米国初の「ギグ・ワーク」講座は2012年に始まった

配車アプリUberがまだ創業4年目のスタートアップにすぎなかった2012年に、マサチューセッツ州にあるバブソン大学の経営学修士(MBA)プログラムで講師を務めるダイアン・マルケイは「起業とギグ・エコノミー」というコースを開設した。
MBAの学生に対して、請負契約の仕事を見つけたり、副業を得たり、報酬を交渉したり、新しい種類の労働市場で自分を売り込んだりする方法を教えている。その背景には、ギグ・ワーク(単発の仕事)が、新世代の働き方の選択肢にあがるようになったことがある。
マルケイが開設したようなMBAプログラムは初めての「ギグ・ワーク」講座であったが、それ以降、ほかの大学も同様のコースを開設するようになっている。
ミシガン大学では2018年から、4年生を対象に「新たな労働世界で成功するには」と題した実践的プログラムを行い、どのように職場を移動しキャリアを構築していくかについて教えている。
学生たちは新しい職場環境での自身の強みや価値、情熱を把握するアセスメントが行われ、能力のある優秀な人材になるにはどうすればいいのか、不確実な状況をいかに乗り切るべきかを学んでいる。彼らの専攻は、コミュニケーションからマーケティング、セールス、経済、社会学、心理学まで多彩だ。
近ごろのギグ・ワークはありとあらゆる分野に広がっている。学生たちはかならずしもウーバーの運転手のような「ギグ・ワーカー」になるわけではなく、ギグ・エコノミーを調査研究する立場の人間として業界の改善に取り組むという場合もあるのだ。
たとえば、ギグ・エコノミー企業でチームを率いたり、ギグ・ワークを行う労働者を統括したり、組合を立ち上げたりすることがあるかもしれない。まだ新しい労働形態であるために、凝り固まらずに様々なスキルを組み込むことができるのだ。

大学のキャリアセンターも支援を開始

マネジメントと組織を研究するスーザン・アシュフォード教授は、こうしたクラスへの需要の高まりを指摘している。
「学生は自分たちのライフスタイルに適した仕事を見つけることを、以前にも増して重視するようになっています」
ギグ・エコノミー関連のコースを開設したりアドバイスを行ったりする大学の数はまだ少ないが、需要はかなりあるようだ。米国クラウドソーシングサービス「アップワーク」が実施した調査によれば、フリーランサーの89%が、ギグ・ワークのノウハウを教育機関で教わりたいと回答している。
ウェルズリー大学やテキサス大学のキャリアセンターでは、学生たちに対してギグ・ワークに関するアドバイスを提供している。
大学のキャリアセンターは本来、学生が大企業に就職できるよう手助けすることを目的としてきた。非営利団体やベンチャーへの就職希望者は自力で何とかしなければならなかったが、そうした状況は変わりつつあるという。
ギグ・ワークに学生たちの関心が向かうようになったのは比較的最近のことだ。しかしそうした関心には、「大学卒業後のキャリアプラン」だけが関係しているわけではない。大学在学中にアルバイトをするのと同じように、学業と並行して副収入を得られる手段を探してきたのだ。
テキサス大学のキャリアサービスセンターはおもに、配車サービスの運転手や、食料品の宅配サービス「インスタカート」のような配達の仕事を紹介している。在学中の学生がギグ・ワークの仕事を探すのは「ますます一般的になっている」という。

学生のうちから「多様な働き方」に触れる機会をつくる

これまでは特にクリエイティブ分野において、ギグ・ワークが行われてきた。シカゴ・デポール大学の音楽学部が学生に対し結婚式や個人のパーティーで演奏する仕事を斡旋しているように、音楽家や芸術家のギグ的な働き方を学生に後押ししている学校もある。
いまや、ギグ・ワークは全ての業界に広がっている。それを促したのが、企業とギグ・ワーカーのマッチングを容易にしたテクノロジーだ。
「学生たちには、親の世代とは全く異なる労働環境に直面するようになると知ってほしい」とバブソン大学のマルケイは話す。
「学生たちは、成功を自分なりに定義する方法を学んでいます。すでにあるプロフェッショナルな成功や個人的な成功のかたちに、自分を当てはめることができるのか、模索する時間が必要なのです」
多くの学生が安定した雇用を提供してくれるフルタイムの仕事に就くことを望んでいるとはいえ、いまのギグ・ワークの現実を見ると、すべての人がそうした働き方ができるわけでない。
「働き方の多様性」について検討している各大学は、未来のフリーランスとギグ・ワークのイメージを形成する手助けをしていると言えるだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Michelle Cheng、翻訳:遠藤康子/ガリレオ)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.