どの企業も「柔軟な働き方」を追い求めているが、「そうはいってもやりたいようには働けない…」と感じるビジネスパーソンも多いはず。
実際のところ、従業員の新しい生き方・働き方は、企業の「働き方改革」施策を待っていても始まらない。しかし「手段としての働き方改革」がまだまだ制度として行き届かなくても、私たち働くひとりひとりの心次第で、柔軟に仕事を楽しむことができるのではないか。
本連載では、誰もが今日から実践しようと思える、優しいマインドセットを書籍『CHANGE─未来を変える、これからの働き方─』(谷尻誠〔著〕、エクスナレッジ)より、4回にわたって紹介する。(第1回)
実際のところ、従業員の新しい生き方・働き方は、企業の「働き方改革」施策を待っていても始まらない。しかし「手段としての働き方改革」がまだまだ制度として行き届かなくても、私たち働くひとりひとりの心次第で、柔軟に仕事を楽しむことができるのではないか。
本連載では、誰もが今日から実践しようと思える、優しいマインドセットを書籍『CHANGE─未来を変える、これからの働き方─』(谷尻誠〔著〕、エクスナレッジ)より、4回にわたって紹介する。(第1回)
「なぜ」を3回繰り返すと、悩みの本質が見えてくる
今、いちばん悩んでいることは何ですか?
「仕事がおもしろくない」というぼんやりした悩みから、「今の仕事が自分に合っていないのではないか」「ほかにもっとふさわしい場所があるのではないか」という、転職や離職も視野に入れた悩みまで、現代社会の中で働いていれば悩みはついてくるもの。なくなることはありません。
そもそも、人間は悩む生き物。そして、放っておくと悩みや不満を見つけてしまう生き物です。便利を手に入れたとしても、どういうワケかその中にある不満を探し続けてしまう。いわば宿命ともいえますが、実はそれこそが進化の原動力であり、永遠に満足しない生き物だからこそ、さまざまなものを生み出してこれたんですよね。
と、話が大きくなりましたが、ともかく人間は悩むものである…とまずは自分に言い聞かせてください。次にどうしたらいいか、それは原点に戻ることじゃないかと思います。楽しく仕事をするためのキホンは、原点に帰ること。なぜなら、誰だって最初は仕事に希望をもっていたはずですから。
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「今の仕事は自分に合っているのか」というような悩みがいったん生まれてしまうと、「こっちの選択肢のほうがお金がいい」「でも、将来性が見えない」「あっちの選択肢のほうがやりがいがありそう」「でも給料も少ないし体力的にキツいかも」というように、自問自答のドツボにはまってしまいがちです。
そんな時に自分を助けてくれるのは、いろんな条件を取り去った状態の自分の素直な気持ちではないでしょうか。そして、素直な気持ちを見つけるためには、自分の心の中で「なぜ」を3回以上繰り返すといい。だまされたと思ってやってみてください。例えばこんな感じです。
「最近仕事が楽しくない。何だかおっくう」
なぜ?
→オフィスで過ごす時間が苦痛。
なぜ?
→上司のAさんが仕事に口を出してくるのがイヤ。
→小さなミスをねちねち追求されるのもイヤ。
なぜ?
→それならAさんがいなければ問題は解決する?
→というより、それをみんなに見られるのが苦痛なのかもしれない。
なぜ?
→(もしかして私のプライドの問題?)
この場合のもやもやの解決策は、単純にミスをしないよう心がけるとか、Aさんに面談を申し込んでみるとか、わりと小さなことだったりもするでしょう。でも、その「小さなもやもや」は、意識しないと自分では見えづらい。知らないうちに心の中にどんどんたまっていって、本当に好きなことや進みたかった道を覆い隠してしまいます。
定期的に自分の中で「なぜ」を繰り返し、小さなもやもやを、そのつど晴らすようにするといいと思う。このプロセスを重ねることで、やりたいことや歩き続けるべき道を見失わずにすむはずです。
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ついでにいうと、おそらく心当たりのある人も多いと思いますが、本当に悩んでいる場合と、ただ悩んでいるのが好きというか、悩むこと自体が目的になっている場合もあると思うんです。そう、「アイツ、悩んでいる自分に酔ってるだけだよな」と言われてしまうタイプ。
そうならないためには、とにかく何かしらの行動を起こすことです。行動しなければ答えは絶対に見つからない。「〝なぜ〞を繰り返すプロセス」をやってみる。悩みを紙に書き出してみる、誰かに話してみる。仕事を始めたころの楽しかった写真を見る…なんていう小さなことでもいいでしょう。頭の中ではなく行動することで見えてくるものはあるし、行動しながらでも考えは修正できる。
それこそ、会社がイヤならば夜だけとか週末だけアルバイトをしたっていいと思います。「会社で禁じられているから」「バレたら辞めさせられる」などと言って行動しないのは、自分への言い訳でしかありません。
言い訳をつくれるということは結局悩んでいないのといっしょ。本当に悩んでいるなら、禁じられていても何でも試してみればいいじゃないかと思っています。
仕事を楽しくするのは「知識」よりも「執着できる能力」
目の前にある今の仕事が、どうしたらもっと楽しいものになるのか。日頃そう考えている人がいるならば、答えは簡単です。がむしゃらに考える。ひたむきに向かい合う。これに尽きると思います。
といっても、昔ながらの根性論や、「営業はとにかく足を使ってクライアントのもとに通え」的な話ではありません。
ウチの事務所には、入所1年目2年目という若手のスタッフがいますが、そういう若手を見ていてつくづく思うのが「知識より執着が大切」だということ。
もちろん知識は大切ですが、そこに頼るだけでは足りない。さまざまな事務所でインターンを経験して豊富な知識を身に付けた人より、絶対にいい仕事をするんだという執着を持ってがむしゃらに考える人のほうが、結果的にいい成果をあげるんです。
なぜだと思いますか?それは道を探そうとするからです。そして、探す過程にこそ仕事をする楽しさが隠れているからです。
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「こういうものをつくりたい」という理想があったとしましょう。知識がある人は、「それをつくるためには、これを使ってこうしたらいいんだよね」という道をすぐに見つけてしまうでしょう。効率もいいし、もちろん悪いことではありません。
いっぽうで知識がない人は、その高みへたどり着くための道を、わからないなりに一生懸命探すと思うんです。
グーグルマップで30分かかる登下校の道を、知識がある人はちゃんと30分かけて帰ることができる…なんなら20分で帰れるかもしれません。それに比べて知識がない人は、2時間以上かけてようやく家に着くことでしょう。
でも時間がかかったぶん、ほかの人は気付きもしなかった道を見つけるかもしれないし、道じゃないルートに気付くかもしれない。もしかしたら5分で帰れるミラクルな歩き方に辿り付くかもしれません。
どちらが仕事に楽しさを見い出せるでしょうか。
別の例えをしてみましょう。知識を増やすというのは「1+1=〇」という式を覚えることです。そして、知識とは別のアタマを使うというのは、「〇+〇=5」の答えを探すということです。
どちらの方程式でものを考えるクセを付けるかで、仕事への向き合い方も変わると思うんです。「1+1=〇」は答えを暗記すればいい。でも答えは一個です。それに比べて「〇+〇=5」の場合は、正解がひとつではないからその都度答えを探さないといけない。今回は「2+3」がいいのか「1+4」がいいのか「1+1+1+1+1」がいいのか、あるいは「10+(マイナス)5」がいいのか…。暗記力ではなく考える力を養わないと対応できないんですね。
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知識を増やすのはとてもいいことです。ただ、知識だけに頼ってしまうと、一定のレベルに達した時点で「できた」と思ってしまって、最初に提示された道以外のルートや新しい歩き方を探せなくなりがちです。
そして、今持っている知識が当てはまらないと答えが出せない人、つまり予測しなかった事態に対応できない人になってしまう。そういう態度から仕事の楽しさは生まれにくいものなんです。
一般的に「優秀な人」というと早く効率的に仕事をこなせる人を指しますが、僕は必ずしもそうではないと思っています。新しいものを見つけたり、不器用だけど一生懸命に立ち向かったりする執着心を持っている人も「優秀」だと定義できるんじゃないか。
知識のある人もない人も、目の前の問いに対する解をがむしゃらに考えるクセを付けてみてほしいと思います。まずは、これでOKだと思っても、もう一歩踏み込んで頭を働かせたり別の道を探したりしてみるところから。
「執着できる能力」、それこそがどんな仕事をも楽しくできる能力です。
※本連載は全4回続きます
(バナーデザイン:小鈴キリカ、写真:iStock)
本記事は『CHANGE─未来を変える、これからの働き方─』(谷尻誠〔著〕、エクスナレッジ)の転載である。