【関連イベント開催】大手からスタートアップへの転身者たち。「大企業を“外から”変えたい」

2019/11/5
「大企業が進化しなければ、日本の競争力はあがらない」──。

言語処理技術にたけたAIを得意とするストックマークのメンバーが共通して話す言葉であり、創業の背景でもある。この会社、実は多くのメンバーは大企業出身。ネームバリューのある看板を捨て、大企業を「外から変えたい」という志を持った人たちがここに集まる。

AIは中期的にもビジネスポテンシャルが高い分野だけに、ここに焦点を当てたスタートアップも増えてきた。ストックマークはそれらと何が違うのか。創業者と幹部メンバーが語る。
大手出身だからこそ強い「大企業変革」への思い
──林さんは、伊藤忠商事を退社し、ストックマークを創業しました。どのような思いがあったか、教えてください。
 日本経済の活性化には、スタートアップの台頭や勢いも大事ですが、やはり一つのアクションにおいてインパクトが大きい大企業の成長、進化が欠かせないと思っています。
 でも、私が言うのもおこがましいですが、今の大企業は以前のような活気を失っているように感じています。どこか閉塞感が漂っているように思います。
 とはいえ、私も大企業に籍を置いていたので分かりますが、大企業を変えるのは並大抵のことではありません。ましてや20代、30代の社員が変えることはかなりハードルが高い。
 そうであれば、大企業を変えられるソリューションを開発し、“外から”大企業を支援したい。そう思ったんです。
 それに、私自身のキャリアに対して危機感を感じていました。大企業に籍を置き、数年が経って仕事にも慣れ少しの余裕が出てきたときに、「このままでいいのか」という焦燥感にも似た危機感を感じていたんです。
 しっかりとした戦略と信頼、充実した人員・体制は大企業の紛れもない強み。ただ、それに自分は守られ、成長意識が低くなっているのではないか、と。そうした危機感と焦燥感が起業へと自分を掻き立てたことも影響しています。
──青木さんはブルームバーグから移籍してきました。
青木 私はブルームバーグで法人営業を手がけていて、情報の収集や分析という観点から大企業の支援を手がけていました。
 次の一手を仕掛けるために、「情報」は有効な手段という確信を持っています。日本経済全体の底上げに大企業の復活は必要という気持ちも疑っていません。
 だから、ブルームバーグに籍を置いていたのですが、外資系特有の悩みかもしれませんが、提案するプロダクトやサービスが日本企業にマッチしない部分があり、忸怩たる思いを抱えることがありました。日本企業に向けたプロダクトやサービスを開発しようとしても、外資系大手でそれを実現するのは至難の業なんです。
 日本企業に寄り添った情報関連のプロダクトやサービスを提供したいという気持ちを抑えられず、日本企業に根ざしたテクノロジーソリューションを展開するストックマークへの移籍を決めました。
 また、ストックマークのお客様は本気で組織や会社を変えていきたいという熱い思いを持っている方が多く、そこにも魅力を感じました。
──森住さんはなぜ、日本IBMからストックマークに移ったのでしょうか。
森住 日本IBMを退社する直前、私は大企業とスタートアップ、日本IBMのオープンイノベーションを推進する役割を担っていました。
 大企業、スタートアップの双方に触れる中で、私が感じていた大きな違いはビジネススピードでした。肌感覚で言えば、スタートアップは大企業に比べて、意思決定が3〜5倍速い。
 この成熟したマーケットでビジネス拡大の答えが見つけにくい時代には、スピード感を持って、どれだけ多くのチャレンジやトライができるかどうかがカギを握ると思っています。その中で、前職時代に知り合った林にその気概を感じ、転職しました。
 また私自身、林同様にスタートアップが勢いづけば、日本企業全体を底上げできるとは思っていません。だから、自身はスタートアップに身を置きながらも、大企業の成長をテクノロジーで支援する仕事がしたいと思っていましたから、手がけるプロダクト、サービスの観点でみても、ストックマークは私の意志に合致していました。
 青木と森住、そして私も含め、当社のメンバーは7割以上が大企業出身です。大企業にいたからこそ、大企業の強さも弱さも分かり、そして大企業の価値を知っている。そして、「変えたい」「変わってほしい」という意識も強いのも共通点。
 私たちは、大企業に特化したソリューションを提供しているわけではありませんが、日本経済全体の復活のカギを握る大企業の変革をテキスト解析のAIによってお手伝いするということを、まずは大きなミッションに掲げています。
「PoC止まり」ではない
──ストックマークがAIという領域で「大企業を変えられる」という理由を教えてください。
 まず、AIというテクノロジーをすぐに使える「プロダクト(クラウドサービス)」として提供し受け入れられているということ。
 ユーザー企業がAIを実装したい、試したいと思って、AIベンダーやITベンダーに相談すると、まずはAIで解決できそうな課題や業務プロセスを選定し、PoC(Proof of Concept=実証実験)を行うケースが多いのではないでしょうか。
 そうなると、時間がどうしてもかかるし、活用範囲も限定的。試すという手段が目的化して、AIをスピーディに社内全体に浸透させにくい側面もあると思います。
 ストックマークのAIソリューションは主に3つあるのですが、その全てをSaaSで提供しています。つまり、AIを活用しやすいかたちにしている。変革を促すためのツールは、スピーディで実装しやすいものでなければならない。とくに大きな組織で適用されるには重要な観点だと思いますので、ここがまず優位点です。
森住 シンプルに言えば、一般的なAIはAPIとして提供される場合がほとんどで、実装するためには何らかのシステムインテグレーション(SI)がどうしても必要になる。
 お客様からみたら、それでは遅いのではないでしょうか。前職の日本IBM時代に、それを痛いほど感じていました。すぐに試したいというニーズは、過去以上に強まっている。だからこそ、すぐに活用できるかたちにしていることは強みです。
企業に埋もれる80%のデータにアプローチできる
──SaaSでAIを提供しているベンダーはほかにもいます。改めて、ストックマークのテクノロジーの強みを紹介してください。
 まず、AIの適用先として代表的なものに、音声処理・画像処理・自然言語処理の3つがあげられます。その中で、我々は「自然言語処理」という分野にフォーカスして、プロダクト開発をしています。
 デジタル化が進み、ビジネス拡大のヒントとなるデータが大量に生まれています。このデータは大別すると、数字などの「構造化データ」と、テキストや画像などの「非構造化データ」に分けられます。一概には言えませんが、大半の企業の場合、非構造化データが80%を占めています。
 今多くの企業で手がけているAIなどを用いたデータ分析は、構造化データを活用した場合が多い。ほんの20%のデータだけでビジネスの意思決定をしているわけです。それでは的確、正確な意思決定はしにくい。
 私たちのAIは、埋もれている80%のデータに自然言語処理技術を用いてアプローチできるんです。
青木 具体的なプロダクトとしては、現在は3つのSaaSを展開しています。
 日々の業務、経営、セールスといった多角的な側面から企業の情報収集・分析、意思決定を支援しているのですが、SaaSで提供しているだけに日々、改善を進めているのも強みです。
 お客様のご要望に対して、即座に開発部門と議論し、柔軟にプロダクトを進化させることができる。これは、セールスの人間にとっては非常にありがたいことで、外資系でセールスを担当していた頃にはない醍醐味を感じることでもあります。
──実績はどの程度あるんですか。
森住 大企業を中心に2000社以上への導入実績があり、「情報が素早く集められる」「ナレッジの蓄積だけでなく、有識者とのコミュニケーションが取れるのが大きい」との評価をいただいています。
企業もビジネスパーソンも「死ぬか、変わるか」
──今後のストックマークについて教えてください。
林 2000社のお客様にご利用いただいているとはいえ、まだまだ僕たちは走り始めたばかりです。AIというテクノロジーをもっと多くの企業に届けて、「AIの民主化」を図りたい。
 言葉を選ばずに言えば、表面的なモノやコトには満たされ、共通した課題がなくなって新たな価値を見出さなければならない今、企業は過去にとらわれない人材の確保や組織づくり、そしてプロダクトやサービス創出への異なるアプローチを取らなければ生き残っていけないと思っています。
 いかに、俊敏にトライできるか。少し刺激的な言葉を使えば、「Dead or Agile、死ぬか俊敏に動き変わるか」だと私は思っています。それが今、企業に突きつけられているテーマであり、私たちはAgileへとたくさんの企業を導いていければと思っています。
森住 林が言うように、もっとたくさんの企業をテクノロジーで支えたいと思っています。私たちのいずれのお客様も、これまで以上に危機感を持って、新しいことにチャレンジしスピード感を持って日々取り組んでらっしゃるのが強く印象に残っています。
 大企業の中でもみんながみんな、今のままでいいとは思っていない。変革を起こしたいと思っている人たちはいる。そういった熱い思いを持った方ともっとつながりたいと思っています。
 この変革のムーブメントをお客様と作っていく、そして日本中に作っていくには、私たちはより多くの仲間を必要としています。「大企業変革」というテーマに関心のある人はぜひ、私たちと一緒に挑戦してほしいと思っています。
 最後に一つ加えるならば、ビジネスパーソンのキャリアも、大企業の変革と同じだと考えています。今チャレンジしないと、10年後に淘汰されるかもしれません。
 私自身CEOとして50人ほどのメンバーを束ねて毎日ビジネスを進めていると、ヒリヒリする場面が多々あります。そのヒリヒリを乗り越えるたびに、成長していることを実感できます。これは私に限らず、当社の全メンバーに言えることだと思います。
 ストックマークは「大企業を変え、日本を変え、そして世界を変えていきたい」という思いがビジネス・エンジニアの両サイドで共有されているからこそ、意思決定のスピードが速いのが弊社の強みです。
 このマインドに共感し実現したいと思っている方はぜひストックマークに関心を持っていただければと思います。企業だけでなくビジネスパーソンも「Dead or Agile」なときだと思っています。
(取材・編集:木村剛士 構成:杉山忠義 撮影:北山宏一 デザイン:小鈴キリカ 作図:大橋智子)