自宅やコワーキングスペースから仕事をしたり、スポーツウェアやリラックスした服装でオフィスに通うことができる企業が増えるなど、10年前に比べて私たちを取り巻く労働環境は大きく変化してきた。
ビジネスウェアによくある形式ばった服装規定は、そうした働き方をする人々にとっては「過去のルール」になりつつある。しかし、その認識はまだ限られたもののようだ。多くのビジネスパーソンは、いまだに「ビジネスウェア」のルールを守って働いているという。
求人検索エンジン「インディード(Indeed)」がアメリカで実施した最新調査では、就業日の全体を通じてカジュアルな服装を認めている米国企業の割合は、過去5年で32%から50%に増加したことが明らかになった。
これは確かに大幅な増加だ。しかし言い換えれば、残りの50%の企業は、30年前に始まった新しい働き方の潮流にいまだ追いついていないということでもある。ビジネスカジュアルのブームは、他でもなくアメリカのシリコンバレーから1980年代に始まったことだ。
だが、ピン・ストライプのスーツやタイトスカートのスーツ、あるいは会社が指定する制服がいまだに規範とされる業界であっても、雇用主たちは、「ネクタイ」を積極的に緩めるようになってきている。インディードが調査した企業の3分の2近くが、少なくとも週に1日はカジュアルな服装を許可している。
日本では「クールビズ」と言い換えられて久しいが、ことアメリカでは1990年代に流行った「カジュアル・フライデー」の名残であることはまちがいない。ビジネスウェアの規定が今よりもっと厳しく指定されていた頃、カジュアル・フライデーは、コストをかけずに社員の士気を高める方法として利用されていた。
しかし時代は変わり、週に1度のカジュアルデーでは社員の士気を高めるのに十分とは言えなくなってきた。

変わり始めた服装規定

ゴールドマン・サックスは2019年、「柔軟な服装規定」を設け、3万人前後の社員に対し、クライアントの「期待に合った」服装をするように指示した。「一般的に、よりカジュアルな環境を好む職場の性質の変化」が理由だという。
他の大手金融機関と同様に、ゴールドマンは優秀な人材の獲得を競っているが、大手情報技術(IT)企業やヘッジファンドのオフィスなどはよりリラックスした環境であることが多い。労働環境を優秀な人材の望むものに近づけることで、さらに会社の発展に繋がるかもしれない。
「当然ながら、カジュアルな服装が毎日の業務やすべてのやり取りにふさわしいということではない」と指摘しつつ、現在よりもカジュアルな服装が認められそうだ。
同じく2019年、ヴァージン・アトランティック航空は、女性客室乗務員の服装規定を緩和した。化粧を義務づけてきた規則も廃止すると発表した。また、特別な許可を得なくても、スカートのかわりにスラックスを着用できるようになった。

服装によるモチベーションの変化はあるのか

こうした服装規定の緩和は、社員にとってはどのような意味を持つのだろうか? 2016年にイギリスで行われた調査では、2017年に新しい職を探すつもりでいる人の61%が、服装規定を強いる企業は、どのような企業であれ悪い印象を受けると回答した。服装規定が緩められると、生産性と幸福度が上がると感じると答えた人も、同じく61%に上った。
ただし、きっちりした服装にも、まちがいなく利点はある。
求人サイト「ザ・ミューズ(The Muse)」によれば、一部の雇用主は服装規定について、会社の価値を示すもの、顧客に与える信頼感を増幅するものと捉えているという。また、全員が平等に働けるためのものと考えている雇用主もいる。たしかに、「ビジネスカジュアル」「オフィスカジュアル」というあいまいなルールは多くの人を混乱させているかもしれない。
とはいえ、最も私たちに好まれる服装規定はおそらく、数年前にゼネラルモーターズが採用したものだろう。工場の現場から重役室まで、あらゆる場所で働く人にあてはまる、とても簡潔な規定だ。それは「Dress appropriately(適切な服装をすること)」だ。
(執筆:Michelle Cheng、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:Yuliya Apanasenka/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.