[ワシントン/ベイルート/アンカラ 14日 ロイター] - トランプ米大統領は14日、トルコのエルドアン大統領と電話会談を行い、シリア北部への軍事侵攻を即座に止めるよう求めた。

ペンス米副大統領が記者団に明らかにした。ペンス氏は「米国はトルコのシリアへの一段の侵略を容認しない。トルコが停戦し、暴力行為を止め、交渉のテーブルに着くことを求める」と述べた。

トランプ氏はまた、トルコへの経済制裁も発表した。

半年前に引き下げられたばかりの鉄鋼への追加関税を50%に引き上げるほか、トルコとの通商交渉を即座に停止すると表明。人権侵害への関与が疑われるトルコ政府関係者などを制裁対象にする大統領令を近く発令する方針も明らかにした。

一方、民主党のペロシ下院議長は、トランプ氏の発表したトルコに対する一連の制裁措置は、人道的危機の解決には不十分だと即座に批判した。

ロシアが後ろ盾となるシリアのアサド政権軍は、米軍の撤収の機会を即座に利用し、米軍の撤収発表から24時間もたたないうちにクルド人勢力が実効支配するトルコ国境南部に進出した。

過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦で米国と協力してきたクルド人勢力は、シリア政権軍との協力はトルコの攻撃に対抗するための緊急措置だと説明した。

シリア政権軍は北部への進軍により、掌握できていなかった地域に足掛かりを得ることから、アサド大統領や同国の内戦でアサド政権を支えるロシアにとって勝利と言える。シリア国営メディアによると、政権軍はクルド人武装勢力が実効支配してきたトルコ国境付近の街・マンビジュに進軍した。国境の南側を東西30キロにわたって走る戦略上重要な幹線道路沿いの複数の街にも、軍を展開したという。

<米軍撤収>

米政府は13日、シリア北部に残る駐留米軍およそ1000人を全員撤収させると明らかにした。

トランプ大統領は、シリア南部タンフにある拠点に米軍はとどまり、IS「残党の妨害」に引き続き取り組むとした。

トランプ氏支持派として知られる米共和党のマコネル上院議員は、大統領の対シリア政策批判に加わり、米軍撤収はISの再興を招くほか、「力の空白」を生み、イランやロシアの影響力拡大を許すと懸念を示した。

米当局者が14日明らかにしたところによると、ISから奪還した地域の安定化を支援してきた外交官チームは、すでに現地を引き揚げた。米軍はまだ現地に残っているものの、初期段階の撤収が始まっているという。別の米当局者2人はロイターに対し、米軍撤収の大半は、数日中にも完了する可能性があると明らかにした。

<政権軍との協力は「緊急措置>

クルド人当局者は「米国がこの地域を見捨て、トルコの攻撃を容認したことを受け、われわれは他の選択肢模索を強いられた。トルコの攻撃を阻止するためのシリアとロシアとの協議が、その結果だ」と述べた。

また、アサド政権軍との合意は「軍事的な仮の取り決め」とし、政治的な側面は今後話し合うとした。

別のクルド人政治家は、シリア政府との合意を「緊急措置」と呼び、「今はトルコの脅威から国境の安全を守ることが優先だ」と語った。

トランプ氏は、中東の「終わりなき戦争」から抜け出すことを目指すとしている。同氏はツイッターに「クルド人を守るためにシリアを支援したい者がいれば、ロシアであれ中国であれ、ナポレオンであれ、私は構わない。米国は7000マイル離れている」と書き込んだ。

<トルコとロシアは衝突の懸念否定>

トルコのエルドアン大統領は、訪問先のアゼルバイジャンで行った演説で「最後まで作戦を継続する決意だ」と言明した。ロシアとの衝突の可能性については、回避できるとの見方を示した。

ロシア政府のペスコフ報道官も、トルコとの衝突の可能性を否定し「そのようなシナリオは考えたくもない」と述べた。