「1人目」がグループ全員の評価を左右する

第一印象はとても強力だ。誰かに会ってすぐに魅力を感じたとか、嫌な感じがしたとかいうことは誰もが覚えている。そして最近の研究によれば、最初に受けた印象はその個人をいかに評価するかだけでなく、その人が所属する集団全体への評価をも左右する可能性があるという。
ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院でマーケティングを教えるのマフェリマ・トゥーレティレリ准教授らの研究チームは、ある人物がグループの「1人目」だと紹介された場合、同じ集団の他の人々に対する期待値がその人のパフォーマンスによって左右されることを発見した。たとえその順番がランダムに決められたものだと知っていてもだ。
例えばスノーボード選手が非常に上手い技を決める映像を見たとき、この選手の出場順が1番目であれば、「他の選手たちも同じくらい上手いはず」とあなたはたぶん思うだろう。だが3番目だったら、他の出場選手への評価はそれほど影響を受けないはずだ。
研究チームはこの効果を「ファーストメンバー・ヒューリスティック」と名付けた(ヒューリスティックは経験や直感に基づく判断をいう)。そしてこれが運動選手への評価から移民問題まで、さまざまな状況で再現されることを確認した。
「誰かもしくは何かに『1番目』というレッテルを貼ると、その人(もの)に対する判断ばかりか関係する人(もの)に対する判断にも大きな影響を与える」とトゥーレティレリは言う。「1番というレッテルを貼るだけで、大きな影響が出るのだ」
どうして「1番目」にそんな大きな力があるのだろう。トゥーレティレリらは「過剰一般化」のなせる技だと考えている。実際のところ、1番目に来るものが重要であるケースは多い。例えば会社の従業員第1号は企業文化のありようを決める大きな役割を果たすし、新しくできたクラブには部員第1号と似た嗜好の人が集まりがちだ。
「これ自体はとても理性的なものの見方なのに、それがあまり理性的ではない文脈へと変わってしまう」とトゥーレティレリは言う。「人はある集団の中の1番目の人に対しても、残りのメンバーについてのすぐれた判断材料となるだろうと考えてしまうのだ」

「1番目」のレッテルの魔術

「1番」や「1」というレッテルによって(たとえ順番がランダムに決められたものであっても)人々の評価が左右されることを研究チームが知ったのは、他の専門家の論文からだった。
2014年のある研究では被験者に「月曜日の天気は雨だった」と話して印象を聞く実験を行った。ひとつのグループでは「月曜日は休暇の1日目だった」と伝えられ、もう一つのグループでは「休暇の最終日だった」と伝えられた。そして火曜日の天気を聞いたところ、前者のほうが悪い天気を予想する傾向が見られたという。
休暇の始まりが雨だと、その次の日も、もしかしたら休暇中までもずっと悪い天気だと想像してしまうのだ。
では「1」の持つ効果は、人やものの集団全体に対する評価まで左右するのだろうか。
そこで研究チームは300人の被験者を集めて実験を行った。参加者たちは7人の大学生の体操選手がゆかの演技をするというストーリーを読んだ。演技の順番はくじ引きでランダムに決められたという設定で、すばらしい演技をした「エマ」という選手が登場する。
ここで参加者は3つのグループに分けられ、それぞれのグループは、エマの演技順について異なる設定(1人目と4人目と最後)を伝えられた。そしてエマ以外の8人の選手の演技について予想し、9点満点で評価するよう指示された。
その結果、エマの演技順についての情報が、他の8人の選手につけた点数に影響を与えていることが明らかになった。エマが1人目だと聞いた参加者が他の選手につけた点の平均は、エマが4人目や最後と聞かされていた人たちよりも高くなったのだ。

社会問題ネタでも反応は同じ

もちろん、審判ではなくいち視聴者として体操選手の演技をみるだけなら、間違えたところで実害はない。「このバイアスが判断に及ぼしうる効果を示すような何かを見つけたかったのだ」とトゥーレティレリは言う。
では、現実世界の、もっと深刻な影響がある状況においてもファーストメンバー・ヒューリスティックは出現するのだろうか。
それを調べるため、今度は別の被験者を集め、彼らを米国の入国管理官という設定で実験を行った。専門技能職ビザで米国に入国した5人の外国人研究者について書かれた文章を読ませた。
5人がビザを受給した時期にはズレがあった。そして5人のうちミロムという研究者は去年、重大なミスで所属するラボの研究成果をだいなしにしたことがあった。
さて、今回も参加者は3つのグループに分けられ、それぞれミロムが5人のうち1番先に・もしくは3番目に・最後に米国に来たと伝えられた。そして、ミロム以外の4人の研究者の仕事について、9点満点で評価するよう指示された。
悪印象のミロムが1番先に来たと伝えられた参加者たちは、他の4人の研究者に対しても低い評価を与えた。3番目(7.11点)または最後(6.98点)と伝えられた参加者たちより低かったのだ。
ミロムの到着順がランダムに決まったという点は問題にはならなかった。「たとえ根拠がないものであったとしても、順番は判断に対し幾ばくかの影響を持つ」とトゥーレティレリは言う。「そして、判断をする当人は、順番がそうした影響力を持つことに気づいていない」

「同じ集団」であることが必要条件

研究チームはファーストメンバー・ヒューリスティックの強さに驚いた。「統計的に非常に強い効果だ」とトゥーレティレリは言う。また、その効果は文脈の違いを超えると思われた。そこで研究チームは、人がファーストメンバー・ヒューリスティックに頼らずに判断する状況が存在するのか調べたいと考えた。
そこで研究チームは仮説を確かめるため、評価対象が単一の集団に属していないという前提だと、違いが出るかどうかテストした。
研究チームは300人の大学生を集め、5頭の競走馬が別々のレースに出場するという文章を読ませた。そして一部の学生には5頭の調教師がチームを組んでいると伝え、残りの学生にはそれぞれの調教師は顔も合わせたことがないと伝えた。
次に研究チームは、フライング・メインという名の馬の成績が悪かったことを学生たちに知らせた。フライング・メインの出走順については学生を3つのグループに分け、それぞれ1番目、3番目、5番目だったと伝えた。そして、学生たちに残る4頭の成績がどうだったと思うかを1~9点のいずれかで評価するように求めた。
予想通り、調教師がチームを組んでいると聞かされた学生たちの判断からはファーストメンバー・ヒューリスティックの影響が見て取れた。彼らのうち、フライング・メインが最初に走ったと聞かされた学生たちは残る4頭についてもいい成績は出せないだろうと考えたが、3番目もしくは5番目と聞かされた学生たちはそうではなかった。
ところが馬たちを1つのグループと捉えなかった学生たちには、この効果は確認されなかった。

「1人目バイアス」を常に念頭に

ビジネスの場で、このファーストメンバー・ヒューリスティックをいかに応用すべきかは明らかだ。「1番」と呼ばれるものは何であれ、最も優れた者(もの)に割り当てるようにすべきだとトゥーレティレリは言う。最も優れた従業員は1番レジに配置し、最もおいしい料理はセットメニューの1番に組み込むのだ。これは、1番に割り当てられた者(もの)への評価が、製品やサービスへの期待や予測を方向付けてしまうからだ。
私たちの判断がさらに重大な結果をもたらす場合には、この「1人目バイアス」を意識しておくことが大切になるとトゥーレティレリは考えている。そうすればバイアスに抵抗するよう手を打てる。
例えば、トゥーレティレリはよく学生たちに班ごとにプレゼンをさせる。だが今では、最初の斑の出来によって他の斑の評価が左右されることをトゥーレティレリは分かっている。「忘れないでおきたいのは、誰かを集団の中の1人目だと考えることが、同じ集団の他の人々の行動に対する期待値を左右しかねないということだ。そして予測というのはしばしば、自己成就的だ」
この記事は「ケロッグ・インサイト」で発表されたもので、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院の許可を得て再掲された。
元の記事はこちら(英語)。
(執筆:Susie Allen記者、翻訳:村井裕美、写真:Nattakorn Maneerat/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.