Michael Nienaber

[ベルリン 11日 ロイター] - 過去30年間、欧州最大の経済大国であるドイツにとって、自国製の自動車、機械、エンジニアリングツールに対する中国の旺盛な需要は、成長の安定した原動力として、歴代のドイツ政権もその恩恵をありがたく享受してきた。

だがその勢いにも陰りが出始めている。中国経済は減速し、ドナルド・トランプ米大統領の「米国第一」政策がグローバル貿易に打撃を与え、かつてはドイツ巨大企業の顧客だった中国の工場がライバルになりつつある。

<米中対立がブレーキに>

いまドイツ経済は厳しい局面を迎えており、対中貿易の減速は厄介な問題だ。ドイツは今年第2四半期に0.1%のマイナス成長となり、一部のアナリストは、11月14日に発表される予定の第3四半期の国内総生産(GDP)データも同様の減少を示すと予想している。そうなれば、2013年以来初めてのリセッションに陥ることになる。

3.4兆ユーロ(3.8兆ドル)規模を持つドイツ経済のうち、対中国貿易が占める比率は決して大きくないが、ドイツ政府としては、年々成長を期待できる数少ないGDP構成要素の1つだった。

「メイド・イン・ジャーマニー」製品に対する中国からの需要は頭打ちになっており、一部には減少を示す指標もある。経済が停滞するなかで、かつて高収益を得られた輸出市場は従来ほど頼りにならないことが判明している。

ハンブルク港でシニアマネジャーを務めるアレックス・マッターン氏は、「中国は我が国にとって最も重要な貿易相手国だが、将来のトレンドは予測しがたい」と話す。この港でも、中国経済の減速と、米中間の対立が貿易にブレーキを掛けている兆候が現れている。

ドイツ・中国間の通商関係の落日と称するには時期尚早だが、猛烈な成長が一段落したことで、近年進めてきた中国との経済的連携のいっそうの強化がドイツにとってプラスだったのかいう議論が再燃している。

産業界の一部には、貿易を通じて中国が開放的な経済と公平な市場アクセスを備えた西側スタイルの国家に変わっていくという期待から、中国における人権侵害に目をつぶってきた政治家は、騙されていたという見方もある。

「希望的観測だったことが明らかになった」と語るのは、ドイツ産業連盟(BDI)のステファン・マイア氏。同氏は、ドイツはもっと現実主義的な対中国政策をとるべきだという主張で知られている。

<成長予測は下方修正>

1989年にベルリンの壁が崩壊した頃、ドイツ・中国間の貿易量はごくわずかだった。中国政府がグローバリゼーションを支持したことで、ドイツからの輸出に占める中国向けのシェアは、1990年の0.6%から、昨年には7.1%に増大した。2016年には、中国は米国を抜いてドイツにとって最大の貿易相手国となり、現在でもそれが続いている。

この時期、ドイツが「欧州の病人」という1990年代のイメージを払拭し、他国よりもはるかに迅速にグローバル金融危機から回復するうえで、中国との関係は支えになった。

BMWやフォルクスワーゲンといった自動車メーカー、シーメンスなどの巨大工業企業から、経済の屋台骨としてドイツの「ミッテルシュタンド」(Mittelsland、中産階級の意味)と呼ばれる中小企業に至るまで、あらゆる方面に対中国貿易の恩恵は及んだ。

2000年代初頭のゲアハルト・シュレーダー前首相による対中国アプローチを引き継いだアンゲラ・メルケル現首相は、ビジネスに向けた中国指導部の歓心を買うため、中国による人権問題や知的財産権侵害に関する懸念を棚上げにした。この9月には、この14年間で13回目となる訪中を行っている。

2008─09年の金融危機以降、ドイツから中国に向けた輸出は毎年伸び続け(ただし2015年だけは、1997年以来の減少を記録している)、2018年には過去最高の930億ユーロに達した。だが、米トランプ政権と中国との貿易紛争が勃発する前から、こうした成長にはブレーキが掛かっていた。ドイツの公式統計によれば、輸出の伸びは2017年の13.3%増から2018年には8%増に、そして2019年1─9月には2.7%増まで落ちている。

ここ数ヶ月に焦点を絞れば、さらにトレンドは鮮明に見える。

中国税関のデータによれば、8月のドイツからの輸入は前年同月比で3.6%減、9月は同9.2%減となっている。中国のデータからは、年初来9月までの累計で、ドイツからの輸入が2%減少したことが分かる。

国際通貨基金(IMF)は先月、ドイツ経済の成長率予測を、2019年は0.5%、2020年は1.2%にそれぞれ下方修正した。IMFの「世界経済展望」では、中国からの需要鈍化が、貿易紛争の余波と合わせて、鉱工業生産の全般的な減速の要因になっていると述べている。

またドイツ商工会議所連盟(DIHK)は、来年、ドイツの輸出全般が金融危機以来初の減少に転じると予測する理由として、米中貿易紛争と中国経済の全般的な減速を挙げている。

<外資規制は中国が標的か>

影響はすでに表面化しつつある。バイエルン州にある同族経営の自動車部品メーカー、ブローズ・グループは先月、従業員2万6000人強のうち、2000人の削減を決めた。中国からの需要減速という要因が決断の背景にあると同社は述べている。

現在の難局については広い視野のもとで捉えるべきだという主張もある。中国との輸出入の玄関口となっているハンブルクでは、前出の港湾幹部マッターン氏が、2019年上半期には中国関係の取引が3%増加したと指摘する。

「最大の問題は保護主義的なトレンドであり、それを最もよく象徴しているのが米国政府の動きだ。そうした視点から世界を見れば、中国が最大の貿易相手国となっていることは、ハンブルク港としてはかなり好都合だ」

だが、数十年かけてドイツ製品の輸出先として中国を開拓してきたことは、国内産業には有害だったと考える人もいる。彼らは今、もっと強硬な対中国政策を望んでいる。

ドイツ当局者は、2016年にバイエルン州のロボット工学企業クカが中国企業に買収された一件は、ドイツ経済の戦略的に重要な部分を外国企業による買収から守る必要があるという警鐘になったという。

ドイツ政府は昨年、外国からの投資に対する規制を強化し、欧州以外の主体によるドイツ企業の株式購入については政府が調査した上で、必要に応じて阻止することができるようになった。中国国家の後ろ盾による投資家を対象としたものと広く受け止められている。

ドイツの対中国政策についてコメントを求められたオーラフ・ショルツ財務大臣は、中国政府が自国の金融セクターを開放し始めているという証拠はあるが、公平な競争条件を実現するには「まだ途上にある」と認めている。

ドイツの政策転換には、中国も無頓着ではいられない。

2012年から今年3月まで中国の駐ドイツ大使を務めていた史明徳氏は、9月、中国の国内メディアに対し、ドイツの最近の政策転換は中国を標的にしたものだ、と述べた。

「ドイツは表面的には貿易保護主義に反対しているように見えるが、その一方で、ドイツ自身は、別種の貿易保護主義に身を投じつつある」と同氏は語った。

(翻訳:エァクレーレン)