堅苦しい法的文書だけでは不十分

従業員4~5人の小規模企業の経営者はたいてい、「従業員ハンドブック(就業規則)」の重要性を無視している(あるいはそれに気づいていない)。彼らにとっては「就業規則」という言葉自体が堅苦しく、居心地悪く思えるのだ。
だが、従業員ハンドブックは会社のブランドの一部だ。従業員に会社の使命とビジョンを紹介し、会社が従業員に何を期待しているのか、そして従業員が会社に何を期待できるのかを伝える役割を果たす。
それが上手く伝わっていなければ、どんな企業経営も上手くいかない。従業員ハンドブックは、社内だけでなく社外に向けたものも含め、自社のコミュニケーションのトーンを決定づけるものだ。
1. 興味を持って読めるものを作成しよう
従業員ハンドブックは、従業員が読まなければ何の意味もない。堅苦しい言葉だらけの法的文書は、味気なく退屈で、彼らの興味をひく可能性は低い。さらに、協力や協調の文化ではなく、独裁体制寄りの文化を築くことは望んでいないはずだ。
たとえば、米アパレル通販会社のZappos(ザッポス)では、ハンドブックをスーパーヒーローなどが登場するコミック仕立てにした。Zapposは従業員にとって楽しい職場であり、ハンドブックのスタイルがいかに企業のビジョンや使命、価値観とつながり得るかを示す素晴らしい例だ。
2. 図や色を使ってメッセージ性を高めよう
会社についてのストーリーを伝えるのだから、従業員ハンドブックを「物語本」のようなつくりにすることも可能だ。ページの背景には大胆な色を使い、ストーリーが伝わりやすくするようなイラストや写真を添えるといいだろう。
3. 弁護士や人事のスペシャリストを雇って、内容をチェックしてもらおう
従業員ハンドブックの書式に規則はないが、法律上の要件は満たしていなければならない。頭の柔らかい専門家を見つけて、必要な調整を行ってもらおう。

企業文化を巧みに表した3社の例

ブランドマーケターのキラ・クラスは、中小企業向けに人事や人材関連のサービスを提供するGusto(ガスト)のブログに、従業員ハンドブックについての記事を寄稿。文化と法的ガイドラインを見事に一体化させた企業をリストアップしている。いくつか紹介しよう。
【事例1】Valve Software(バルブ・ソフトウェア)
クラスは次のように書いている。「ハンドブックは随所に気の利いた4コマ漫画が散りばめられ、従業員が飽きないつくりになっているのと同時に、どのような姿勢で仕事に臨んで欲しいかもきちんと伝えている」
以下の遊び心に満ちた抜粋に、同社の寛大な福利厚生や価値観が集約されている。
福利厚生と文化
「オフィスを取り巻く環境が整いすぎていると感じることがあるかもしれません。朝、出勤して新鮮な果物やスタンプタウン・コーヒー・ロースターズのエスプレッソを手に廊下を歩き、洗濯物をランドリーに出して、マッサージルームに向かう──。
そんなうまい話があるわけがないと怖がる必要はありません。すべて、みなさんに利用してもらうために揃えたものです。やたらと豪華なランチが提供されるようになったら、何かがおかしいかもしれません。キャビアが出てきたらパニックに陥ってもいいでしょう」
企業の戦術面
バルブは企業の戦術面に関する情報を、より進歩的な方法で扱っている。ハンドブックでは、同僚からのフィードバックを含む、年に一度の査定に関する方針について説明している。
*同社の新入社員向けハンドブックの全文はこちら
事例2The Motley Fool(モトリーフール)
「いつでも遊び心に満ちていて、シャレが大好きなモトリーフールは『ザ・フールズ・ルールズ(愚か者たちのための規則)』を作成し、ひねりの効いたユーモアや会社の基本理念をうまくまとめている」と、クラスは書いている。
モトリーフールのハンドブックは、新入社員に「モトリーフーリッシュらしく」行動するよう促し、「フーリーシュ(愚かな)」という言葉に新たな意味を加えている。
「私たちは自分を『フーリッシュ』と呼ぶことに特別な誇りを感じています。シェイクスピア同様に、的外れであることや人々を楽しませること、人々に何かを教え、真実を語ることが、私たちの特徴です。ですから、当社の基本的価値観は『フーリッシュであれ』という言葉に集約されているのです」
「フーリッシュであれ」
・協力的──素晴らしいことを一緒にやろう
・革新的──より良いソリューションを探し、それを超えていこう
・正直さ──それは私たちを誇らしい気持ちにさせるもの
・負けず嫌い──正々堂々と一生懸命、そして勝つためにやろう
・楽しみ──仕事をおおいに楽しもう
・モトリー──フーリッシュを自分のものにしよう!
*同社の「ザ・フールズ・ルールズ」の全文はこちら
事例3Austin Fraser(オースティン・フレイザー)
「オースティン・フレイザーの従業員ハンドブックは、視覚的効果の高い大胆な色やブロックを使い、従業員ハンドブックに必要な遊び心と本格的なビジネスに関するファクトを組み合わせている」と、クラスは評している。
同社のハンドブックは、通常なら休暇に関する退屈な方針に、カジュアルな「ひねり」を加えている。
「七面鳥やエッグノッグ、自堕落な生活を克服するための時間が必要なので、オースティン・フレイザーはクリスマスにかけての3日間はお休みします」
「休暇の届出をしたい人は、休暇届を書いて上司(共有ドライブに送信先があります)に送ってください。その日のうちに休暇が認められなかった場合に、人事部があなたの上司に軽く催促できるよう、人事部にもコピーを送りましょう」
*同社の従業員ハンドブックを詳しく知りたい場合はこちら
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堅苦しいフォーマルな法的文書よりも、親しみの持てる言葉づかいと陽気で上手くできた図や映像のほうが、ずっと多くのことを達成できると筆者は考える。
そして、企業が達成すべきことの上位に入るのが、従業員の幸せと忠誠心だ──各企業が有能な人材を奪い合っている現在、そこは譲れない。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Marla Tabaka、翻訳:森美歩、写真:thomas-bethge/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.