ワークライフバランスの改善を目指すグーグルの研究プロジェクトを、より少ないリソースで実行する方法をご紹介しよう。

100年にわたる長期研究プロジェクト

グーグルのような大企業は、リソースが豊富でうらやましい。同社のピープル・イノベーション・ラボは、人材の維持・確保や生産性、従業員の幸福感など仕事に関する諸問題を大切にしている企業にとって、まさに「喉から手が出るほど欲しい」ものの典型だ。
同ラボの目玉のひとつが「gDNA」。2014年から100年の計画で展開されている、ワークライフバランスに関する長期研究プロジェクトだ。
71年間続いているフラミンガム心臓研究にインスピレーションを受けたプロジェクトで、いかにして良好な労働環境を築き、最高の実績を挙げるチームを育成し、幸福感と生産性を最大限に引き上げるかについて、科学的根拠に基づく管理を行うことを目指している。
2014年、グーグルのラズロ・ボック人材管理担当上級副社長(当時)は『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌に対して、初期段階の調査結果を説明。その時点で、調査に対して「仕事と私生活をきちんと分けることができている」と回答した従業員は、全体のわずか31%だった。
ボックはこれらの人々を「分離実現者」と呼び、そのほかの69%(「統合者」)も実際には、彼らのように毎晩スイッチを切れるようになれることを強く望んでいると語った。研究プロジェクトが彼らに恩恵をもたらすであろうことは、想像に難くない。
gDNA研究自体は従業員の意識調査のようなもので、毎年、無作為に選ばれた従業員たちが科学的に検証された質問や測定尺度を含む詳細なアンケートに回答する。質問は性格などの不変の特質や、文化や仕事のプロジェクト、同僚に対する姿勢など時間の経過とともに変化する特質について尋ねる内容だ。
それらの回答を得たうえで、従業員たちが周囲の人々とどのような関係にあるのか、調査で明らかになったあらゆる要素が互いにどう作用しているのか、科学的・数学的な分析を行う。
グーグルは幸運にも、善意ある組織であると同時にものごとを単純化することにも長けている。ほかの企業が独自のピープル・イノベーション・ラボを立ち上げて、gDNA研究と同様のことを、グーグルよりずっと少ないリソースで行うことは可能だとボックは言う。
自分の会社での仕事(やプライベート)について詳しく理解して、これまで直感的に感じていたことを事実に「昇格」させたい場合は、以下の4つのステップに従えばいいと彼は説明する。

1. 自社にとって最も重要な人事上の問題を定義する

この定義には、従業員からのインプットも含める。重要な問題は人材の維持・確保かもしれないし、効率性やエンゲージメントかもしれない。
筆者が広告業界で働いていた時に学んだのは、問題を明確に定義することが前向きな変革につながる一歩だということだ。

2. 従業員がそれらの問題にどう対処しているのか、改善のために何をするつもりかを調査する

思慮深い回答を得るためには、思慮深い質問票を作成すること。すべての質問を意義あるものにし、とりわけ「重大な欠点を露呈することになるかもしれない」と懸念している点について尋ねるべきだ。
勤務中にわざわざ時間を取って記入するよう頼んでいるのだから、その時間をかけただけの価値がある質問票を作成しなければならない。あなたが真実を知りたいと望んでいること、ものごとを改善するために行動を起こす準備があることを従業員に示す質問をしよう。

3. 調査で学んだことをオープンかつ正直に共有する

ここが、あまりに多くの企業がつまずくところだ。これらの企業は大々的な調査を実施して従業員に協力を求める。だがそれで終わりだ。
その後、従業員が調査についての話を耳にすることは二度とない。調査結果に基づいて行動が起こされることもない。まるで調査なんて最初からなかったみたいに。
筆者は、そうした調査の結果が一部の幹部レベルで止まっているのを目にしたことがある。こうしたケースは調査結果がそれらの幹部にとって不名誉な内容のことが多く、そのため彼らは結果をさらに上のレベルの幹部に見せたくないと考えるのだ。
これは害悪にほかならない。従業員はいずれどの段階で調査結果が葬り去られたのかを知り、その後は会社側がどんな調査を行ったところで、心を開いて誠実に参加してくれることは少なくなるだろう。

4. 調査結果に対して目に見える行動を取る

実験的な取り組みを実行しよう。変革を導入し、なぜその変革を行うのかを説明して、調査で明らかになった問題とその変革を結びつける努力が必要だ。
調査結果が共有されても、それを基に特定の行動が起こされたと実感できなければ、従業員は自分たちの努力が無駄になったと感じるだろう。
*   *   *
誰もがグーグルのように人間科学を極めるだけの資金を持っているわけではない。だが行動を起こす気持ちとプロセスを単純なものに保つ賢明さがあれば、独自の学習ラボをつくることができるだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Scott Mautz/Keynote speaker and author, 'Find the Fire' and 'Make It Matter'、翻訳:森美歩、写真:georgeclerk/iStock)
©2019 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with HP.