUTAKA/Aflo
 ただしアウェー戦ではシュートが2本、ホーム戦も4本。攻撃に出なければならない2戦目も決定機と呼べる形は前半の1度だけで、後半はペナルティエリアに侵入することもできなかった。
 逆にアル・ヒラルは広範にボールを動かし、局面でも個の突破とコンビの有効活用で優位に立つ。浦和も必死に食い下がるが、関根貴大、青木拓矢、岩波拓也と警告が重なり、心身両面でジャブのようにダメージを蓄積していった。
 最初の失点シーンでは、関根を弾き飛ばしたカリージョが起点で、サルマン・アルファラジを経由して、ラストパスを送るジョビンコがフリーなら、中央ではゴールを決めたサレム・アルドサリ、さらにはその脇に走り込むゴミスもノーマークだった。
 その後は浦和が前がかりになった分だけ、アルヒラルが裏のスペースを活用しやすくなり、93分にダメ押しゴールが生まれた。

ACLで勝ち上がる価値はあるのか

 険しい道を最後まで走り切り、準優勝に導いた浦和の大槻毅監督が大会を総括した。
「大きな資金力のあるクラブとも戦い、外国籍選手のパワーを含め難しい試合になった。とくに最後は西アジアへの移動があり、もう少し環境適応でなにかできなかったかという思いがある。前回(2017年大会)はアウェー戦の前にキャンプができたが、今回はできなかった。いずれにしても、こういうことをクラブ単位で蓄積していくことは非常に重要だと思う」
 ACLは準決勝まで東西に分かれて争うので、決勝に進出しない限り中東勢と対戦することはない。つまり今年は浦和が決勝まで勝ち上がったから、中国の上を行く西側のレベルアップを実感できた。もしアジアのライバル事情に無頓着なままドメスティックな競争に集中していたら、日本サッカーにとっては危険な事態だった。
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 実はJクラブがACLで勝ち進むのは、必ずしも得策とは言えない。東地区にはオーストラリアやタイも同居するので、移動やコンディション調整の負担は欧州の比ではない。現実に浦和は一時J2降格の危機に瀕し、天皇杯でもアマチュアのHONDA FCに敗れたため、ACLとのパフォーマンスの落差が際立ちサポーターの怒りも買った。
 まして今までは、ACL優勝チームにクラブワールドカップへの出場権が与えられ、世界の強豪と戦える夢があったが、大会の開催が決まっているのは来年までで、2021年以降は4年に1度の開催に変更されることが有力視されている。アジアの先に世界への道が消えたときに、Jクラブがどこまでモチベーションを保てるかは未知数だ。
 ただし、改めて今年浦和が決勝に勝ち上がれたのは、一昨年激闘の末に頂点を極めた経験があるからで、チームにも選手たちにも国内とは別次元の厳しい基準が染みついている。
 そしてそれは浦和と戦うJクラブにもメリットをもたらすはずだ。そう考えれば機構側もACLで勝ち上がることの価値を見直し、Jクラブが勝つための後押しを再考する必要がある。

Jクラブが世界で闘う条件

 まずアジアで勝つにはACLの常連クラブを作ることが重要で、ACLに集中しやすい環境設定が肝要だ。浦和は一昨年のACLで優勝したが昨年は出場できず、今年は準優勝をしたにも関わらずJ2降格の危機に直面した。
 これでは難易度の高いACL制覇に挑むリスクが高すぎる。ではACLの上位進出とJ1の3位で、どちらが翌年のアジア挑戦に相応しいだろうか。そもそも国際舞台での日本の代表を決めるのに、国内順位が本選の好成績を凌駕するという基準に無理がある。
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 橋岡大樹の愕然とした様子や、毎回相手のエースと対峙してきた槙野智章の攻防を見れば、おそらくACLは(個人の)欧州進出に匹敵する刺激になっているに違いない。もちろん欧州クラブで個を磨くのも重要だが、大槻監督が語るようにクラブ単位の蓄積も発展の両輪として不可欠だ。
 日本代表でも欧州組と国内組の落差が大きな課題として浮き彫りになった。もちろん世界規模では挑戦者の立場になる日本は、優秀な輸出国であり続けることが最優先の命題になるが、一方で国内リーグの質の向上も大切なテーマだ。日本が世界に伍して戦うためには、アジア大陸全体のレベルアップを牽引する必要があるが、それ以前に大陸基準から立ち遅れたのでは話にならない。
 2000年にブラジルで第1回世界クラブ選手権が開催され、マンチェスター・ユナイテッドは伝統のFAカップへの欠場が認められた。1986年にアジアクラブ選手権を制した古河電工(現・ジェフユナイテッド市原・千葉)も、日程の重複する天皇杯を辞退してサウジアラビアへ飛んだ。
 夢を追うときは、こうして機構や組織が英断を下し、背中を押している。
(執筆・加部究)