【新しい働き方】「ニューフリーランス」における成功と、その条件とは

2019/10/22
知的生産を行う人を場所による制約から解放することで、どんなときも最大限のパフォーマンスを発揮できるよう支援するモバイルPCブランド、レッツノート。そのレッツノートが、今回、自身の価値創造力を高めたいと願うビジネスパーソンのために、場所や組織にとらわれない新しい働き方を実践する4人による座談会を企画した。

前回に引き続き、活躍しているニューフリーランスのワークスタイルの斬新さや成功のヒントを紐解いていく。(全2回・後編)

場所を問わない働き方とテクノロジーのあり方

曽根 前回は、場所や組織にとらわれない新しい働き方を「ニューフリーランス」と定義し、皆さんの「ニューフリーランス」ならではの哲学や苦労されてきたこと、そして人生を豊かにする「ニューフリーランス」の働き方という観点でお話を伺ってきました。
 今回はそれに続いて、まずは、働き方をサポートかつ拡張する上で欠かせないツールやテクノロジーやサービスとの関わり方について伺います。

パフォーマンスを最大化するクラウド

曽根 ミッションや働き方を絶えずアップデートしていかなくてはならない環境の中で、ご自身の仕事のパフォーマンスを最大化するためのサービス&ソフトにはどんなものがありますか?
加藤 DropboxiCloudを使っていて、データはパソコン上に置かず、ちょっとしたものまですべてクラウド化しています。クライアントからデータを求められたときや、自分でアクセスするときにもスマホ一つで完結しています。
井上 私がよく使っているのはGoogleカレンダー自分のスマホとお寺のタブレットを常に同期しています。お寺に法事の電話依頼が入ってくる可能性もあるので、お寺のスタッフ間でもスケジュールを共有しています。
佛教大学仏教学科卒業後、東京学芸大学で臨床心理学を専攻。2014年から全国各地の寺院・学校・企業でマインドフルネスをベースとしたワークショップ「お坊さんのハピネストレーニング」を開始。テレビ朝日系「ぶっちゃけ寺」の立ち上げやお坊さんが答えるQ&Aサービス「hasunoha」の企画運営に関わるなど、「今」を生きる仏教の普及を目指している。
 大きいプロジェクトを回すときは、プロジェクトごとにカレンダーを作り、色を変えてわかりやすくしています。
岡田 僕は3つのチームに属しているので、チームごとにGoogleカレンダーを使い分けています。クラウドをはじめ、便利そうな新しいサービスは基本的に使っていますね。
平原 私はGoogleのクラウドを使い倒していて、カレンダーでは、作業、お客さまとのアポ、準備、移動などの業務の違いを細かく書いています。業務の内容によって、もっとも適した環境を選ぶためです。
 Googleは検索が強いので、Google Driveではプロジェクトのキーワードを検索しながら素早く仕事をするようにしています。
小学生から単身で中国・カナダ・メキシコ・スペインに留学。3.11東日本大震災をきっかけに帰国し、早稲田大学国際教養学部に入学。新卒でジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、デジタルストラテジー・タレントデベロップメントを経験。幼少期からの夢である日本の教育変革のためプロノイア・グループに転職。広報、ブランドマーケティング、スピーカーコーチングなどに従事しながら、幅広い世代への価値観教育のためWORLD ROADを設立。

信頼性を高めるSNS。公と私での使い方

曽根 SNSでは何か自分なりの使い方やルールがありますか? 
 個人と組織の境界がなくなりつつあるニューフリーランスの場合、公私を切り分けるのは難しいのではないかと思っています。
加藤 クライアントにはメディアの人も多いのですが、日常のコミュニケーションも多く、飲みに行くのも仕事でありながらプライベートでもあるような感覚です。もともと感覚的に仕事とプライベートの垣根が低いので、SNS上の発言もプライベート色が強いほうだと思います。
岡田 僕の場合は、すべて公。鍵付きとか裏アカ的なものは持っていませんね。管理するアカウント自体はたくさん持っていて、チームごとに管理しています。
 プロチームが情報発信する上でSNSはかなり重要なツールになっていて、常に最先端を取り入れたい気持ちがありますね。やってみないとわからないので、新しいサービスは必ず実際に自分で使うようにしています。
青山学院大学卒業後、トヨタ自動車アルバルクに加入。複数クラブを経て2016年から京都ハンナリーズに所属。2009年に日本代表初選出。2010年に公認会計士試験合格。2013年に一般社団法⼈日本バスケットボール選手会を設立、初代代表理事。現在は新日本有限責任監査法人での非常勤勤務の他、会計塾講師、3人制プロバスケチームTOKYO DIMEと渋谷の飲食店Pizza&Sports DIMEの経営、執筆、講演などを行う。
加藤 確かに、プロのスポーツ選手にとってSNSは大事なツールですよね。活動の宣伝がスポンサーとの信頼関係を高めることになるし、ファンやサポーターに自分のありようを自然な形で見せられると思います。
岡田 また、自分のやりたいことや想いを発信していれば、協力者や応援してくれる人の輪が自然と広がります。
 最近のTikTokブームにもすぐに乗っかり、動画を上げています。多いときで100万回ほど再生されました。新しいSNSには早いタイミングで触ってみることが重要です。

時間を設計して切り替える、パラレルな仕事の進め方

曽根 働き方を考える上で、時間の使い方はとても重要な要素だと思いますが、いろいろな場で「ご自身の時間の使い方を分析したことがあるか」と聞くと、かなり多くの方が「実はちゃんとやったことがない」と回答されます。
 時間の使い方を、皆さんはどのように設計してコントロールしていますか。
井上 普通の人の集中力の限界というのは1日当たり4時間らしいです。もちろん、がんばれば6時間でも集中できるんですが、そうすると次の日のパフォーマンスが下がるらしい。
 となると1日のホットタイムが4時間を超えたら、あとは集中力を使わなくていい仕事に切り替えます。
 プロジェクトにお金を配分するのと同様に、集中力というリソースを配分できると考えたら面白いですね。
加藤 切り替えるための環境も必要ですね。ニューフリーランスはどんな場所で働くかとか自分で決められるので、その上で環境のつくり方、集中力アップのためにどうするかが問われると思います。
証券会社営業、出版社での広告営業・雑誌編集、商社広報勤務を経て、2010年にPR&コミュニケーション業務を中心とした株式会社カリテを設立。時計ブランド、レストランなどのPRの他、英語、フランス語の通訳など幅広い職務をこなす。食やおもてなしに関するコラム執筆も行う。海外からテレワークを行うことも多い。
 最近「暗闇フィットネス」がはやってますが、私は「暗闇ボクササイズ」に通っています。脳科学的に暗闇の中でやることによって集中力と運動効率がすごく増すらしいです。実際、人の目も気にならないので、脇目も振らず45分間打ち込めるんです。
 これを朝のルーティンに決めてから、時間の効率化ができている実感があります。
平原 私も毎朝、暗闇バイクエクササイズを45分間やってます。そのあと30分シャワーを浴びてから、近くにある絶妙な音楽が流れているカフェに行きます。心地がいい状態で、メールの返信などの日常業務を2時間やると決めています。
 夜は自分の時間を取らないとゆっくり眠れないし、次の日もパフォーマンスが下がってしまうので、寝る前の30分間は必ずヨガをしています。
曽根 集中したり切り替えたりするためのルーティンは重要ですよね。
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。マッキンゼー、楽天を経て2015年2月にランサーズに参画し、2015年11月より取締役。経営戦略の立案や新規事業の推進、提携などを担当。学生時は建築を専攻し、デザイン・アートなどに興味。「個のエンパワーメント」というミッションのもと、「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」というビジョンの実現を目指している。

デジタルとアナログの境界線とは

曽根 皆さんはデジタルとアナログの境界線をどう考えていますか? お互いが違う場所にいても、ある程度のことはオンライン会議で済みますが、現場の空気感はその場にいないと味わえない。
 例えば人を説得するには直接会って膝詰めで話すことも必要です。こうしたアナログなチャネルに、デジタルな要素がどのように補完されると働き方がもっと自由になると思いますか?
平原 オンライン会議ツールの品質としてはもう十分だと思っていて、私がもっとも大事にしているのが「心理的安全性」です。どうしたら心理的安全性を感じる環境づくりができるのかを常に考えています。
 忖度して会議を進めてしまうと、決定したことも後で「あれちょっと違うんだけど」って揉めてしまったりするので、本心をしっかり伝え合えるようなサポートツールがあるといいですね。
井上 画面に「嘘でしょ」とか表示されるとおもしろいですね。会議の信頼性が上がるのでは。
曽根 レッツノートでもフロントカメラで撮影した顔の画像から自律神経の活動量を読み取るサービスもあったりするみたいですね。それで疲労やストレスの度合いがわかると聞きました。
 うまくいった会議とうまくいかなかった会議をモニタリングできたりすると、面白いかもしれないですね。
加藤 アナログでしか通わない温度感や人としての空気感がデジタルに加味されるようになったらいいですね。
 日々の業務にしてもクライアントと実際に会わなくても成り立ちますが、本音で話すにはやはり直接会わないと難しい。メールだけのやり取りでは誤解が生じたりもしますので。
井上 お寺で人と会うときに、洋間で会うのと、重厚な奥座敷で会うのと、離れの茶室で会うのとでは話の質も変わってきます。
 そういうふうに、そのとき話したい内容やその日の天気といった状況に応じて、緊張感を生み出したり緩めたりといった選択肢が、アナログにデジタルを組み合わせることで生まれるかもしれませんね。
曽根 アナログの空間にデジタルな要素をプラスすることによって、できることの選択肢がぐっと広がるわけですね。デジタルとアナログがこんなふうに結びついたらいいというアイデアはありますか。
平原 コミュニケーションサービスの一つとして、距離が離れていても真横にいる感覚が持てるようなものができたらいいですね。相手の嗜好に沿って、背景にアバターや写真が出てきたりして、心理的安全性を感じられるような。

ハッピーな自分を好きでいられる、持続可能な生き方

曽根 次は、ニューフリーランスの皆さんにとっての幸せとは何かとか、成功するための条件について教えてください。やはり「パラレルワークによる越境」が成功の条件になってくるのでしょうか。
加藤 多感な学生時代にフランスなど海外で生活していた影響からか、大企業にいればいるほど自分は歯車でしかないと思っていました。風邪で休もうが辞めると言おうが、代わりの人はいて会社は回っていきます。 
 ニューフリーランスという働き方は、満員電車に揺られ、制約の厳しいオフィスにいるのでなく、自分の好きな環境に身を置いて成果を積み重ねていけば成り立つというのがいい。
 やりがいもあって、自分には合っています。ただ、制限するものが何もないので、今から何をやろうとしても始められる。そう考えると、目の前の仕事が終わったときの充実感は大きいのですが、究極ではないというか、常に満足はしていません。
 未来の自分の立ち位置は自分で決めないといけないですよね。自分の幸せは、自分にしかわからない。本当の満足って何だろうという疑問も含めて、お風呂に入りながら、毎日、日課のように自分はどこに行きたいかと自問自答しています。
平原 私の好きなSDGsと絡めて言うと、持続可能な社会が求められている中で、持続可能な働き方持続可能な生き方をしていきたいと考えると、大切なのは「いかに自分に対して丁寧に生きられるか」ということです。
 そうしないと、余裕がなくなり、トラブルにつながってしまうと思うんです。
 ですから、私は毎日「今の自分へ」という手紙を書き、年に一度、年初に振り返ることにしています。去年の自分は何を考えてたんだろうって。すると、その時々で感じた感情や出会った人など、すべての経験が自分に蓄積されて今につながっていると感じられます。
 それが私にとっての「成功」だと思っています。
曽根 持続可能な働き方、持続可能な生き方って、すごくいい考え方ですね。社会がどんどん変わっていく中、ブレない自分でいるために自分自身の振り返りをしっかりすることが必要な時代になっていると思います。
平原 食べ物と一緒で、期間限定食品や派手なパッケージでブームを取りにいく商品ではなく、おいしいお米みたいに本当に人間が求めるものでなければ、なかなか続きません。
 生き方も、自分にとって絶対に変わらない想いや相手から絶対に求められるようなことを大切にすれば持続可能な働き方、持続可能な生き方はできるし、社会のためにもなると信じています。
岡田 僕は「好きなことをやっていく」っていうことですかね。子どもの頃から好きなことをずっとやっているので、それはすごく幸せだと思います。
 「あれこれ手を広げず、一つのことに集中しなさい」という価値観の人たちは、当初は複数のキャリアを持とうとすることを認めてくれませんでした。しかし、やり続けることで認知はされてくる。そうすると少なくとも自分の周りの文化は変わっていくんだというのをすごく実感しています。
 僕がいるバスケの世界の中では「そういう生き方もあるね」と、一定の理解を得られた気がします。
 そもそも世界を大きく変えようと気負う必要はない。自分がこれから進んでいく人生の道中だけでも多様な文化や価値観が認容され、相互に認め合う世界に生きることができれば、それだけで幸せだと思います。
曽根 素晴らしいですね。思わず聞き入ってしまいました。

自己変容性を認め合う「自分エコシステム」の時代へ

井上 今までの私たちの働き方は、会社の流れに乗っていれば終身雇用が保障されていたわけで、個人の理念やビジョンといったものは社畜になる上では弊害となっていたと思います。社畜になりきるには、個人の理念とか捨てたほうがいい。
 しかし、これからは、会社をまたいだり、いろいろな人とつながっていくために、自分の理念やビジョンが必須になってくるでしょう。それがないと、何のためにその人がここに存在しているのかということになってしまうんですよね。
 「自分は何が好きで何をしたいのか」を感じ取り、自分の価値観に素直に向き合うことが大事です。
 もう1つ言えば、その理念や価値観が誰かに共感してもらえることが重要です。誰からも共感されないものでは、コラボも成立しようがありません。そんなときには自分の価値観を客観的に見て、人から共感されるように少し修正する力があると、なおよいと思います。
 大前提としては、自分の好きを好きと言える向き合い方が、これからの個の時代では大切だと思います。
曽根 さきほどの「持続可能な働き方」というのは共感されやすく、応援する人も今後増えてきそうです。
井上 自分の価値観は固定化されませんからね。変化も激しい時代だから、そういう自己変容性も認めてあげないといけないですよね。
 「自分の理念を決めた。自分はこうじゃなきゃだめだ」というのも長い目で見ると自縄自縛になるかもしれない。そこは変化を許してあげるくらい緩やかな感じがちょうどいいと思います。
曽根 非常に楽しい時間でした。これからは個が主役になる、いわば「自分株式会社」の時代と思っていたのですが、さらにその先には、互いの変化を許し合うような「自分エコシステム」ともいうべき世界観が広がっているように感じます。
 変化の時代だからこそ、ニューフリーランスは自分自身のぶれない軸を作っていくことが必要ですが、その軸を持ちながらも、まわりの価値観と共鳴し、影響を与え合いつつ、自分なりのエコシステムを作っていくのかなと思いました。皆さん、ありがとうございました。
※レッツノートの連載「Value Creating Talk 『新しい価値を生む人』の思考術」はこちら。
(構成:柴山幸夫 編集:奈良岡崇子 写真:大畑陽子 デザイン:國弘朋佳)