【辻󠄀 庸介】マネーフォワード社長が語る「お金と人生」

2020/1/12
「お金の課題をテクノロジーで解決したい」。そんな思いから起業したマネーフォワードの社長・辻󠄀庸介氏は、シャープの第2代社長・佐伯旭氏を祖父に持ち、幼い頃に薫陶を受けた。

京都大学農学部卒業時に研究の道ではなく、東京で就職しようと考えたが、就活に出遅れ海外へ。モラトリアム期間を経て、ソニーに就職し、経理部に配属される。社内公募で当時できたばかりのマネックス証券へ出向、松本大社長(現会長)の仕事の仕方を傍らでつぶさに見てきた。

経営者となっても学び続ける辻󠄀氏が、これまでのビジネス人生を振り返り、その哲学を明かす。(全7回)
「お金を前へ。人生をもっと前へ。」 
こんなミッションとともに、僕たちの会社であるマネーフォワードは誕生しました。2012年5月のことです。
マネーフォワード7周年記念の社員集合写真
「お金の課題をテクノロジーで解決したい」という思いのもと、さまざまなサービスを提供してきましたが、現在の事業の大きな柱は、法人向けバックオフィスSaaS「マネーフォワード クラウド(会計・確定申告・請求書・給与・勤怠・マイナンバー・経費・資金調達・会社設立)」、そして個人向け自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード ME」の2つ。
もともと京都大学農学部出身の僕が、なぜこのような会社を立ち上げることになったのか。もしよろしければ、しばらく僕の話におつきあいください。

農学部出身者の共通点

僕は小さいころ、関口宏さんが司会を務める『わくわく動物ランド』という動物をテーマとしたクイズ番組を、毎週夢中になって見ている子供でした。
幼少時代、「子供の日」
生き物が好きというだけでなく、人間の体の仕組みや生態系の成り立ちなど、生命の神秘を感じさせるものにずっと興味があった。
京大に入学して生物専攻の農学部に進んだのは、やはりそういう世界に魅力を感じていたからです。
京都大学(写真:玉置じん/アフロ)
世間一般のイメージとしては、会社経営者といえば経済学部や商学部出身者が多く、農学部出身なんて珍しいと思われるかもしれません。
ところが実際は、それほど少なくもないのです。
やはり農学部のご出身である花まる学習会の代表高濱正伸先生の呼びかけで、農学部出身の経営者を中心に結成した「G1農学部」という会があります。
「G1農学部」のメンバーにはユーグレナ代表の出雲充さんやジーンクエスト代表の高橋祥子さん、Yahoo!の常務でメディアカンパニー長の宮澤弦さん、京都観光おもてなし大使で妙心寺の副住職の松山大耕さんなどがいます。政治学者の三浦瑠麗さんも農学部出身ですし、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去に取り組むベンチャー企業、アストロスケールを創業した岡田光信さんも農学部。
僕が思うに、農学部出身者の共通点は、あきらめが早いことです。よくいえば謙虚。なぜなら農学部で生命科学などについて学べば、人間が自然の一部にすぎず、人間が自然にかなうわけなどないと思い知ることになります。
だからといって努力をしないわけではないけれど、いったん「これはもう無理」と判断したら、無駄にジタバタしないところがある。いい意味で「人間の分際」をわきまえているところが、農学部出身者の特徴のような気がします。

農作物と組織は同じ

農作物を育てることについてもそうです。太陽と水と土の力を借りて作物をつくるわけですから、人間の力でどうにかできるのは、ほんの一部分にすぎません。
「何もしなかったけれど、奇跡が起きて豊作になった」ということはありえない。良い作物を採りたければ、まずは土をちゃんと耕して、良い土壌を育てなければならない。
これは後付けの理屈かもしれませんが、会社の組織づくりも同じことです。
コツコツと土を耕し、空気や養分を入れてやらなければ、良い土はできない。それが本当にわかっていれば、「組織づくりに労力を割かずとも、良い結果が出ることなどありえない」という結論になるはずなのです。