見よ、これが5G体験だ! ラグビー“にわかファン”をファンにするドコモの挑戦

2019/10/30
ついに、5Gが手元にやってきた──。「低遅延でサクサク動画を見られる、4Gの何倍もの高速・大容量」など、具体的に何がどう変わるのか、想像の域を超えられなかった第5世代移動通信システム5G。
NTTドコモは2020年春の商用化を前に、9月20日から日本で開催され大きな話題を呼んでいるラグビーワールドカップ2019™で「5Gによる未来のスポーツ観戦体験」を提供
東京、横浜、静岡、花園、神戸、豊田、札幌、大分の8スタジアム(※1)と汐留の5Gパブリックビューイング会場で実際に体験できるイベントを実施した。
(※1)NTTドコモのご招待者のみに実施
ラグビーワールドカップ2019™のパブリックビューイング会場では、4Kの超高精細画質で試合映像を映す400インチの大画面と、ピッチ全体の俯瞰(ふかん)映像や選手のアップなどが見られるマルチアングル画面を設置。さらに、手元で「マルチアングル視聴」ができる5Gスマホも用意。複数のカメラアングルやタックル数、ボールキャリー数などの情報やリプレーなどにも自由に切り替えられた。
具体的に5Gでのスポーツ観戦で何がどう変わるのか、そもそもなぜNTTドコモは5G体験の提供にスポーツ領域を選んだのか。
前半では5Gによるスポーツ観戦の拡張に取り組む、同社の石河剛氏と田嶋達也氏に話を伺い、後半では10月13日に開催された「日本vスコットランド戦」の5Gパブリックビューイング会場での白熱した様子を伝える。

5Gが実現する、リアルタイムのマルチアングル配信

──まず、5Gを体験する場としてスポーツ領域を選んだ理由を教えてください。
石河 単純に、スポーツは5G体験をわかりやすく示せる領域だからです。
スタジアムにはカメラが数十台設置され、さまざまなアングルで映像を撮っていますが、今までのテレビ中継でその映像を全て同時に配信・視聴することはできませんでした。
だけど、5Gは高速・大容量、低遅延なので、複数の情報をリアルタイムかつマルチアングルで配信し、視聴ができるんです。
スタジアムには、ベンチの選手やボールを持っていない選手の表情、会場全体の引きの映像、選手や審判の目線、ロッカールームやファンの姿など、もっとコンテンツとして活用できる面白いシーンがたくさん転がっています。
それを手元の5Gスマホやパブリックビューイング会場の大画面で表現できたら、玄人から素人まで、どんなニーズを持つ人でも楽しめるのではないかと考えました。
田嶋 スタジアムにいてもピッチから離れた座席だと、誰がどんなプレーをしたのか見づらいこともありますし、オーロラビジョンに映し出されるのは1つの映像ソースでしかありません。
それが、何十台もあるカメラの映像を瞬時に手元のデバイスに送れたら、リアルタイムで好きな選手の好きなプレーを見られますし、誰が何をして活躍したのかもわかります。
もともとラグビーが好きな人と、ラグビーワールドカップ2019をきっかけに見るようになった人とでは、試合の見方は違います。
後者の場合、その試合の見どころや面白さはどこにあるのかがその場でわかれば、試合をもっと楽しめてラグビーをもっと好きになるかもしれない。
試合の勝敗やメディア露出の量だけに影響されずに、そのスポーツの魅力に気付ける世界を創造したいですね。

“にわかファン”が、本当のファンになる

──これまで5Gは「高速・大容量、低遅延、多接続」という言葉でしか表現されていなかったので、具体的に何がどうなるのかイメージできませんでした。今回実際に提供している5Gスマホではどんな体験ができるのでしょうか。
田嶋 生の試合をスタジアムやパブリックビューイングの大画面で見つつ、手元の5Gスマホでマルチアングルの映像やスタッツなどの付加情報を見られる体験を提供しています。
もちろん、パブリックビューイングの大画面でも5Gで複数の映像を映し出しています。
映像は、いわゆるテレビ中継のアングルもあればスタジアム全体を俯瞰した映像もありますし、選手のアップを見ることも可能です。
いろんな映像ソースを瞬時に送っていて、しかも映像の一つひとつがフルHD。多言語での解説情報や音声情報も同時に伝送しています。
また、リプレーもほぼリアルタイムで生成されているので、気になったシーンはすぐに戻って視聴可能。
ルールがわからない人でも、手元でルールがわかり、見どころも注目選手もわかるというのは面白いという声をたくさんいただいています。
5G体験をきっかけにファンになる人が増えるとうれしいですね。
──気になった選手をその場で深掘りできるので、選手との距離が一気に近づきそうです。
田嶋 まさにその通りで、普段ラグビーを見る機会がない人も、5G体験によって楽しさがわかって選手とも距離が縮まると、ファンになる可能性が高まるはずです。
パブリックビューイング会場は入場規制がかかるほど盛り上がっていますが、そこには“にわかファン”と自他共に認める人たちも大勢集まっています。
そういう人たちと選手やスポーツとの距離を縮める体験に貢献できるなら、ビジネスチャンスは大きいと思っています。

見る機会がなく、知らなかったスポーツとも出会える

──今回、実際に体験した人はどんな感想を寄せていますか?
田嶋 パブリックビューイングの大画面と手元のデバイスの映像に遅延がほぼないことを驚かれます。「低遅延とは聞いていたけれど、本当に遅れないんですね」と。
それから、今回スタジアムにご招待したお客様からは、試合状況がよく見えないときに手元のデバイスで確認できて良かったと好評を得ていますね。
石河 うれしいのは「他のスポーツにも応用できますね」と言われること。
スポーツによっては見えないアングルは必ずあって、たとえばマラソンは中間地点で応援していたら、スタートやゴールの様子は見られませんし、ゴルフも18番ホールにいたら、他のホールや他の組の様子はわからないですよね。
そういったスポーツの知られざる魅力に可能性を感じてもらえるとうれしいです。
──たしかに、さまざまなスポーツに応用できますし、今まで中継されていなかったスポーツにも可能性がありそうです。
田嶋 5Gの体験軸として考えているのは、マルチアングルでワールドカップや日本代表戦といったメジャースポーツにおけるさまざまな映像、シーンを同時視聴できる横軸と、大学スポーツ、草野球、小学校の運動会といったアマチュア、マイナースポーツでも映像で体験できる縦軸です。
これまでスポーツ中継は、大量のカメラと回線があって初めて映像が届けられていました。
それが、自分たちの5Gスマホで撮った高精細な動画を遠くにいる人がマルチアングルで見られるようになれば、草野球の会場でたくさんの回線を引く必要もなくなります
デバイスさえあれば試合を配信できる未来がつくれて、人もコストもかかりません。
──それは、プレーする側の人にとってもチャンスになりますね。
石河 まさに、興行として成立していない、まだ魅力を知られていないスポーツはごまんとあって、観戦する側のチケット代等で興行が成り立っている競技は一握りしかありません。
オリンピックは顕著で、競技に選ばれたら期間中は中継されますが、オリンピックが終われば視聴機会がほぼない競技はたくさんありますよね。
だけど、テレビ中継をされていなくても見られる機会が増えれば「こんなに面白いスポーツがあったんだ」という発見につながりますし、競技者人口が増えることにもつながるかもしれません。
ラグビーも、ラグビーワールドカップ2019が開催されるまで見る機会もなくルールも知らなかったけれど、今回日本開催ということもあって見る機会が増え、ファンになった人はたくさんいると思います。
それが大きな声援となり、選手たちに力を与えていることは間違いないでしょう。

スタジアムとは違うどこでも楽しめる価値を創出

──マルチアングル配信はスポーツだけでなくアーティストのライブ会場とも相性が良さそうです。
田嶋 そうですね。たとえばアイドルのコンサート会場に人数分のカメラがあって、その映像を高速かつリアルタイムで伝送できるなら、遠くて行けない、もしくはチケットに落選したライブでも、自分の“推しメンバー”を手元のデバイスで視聴できます。
マルチアングルや高速大容量の伝送技術を使った新しい演出もたくさん生まれると思いますよ。
──自分がその会場にいるかのような体験ができる。
石河 それも目指している方向性の一つです。空間そのものを伝送することでスタジアムやライブ会場と同じ体験ができるようにしたいと考えています。
応援の歓声、スタジアムのどよめきを音響や振動としてリアルタイムで送ることができたら、何事にも代えがたい価値になると思っています。
今回のパブリックビューイング会場でも、多チャンネルによる高臨場音響、限られた席でしたがスタジアムの地響きを振動にリアルタイム変換して伝える試みを行っています。
田嶋 まさに、誰がどこにいても心動かす観戦体験ができる世界観。家で見ているのだけど、まるでスタジアムにいるかのような体験を作りたいですね。
石河 とはいえ、スタジアムにはスタジアムの価値があります。
実は最初、「高臨場パブリックビューイング、マルチアングル配信をしたら、スタジアムに来る人が減るのではないか」と懸念されていました。
だけど実際は“にわかファン”の心をつかむことができ、スタジアムに行ってみたいという動機を醸成できた。
パブリックビューイングで得た体験が「生で見たい」という気持ちを生んでいます
田嶋 YouTubeで偶然見たアーティストのPVに感動して、ライブのチケットが欲しくなるのと同じ現象ですね。
石河 そうですね。スポーツやエンタメの興行ビジネスは、チケットを完売させるためにどうするかを考えます。
でも、パブリックビューイング会場や5G端末によるマルチアングル配信も新たなキャッシュポイントと捉えることで、箱ビジネスから脱却した新しいビジネスが生まれると思っています。

課題は山積み。より優れた5G体験を届けたい

──今回の5Gパブリックビューイングの取り組みから見えてきたこと、また今後の展開を教えてください。
石河 我々はこれが完成形だとは思っていません。今回はワールドラグビーから7つの映像ソースをもらい、国際中継と合わせた8つの映像ソースで構成したマルチアングルを提供しました。
だけど、独自のカメラを設置したり、もっと多くの映像がもらえたりしたら、審判目線や選手目線など、スポーツシーンにおける価値ある映像コンテンツを届けられると考えています。
ラグビー好きな人からすれば、もっとマニアックな目線から見たいという要望もあると思いますし、多角的な視点が今まで見えていなかったチームや選手の魅力、世界観やストーリーを伝えることに役立つかもしれない。
そういった潜在的なニーズも発見していきたいですね。
5Gそのものは、まだ性能を存分に出せていない部分が多く、5Gを実体験として提供したことで初めてネットワークの技術的な課題も見えてきました
それは今までの疑似体験ではわからなかったことであり、その実感を得られたのは我々のアドバンテージだと思っています。
田嶋 まさに、未来の観戦体験。ただでさえ楽しくて興奮するスポーツ観戦を、もっと楽しく、もっと面白くできるよう、5Gでの観戦体験をブラッシュアップしたいと思っています。

「息遣いまで伝わる」ライブビューイング会場

10月13日日曜、ラグビーワールドカップ2019日本代表とスコットランド代表戦が行われた。
NTTドコモは5Gプレサービスの一環として、マルチアングルによるパブリックビューイングをベルサール汐留で開催。会場には抽選で選ばれた約400人の観客が集まった。
会場前方には3つの大型スクリーンが設置された。
場内には5G端末も設置され、観客は試合開始前の時間も5Gでこれまでの試合映像を楽しんだ。
中継が始まると、会場全域を映すタクティクスビューから選手の表情に迫るアングルまで、さまざまな映像が映し出された。
生で見るより肉薄する臨場感、緊張感。戦術を読む目線までもがクリアに伝わる。
スタジアムの声援、地響きがそのままにライブビューイング会場をも包み込み、自然と手拍子が湧き上がった。
5G端末と併用した視聴では、より自身の好きなアングルが楽しめる。
このようにメインスクリーンと別アングルでの視聴や、選手のスタッツ情報が同時に楽しめる体験は、スタジアム観戦時にこそ役立つだろう。

「一瞬の視線」を捉える

ハーフタイムや試合後の解説時にも、5Gの魅力が発揮された。
後半2分、福岡堅樹選手が相手ディフェンスからボールを奪いそのまま独走、トライを決めた。
一瞬の出来事だったが、福岡選手が重なる体の間に腕を差し込み、引き抜いたボールを再びキャッチするまでの「一瞬の視線」がスロー再生で鮮明に映し出され、会場からは感嘆の声が漏れた。
解説時のスロー再生も鮮明に映し出される。
試合はで28-21で勝利。新たな歴史が刻まれた。
試合後、観戦にきていた男性は「選手の毛穴まで見えるほど鮮明な映像で、生で見るよりも迫力があった」とコメント。
NTTドコモ担当者は「試合に勝っても負けても楽しめるスポーツ観戦を提供したい。それが5Gのできること。今回のライブビューイングで課題も可視化されたので今後もアップデートしていきたい」と述べた。
今回のラグビーワールドカップ2019、日本代表は史上初のベスト8という歴史的な偉業を達成し、国中に一大ラグビーブームをもたらした。
5Gも、日本のスポーツの未来を照らす明かりのひとつとなるだろう。
(取材・執筆:田村朋美、川口あい、写真:飯本貴子、高橋絵里奈、デザイン:堤香奈、動画制作:木嵜綾奈、萬野達郎、佐々木健吾(NewsPicks Studios))
2020年は、5Gによる「スポーツ改革元年」だ