ビル・ゲイツの発言とHBSの研究結果

企業が優秀な従業員に提供できる最も重要な特典は自由な勤務形態だと思うと、ビル・ゲイツが述べたのは最近のこと。
ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の新しい研究によれば、いつでも好きな時間に好きな場所で働くことを許可する企業は、より忠実で生産性の高い従業員に恵まれ、コストも削減できるという。
フレキシブルな働き方を望む声は、あなたの会社でも上がっているはず。まずは最新の研究結果をチェックし、そのうえでそうした勤務形態を導入する余地があるかどうか検討しよう。
まずは最新の研究から。HBSのプリスウィラジ・チョウドリー教授らの研究チームは米特許商標庁の職員を対象に、フレキシブルな勤務形態が従業員の生産性と忠誠心、コスト効率に及ぼす影響を調査した。
特許商標庁を選んだのは、同庁が最近「テレワーク推進法パイロット・プログラム(TEAPP)」なる大規模な実験計画に参画したからだ。プログラムのもと、特許商標庁では一部の特許審査官に時間も場所も自由な働き方(テレワーク)を許可し、残りの審査官には今まで通りオフィスで勤務してもらった。
すると、TEAPPに参加した職員の生産性は4.4%上がった。仕事内容はオフィス勤務の職員とまったく同じだった。

在宅勤務よりもフレキシブルな働き方

この結果は、ほかの調査研究とも合致する。
スタンフォード大学の経済学者ニコラス・ブルームは、上海で旅行会社を経営する大学院の学生と共同で研究を実施。旅行会社の従業員の半数に、9カ月間自宅で働いてもらった。その結果、在宅組の効率性は13.5%上昇したという。
ただし、従業員の希望は強制的な在宅勤務ではなく、そうしたいときにはオフィスではなく家で仕事ができる自由度だということも、このリサーチからは見えてきた。
HBSのチョウドリーは仕事場を自宅に限定せず「どこでも可」とすることで、この問題に取り組んだ。
「これまでの学術研究は、時間的にフレキシブルな『在宅勤務』が生産性に及ぼす影響を対象にしていました。一方『どこでも可』なテレワークは『在宅勤務』を一歩進めた、時間的にも地理的にもフレキシブルな働き方です」と、チョウドリーは説明する。
TEAPPは個人の生産性を高めただけでなく、1億3200万ドルの歳入増と人材採用・雇用費の4.4%削減につながり、さらにはオフィススペースの確保とそれに関連するコストが3800万ドル節約できたという。また、職員の一部は地価・物価の安い地域に引っ越したため、実質所得が大幅にアップした。

テレワーク導入を左右する4つの条件

研究結果を踏まえ、フレキシブルな勤務形態があなたの会社に合うかどうか、4つの条件をチェックして考えよう。
・共同作業はどの程度必要か
従業員同士の共同作業が必要で、その作業をテクノロジーで補うことができないならば、テレワークは難しい。チョウドリーの研究対象となった特許審査官は、基本的に単独で仕事をしている。
・従業員を信用できるか
早い話が信用できない人間を雇ってはいけないのだが、信用にもいろいろある。また諸事情により、信用性の低い従業員を仕方なく雇っている場合もあるだろう。企業が柔軟な勤務形態を導入しない最も大きな理由の1つとして、チョウドリーは従業員への不信感を挙げている。
・現実的か
言うまでもなく、レストランや工場、接客の多い商店にはあまり検討の余地がないだろう。ただし職場ではなく「ホームオフィス」で十分にできる作業もありそうだ。
・段階的に移行できるか
いきなり従業員全員にテレワークを許可して上手くいく会社は、そうないだろう。なにごとも、いわば「お試し期間」が必要だ。
特許商標庁でプログラムに応募することができたのは、勤続2年以上の職員のみ。さらに参加者も最初から「どこでも可」な働き方を許されたわけではなく、在宅勤務を経て、全面的なテレワークに移行した。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Bill Murphy Jr./www.billmurphyjr.com、翻訳:雨海弘美、写真:Nadezhda1906/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.