Pavel Polityuk Andrew Osborn

[キエフ/モスクワ 25日 ロイター] - トランプ米大統領は25日、来年の大統領選での政敵追及のため、ウクライナのゼレンスキー大統領に協力するよう圧力をかけたとされる問題で、ゼレンスキー氏と7月に行った電話会談の記録を公開した。

これにより米国内の政治的緊張の激化は必至だ。しかし、それ以上に、ゼレンスキー氏が受けた外交的な痛手は深刻で、破滅的な悪影響をもたらしている。明らかになったゼレンスキー氏の発言は、米野党・民主党を怒らせ、ウクライナが必要としている米国からの超党派の支援を危うくするだけでなく、電話会談で批判されたフランスやドイツのいら立ちも避けられないからだ。

<頼みの欧米支援を危うくする恐れ>

ウクライナは、ロシアが2014年にクリミア半島を編入し、ウクライナ東部の武装勢力を支援して以来、この隣国と抜き差しならない対立関係にある。そのため、国際社会でできる限り友好国を確保する必要に迫られている。

特に米国からの支援や外交的な手助けに大きく依存。フランスやドイツなどの欧州諸国は、停滞したままのウクライナ東部の和平協議を進展させようと努力を続けてくれている。

ところが今回の電話会談記録が判明した結果、ウクライナが有害な国家だとみなされかねない、と同国のシンクタンク、ニュー・ヨーロッパ・センターのアルヨナ・ゲトマンチュク氏は指摘する。

16年の米大統領選への介入疑惑で広がったロシアへの嫌悪感ほどではないにしろ、ウクライナの印象もかなりひどくなりそうだ、と同氏は付け加えた。

ゼレンスキー氏にとって何とも間の悪いことに、今回の問題はウクライナ東部紛争終結のための和平協議の一部再開に自らが積極的になっていた、まさにその時に発覚した。こうした取り組みには、米国や欧州の外交的な協力が欠かせない。

しかし会談記録によると、ゼレンスキー氏は、バイデン前米副大統領の息子が役員を務めていたウクライナ企業への捜査再開をトランプ氏に約束したほか、フランスのマクロン大統領とドイツのメルケル首相が対ロシア制裁実施を後押ししてくれないと不満を口にしていた。

またゼレンスキー氏は、米民主党政権時代の駐ウクライナ大使が「良くない外交官だった」とのトランプ氏の主張に同意していた。

<必死の弁明>

ブルーベイ・アセット・マネジメントのシニア新興国市場ストラテジスト、ティモシー・アッシュ氏は「ゼレンスキー氏は、米国の元大使やメルケル氏や欧州諸国を足蹴にした上に、バイデン氏に対するトランプ氏の政治工作に手を貸した。これは良い印象はもたらさない。まるでトランプ氏に取り入っているように見受けられる」と指摘した。

ゼレンスキー氏がウクライナを腐敗や汚職のない完全に透明な民主主義国家に生まれ変わらせるという公約を達成してくれるだろう、という世界の投資家の期待とは裏腹に、アッシュ氏のコメントからはそうした道筋の実現に懐疑的な見方が広がっていることがうかがえる。

ゼレンスキー氏はこれまで、ウクライナが電話会談記録を公開するべきだとの声に抵抗してきた。25日にはニューヨークで記者団に対して、トランプ氏が自身の発言だけを開示するとばかり思っていたと語り、独立国家の首脳同士の詳しいやり取りは表に出すべきでない時もあるはずだと強調した。

ゼレンスキー氏はまた、バイデン氏の息子に関する捜査の詳細は知らなかったと弁明するとともに、トランプ氏からの要請があったとしてもそれは世界中の首脳との会話でよくあるケースの1つだと指摘。ウクライナの新検事総長は全ての事案を政治の干渉を受けずに捜査してほしいと付け加えた。

一方で、独仏との関係維持にも気を配り、メルケル氏とマクロン氏の助力には感謝しているなどとし、「私はだれの悪口も一切言いたくない。われわれに手を差し伸べてくれる全ての人をありがたいと思う」とゼレンスキー氏は話した。

<ほくそ笑むロシア>

それでもウクライナ国内からは、同国は既にダメージを被っているとの声が聞かれる。

シンクタンク、ペンタのボロディミル・フェセンコ氏は「当然ながら欧州の首脳、特にメルケル氏との関係で状況は悪化するだろう。(ホワイトハウスが用意した電話会談記録の要約に)直接的な批判はなかったとはいえ、ゼレンスキー氏の発言の文脈や調子からは、トランプ氏にメルケル氏への不満をぶつけたように聞こえる」と話した。

今回の問題でウクライナの対米関係が損なわれ、米国からの軍事支援などに支障が出てくる可能性があり、それがロシアに利することを心配する向きもある。

ポロシェンコ前大統領の派閥に属するある議員は、ウクライナにとって単独でロシアと向き合わなければならない恐れが出てくるという大変危険な事態で、ロシアは必ずこの好機を活用するだろうと警戒感をあらわにした。

「トランプ氏が事実上ゼレンスキー氏にバイデン氏の弱点探しを依頼し、ゼレンスキー氏が同意したように見える。バイデン氏がウクライナの改革に全力を注いだ後で、ゼレンスキー氏が背後からバイデン氏を刺して、米国の元大使やメルケル氏も道連れにした」と、ブルーベイ・アセットのアッシュ氏はいう。そして、「勝者は誰かと言えば、(ロシア大統領の)プーチン氏だ」と断言した。