大成功を収めたあるハイテク企業は、オープンプランのオフィスがもたらすはずだった利点すべてと、さらなる利点を手にした。その方法とは、全従業員を自宅で働かせることだ。

従業員700人が全員リモートワーク

『Forbes』に今年7月、連続起業家シド・サイブランディの特集記事が掲載された。同氏は現在、評価額10億ドル超、年間売上高1億ドルのギットラブ(GitLab)を経営している。
同社は成功を収めたスタートアップの典型だが、1つだけ大きな違いがある。従業員700人全員がリモートワークしていることだ。
競争の激しいハイテク市場でギットラブが急成長を遂げ、明白な成功を収めたことは、リモートワーカーによって構成される企業が、オープンプランオフィス(OPO)で従業員たちがあくせく働く企業に勝る好例だ。
ギットラブの事例は、OPOがもたらすことに失敗した利点を、在宅勤務がどのように生み出すかを教えてくれている。

なぜOPOがいけないのか

企業がOPOを導入した理由は2つ。対面によるコラボレーションが増えることと、オフィスの賃料が減ることだ。コラボレーションは、団結やつながりを強化すると考えられていた。しかし今、私たちは知っている。OPOを導入しても、対面コラボレーションは増えない、と。
ハーバード大学による最新の研究が示唆している通り、企業の従業員は、その場で突然行われるミーティングや電話によって同僚を邪魔したくないと考えている。その結果、個室や個人用スペースを持っていたころより、電子メールやテキストメッセージを頻繁に使っている。
一部の企業は対策として、1人または複数で使用する電話ブースを設置した。
1人用の電話ブースを使えば、周囲で働く同僚の負担は軽減するが、対面コラボレーションが増えるわけではない。電話で話したい従業員がそれぞれ、空いているブースを見つけなければならず、面倒なうえに、対面で話すわけではない。
同様に、複数で使用する電話ブースは、周囲の同僚が許容できる形で対面ミーティングを実現するとはいえ、「開かれた共用スペース」という性質上、上司も参加する可能性が高く、部下たちにとってはストレスになるだろう。
いずれにせよ電話ブースは、解決策というよりは応急処置に近い。電話ブースが存在すること自体が、OPOはコラボレーションを増加させるどころか、従業員の集中を邪魔すると認めているようなものだ。
また、OPOはほかのデザインのオフィスと比べれば小さな床面積で済むとはいえ、さまざまな理由から、生産性が大きく損なわれる。通常、人件費はオフィス賃料よりはるかに高いため、従業員の生産性が少しでも下がれば、賃料の節約分は帳消しになり、さらに損失を出す恐れがある。
以上のような理由から、OPOは人気を集めたマネジメント方法だとはいえ、ほぼ間違いなく、これまででも最も愚かな方法のひとつと言えるだろう。

なぜ在宅勤務がよいのか

明白ではないかもしれないが、コスト削減という観点から見れば、在宅勤務はOPOと比べものにならないほど安い。従業員が自宅で働けば、企業のコストはゼロになるためだ。さらに、労働時間を大幅に伸ばす通勤が不要になるため、給与がその分減っても、従業員は受け入れるだろう。
ただし在宅勤務には、OPOと同様に、コラボレーションが増えないという制約もあるように見える。しかし、現実はまったく異なる。
リモートワーカーは、とくに外向的な性格の場合、孤独を感じ、周囲から取り残されたような気持ちになることがある。
ギットラブではこの問題を解決するため、一日一度、ウェブカメラを使ったオンライン会議を開いている。仕事について話し合うだけでなく、ただ一緒に過ごすことも目的だ。
通常は20人前後で集まり、何でも自由に話す。コラボレーションが増えると同時に、従業員たちの社会的接触のニーズを満たすことができる。カフェテリアのような環境で仕事をする必要はない。電話ブースに閉じこもる必要もない。
コラボレーションはオンラインで行われるため、同僚を誘惑したり、噂話に興じたりするなど、非生産的な言動は少なくなる。問題行動(セクシャルハラスメント、いじめなど)を起こすのは難しいし、事実上、不可能だったりするため、訴訟に発展する可能性も低くなる。

「未来のオフィス」が現実になる日

ギットラブが証明しているように、在宅勤務は、OPOが成し遂げようとしていたことを実現するだけでなく、プライバシーの向上、負担軽減、ワークライフバランスの改善など、ほかの利点ももたらす。
在宅勤務による生産性の向上はすでに証明されているが、これらの利点はさらなる生産性向上へとつながる。
しかも、在宅勤務は環境に優しい。通勤する必要もないし、シリコンバレーなどの人口過密地域に住む必要もない。温室効果ガスの排出量も減る。OPOはたいてい、天井が高い巨大な空間だが、ホームオフィスのほうが効率よく温度を調節できる(さらに、自分の好きな温度を維持できる)。
つまり、ギットラブが実行しているような在宅勤務は、本当の意味で「未来のオフィス」だ。うまく行けば、私たち全員が自宅で快適に過ごしながら、同僚とつながり、コラボレートできるようになるだろう。
そのためにはもちろん、OPOを導入したCEOたちが、自分は間違っていたと認める必要がある。それには残念ながら、しばらく時間がかかるかもしれない。
それでも、未来のオフィスは実現するだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Geoffrey James、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:Delpixart/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.