【佐山展生×小学生】プロのツールを使いこなし、課題解決プロセスをデザインする子どもたち

2019/9/19
 いま小学生の間で、ふしぎな環境のギャップが生まれている。
 自宅ではスマホやタブレット、スマートスピーカーなどのデジタルツールに接しているのに、学校に行けば、ノートと鉛筆で読み書きをし、どっぷり紙ベースの勉学に囲まれているのだ。
 幼いうちは紙と鉛筆を握ることは大事なのかもしれない。しかし、子どもたちの伸びやかな成長を考えたとき、本当に旧来の勉学の方法だけが最良なのだろうか。
 大人が勝手に天井を決めるのではなく、子どもが最も自由に成長するために、大人と変わらない「デジタルツール」が十全に整った環境で、自由な学びを促したら──
 そんな発想のもと、Adobe PhotoshopやIllustratorなどを提供するアドビとプログラミングスクールである「Tech Kids School」、サイバーエージェントが共同で、小学生を対象に「Kids Creator’s Studio」というプロジェクトを実施した。
プログラミング教育×クリエイティブ教育によって次世代クリエイター育成に取り組むプロジェクト
 日本を代表する経営者であり、「生涯現役」を旨に学び成長し続けることを是とする佐山展生氏に、このプロジェクトに参加した3人の小学生(1名は対談時、中学1年生)たちとの対話を通して、激動の時代に未来をつくる教育のあり方を聞いた。

デザイン、プレゼン、コミュニケーション力を駆使して創造する

佐山 こんにちは。佐山展生といいます。みなさん飛行機乗ること、たまにあるでしょ。
 スカイマークという航空会社の会長をやっててね、一時期は調子が悪くなったのを、みんなで頑張って、正確に飛ぶ航空会社(定時運航率)で日本一になったんですよ。
 いろいろ言い出したら、1時間ぐらいになるから、このぐらいにしておきますね(笑)。
佐山展生(さやま・のぶお) 1953年、京都府生まれ。洛星中高では野球漬けの毎日。現在の趣味はフルマラソンとゴルフ。モットーは「おもしろいことではなく、おもしろそうなことに挑戦する」。パソコン(NEC PC-8001)が世に出た1979年、徹夜でBASICの色々なシミュレーションモデルを創作するなど、プログラミングは好き。現在は、投資会社のインテグラル代表取締役パートナー、2年連続定期運航率日本一のスカイマーク会長としても活躍する。
佐山 まずは、みなさんがどんなことをしてきたのか、どんな作品をつくってきたのか、教えてもらえますか?
曽田 僕はプログラミングがすごく楽しいので、ほかの子にもそのおもしろさをもっと知ってもらいたい。そう思って、小学生でもプログラミングの仕方を学べるアプリをつくりました。
曽田柑(そだ・かん)小4でプログラミングソフトのScratch体験をきっかけに、プログラミングをスタート。Kids Creator’s Studioには小5で参加。プログラミングが学べるアプリやゲームソフトを開発。現在、小学6年生。将来の夢はデザイナー。
佐山 いいですね。ちなみに私は、中学と高校では、朝から晩まで野球しかやっていませんでした。みなさんがプログラミングをやったり、デザインを学んだりしている時期に、私は野球ばっかりやっていたんです。勉強もみーんな一夜漬け(笑)。
 けど、やっぱり学生時代に何か集中するっていうことは、社会に出てからも役に立つと思います。特にプログラミングなんかは、これからはみんなが知っていたほうがいい。
曽田 アプリをつくるには、プログラミングだけではなく、デザインの力も大事だとKids Creator’s Studio(KCS)で学びました。自分以外の人から見てもわかりやすくて、使いやすいものをつくることを考えて改良しました。
 いきなりプログラミングをするのではなくて、設計を先に考えるとき前は紙に手書きで設計図を書いていたのですが、Adobe XDというプロトタイピングツールを使えるようになって、速くわかりやすく設計ができるようになりました。
曽田さん作成のプレゼン用スライドの一部
澁谷 僕の場合は、生活の中で困っていることを解決するのをテーマにしていて、天気に合わせて洋服を選んでくれるアプリの改良に取り組みました。
澁谷知希(しぶや・ともき)システムエンジニアの父親の影響で幼稚園からHTMLのコードを書き始め、6歳でプログラミングスクール「Tech Kids School」のウェブコースに通い始める。Kids Creator’s Studioには小5で参加し、自身が開発した洋服提案アプリをさらにデザイン面でブラッシュアップ。現在、小学6年生。将来の夢はプログラマーかシステムエンジニア。
佐山 洋服を選ぶの、苦手なんですか。
澁谷 いつも朝、半袖がいいのか長袖がいいのか、とかがわからなくて迷ってしまうので。
 このアプリは、一度完成したものを改善したものなのですが、ポイントはデザインによる見やすさです。アイコンや画面全体をわかりやすいデザインにしたことで、ユーザーにとっても使いやすくなったと思います。
 僕はあまり人前で話すことが得意ではなかったので、プレゼンでは、プロモーションビデオをつくることで、みんなに上手く伝わるように考えました。人に伝えるやり方は、デジタルを使えばいろいろな方法が広がっていくと思います。
澁谷さん作成のプレゼン用動画
佐山 将来は何になりたいんですか。
澁谷 僕は、プログラマーかエンジニアになって、世の中に役立つものをつくりたい。自分でこんなものがあったらいいな、というのを考えて、つくりだしていきたいです。
高橋 私は勉強の暗記に役立つアプリをつくりました。中学受験で暗記の勉強をしているときに、赤シートとかを使っていたのですが、使いにくいなと感じて、自分でアプリをつくってみようと。
 カメラで教科書などを撮影して、その画像に自分が覚えたい箇所をマーカーで塗って問題をつくって、解いていきます。回答率などもデータ化して、自分の苦手分野がわかるようにしました。
高橋温(たかはし・おん)小3からプログラミングを始め、小5でKids Creator’s Studioに参加。勉強に役立つアプリを開発。現在、私立中学1年生。好きなことは陸上、ボルダリング、絵を描くこと。将来は英語を使って海外の人と仕事をしたい。
 KCSで学ぶ前までは、デザインっていうのは色とか絵とかがいろいろ入っているほうが良いと思っていましたが、色や文字の大きさや種類、配置などに重要な意味があるとわかって、人から見てわかりやすい画面をつくれるようになりました。
高橋さん作成のプレゼン用スライドの一部
 KCSではわかりやすいスライドをつくって人に伝わるようにプレゼンすることも身について、今の学校がプレゼンをする機会がたくさんある中学校なのでとても役に立っています。
 今では、積極的に知らない人に話しかけたり、外国人の同級生とも気後れせずに楽しめるようになりました。これからは、その人にとっての「困った」を解決するアプリを考えていきたいですね。
佐山 自分で課題を見つけて、それをどう解決するかを、アプリづくりを通して学んだということですね。

「おもしろそうなこと」に、一歩先の課題がある

佐山 みなさんは、最初の課題はどうやって見つけるんですか。
高橋 おじいちゃんおばあちゃんに困っていることを聞いたり、自分で使いにくいものを見つけたりとか、日常生活の中で見つけています。
曽田 僕はアクションゲームが好きなので、もっとリアルな動きができたり、VRにしたらおもしろくなるんじゃないか、というようなことを考えたりします。
佐山 身の回りから具体的にどんな課題があるか探す、ということですね。課題が見つかったら、今度はどうやって解決するアイデアを探すのですか。
曽田 パッと思いついたら、すぐにメモするようにしています。あとは、何かいいアイデアがないか、とことん考える。
佐山 メモをとるのはとてもいいですね。私もなにか悩んだことの解決策が浮かんだら、すぐにメモするようにしています。
 悩んだり、壁にぶつかったりすることは、違う世界にジャンプするきっかけです。その先に行き着くゴールは、絶対、おもしろいものが待っているはずです。

伝えたいことをきちんと伝える力

佐山 みなさんが参加したKids Creator’s Studioは、創造性を刺激してくれるという点で、学校とは全然違ったと思います。学校の勉強は楽しいですか。
高橋 実験など体験があって、物事を組み立てて考える理科は楽しいです。国語はあまり……登場人物の気持ちを考えるとかが。
澁谷 僕も国語は嫌いです。その人じゃないから、その気持ちはわからない(笑)。文章を書くのもすごく苦手。
佐山 確かにそう思う気持ちもわかります。でも、やっぱり国語力は社会に出てからも必要な力。自分の考えをまとめて相手に伝えるときに、国語力がないと100を30しか伝えられない。国語力がきちんとあれば、100を 100のまま伝えられるようになります。
澁谷 僕は、そもそも学校があまり好きじゃないんです。人がたくさんいると緊張してしまって、なんとなく気まずい。
佐山 でも、開発したアプリのプレゼンはできるんだよね。こういう場でも、私としっかりコミュニケーションしているし。
澁谷 今もちょっと緊張しています(笑)。でも、プレゼンテーションとか、初めて会う人に自分のやってきたこととか、考えていることとかを話すことは大丈夫ですね。
佐山 そういうプレゼンテーションやコミュニケーションの重要性をわかっているんだから、大丈夫。人に対して緊張するというのは、慣れの問題なので。
 例えば、澁谷さんが将来、システムエンジニアになったら、お客さんの求めていることを聞き出すとか、自分の言いたいことを伝えることとかがすごく大事になってきますよね。だからこそ、今のうちから、たくさんの人とコミュニケーションすることに慣れておくほうがいい。
 そうすると、違う世界の人とも知り合えて、新しい情報もどんどん入ってきます。そういう情報をたくさんキャッチしておけば、自分が新しく何かつくるときにすごく役立つはずです。

体験が学びをおもしろく変え、記憶に残す

曽田 僕は算数や体育が好きで、国語や社会の暗記系が苦手です。学校とKids Creator’s Studioの一番の違いは、楽しさ。
佐山 楽しいから、どんどんやる気が湧いてくるんですね。興味が湧いて、もっと知りたい、学びたいという気持ちになる。学校の勉強はそういう部分が少ない?
曽田 学校はそういうところは少ないから、勉強していて「楽しい!」という気持ちになりにくいです。
高橋 私は、もっと自分が行動したり、体験したりすることが多かったら、学校の勉強も楽しくなるのにな、と思います。実際に行動すると、学んだことが記憶にもしっかりと残っていくような気がします。
澁谷 僕はもっとひとりひとりに合わせて、学べる機会があるといいなと思っています。今みたいに、先生が黒板の前でみんなに教えるのとは違って、自分のペースで興味のあることを追求できたら、勉強がもっと楽しくなりそう。
佐山 そういうときにデジタルツールがあると、より楽しい学びになりそうですね。
曽田 勉強って、できないとつまらないけど、できると楽しくなる。僕は前まで体育が嫌いだったんです。でも、最近、急に足が速くなって、そうしたら体育がすごく楽しくなりました。
佐山 達成感ですね。ひとつできるようになって、どんどん次へとつながっていく。それが本当の学びの楽しさですね。みなさんは、自分で課題を見つけて解決するアイデアを考えるという体験をしているから、どうしたら学びが楽しくなるかが、わかっている。

社会に直結する力を学ぶ機会の必要性

プロ向けのデジタルツールを気負いなく使いこなし、身近な課題を解決するアイデアを形にする子どもたちとの対話を終えた佐山氏に、これからの時代に求められる教育のあり方について話を伺った。
佐山 みなさん、自分なりに「おもしろそうな」課題を見つけて、どんどん挑戦していましたね。ぜひそれを続けて成長していってほしいですね。
 今回、子どもたちと話して感じたのは、ひとりひとりの子どもの可能性を引き出す機会の重要性です。彼らは大人と同じデジタルツールを使いながら自分の創造性を発揮して課題の解決に取り組んでいました。
 学校教育にはさまざまな制限がある。澁谷さんが言っていた一斉授業の限界もそう。でも、今の実社会のテクノロジー環境を考えれば、本当は場所も時間も選ばずに自分が学びたいことを学べる機会があります。
 これからの子どもたちのために、まず学校現場も含めて、そういった環境を整えていかなくてはなりません。適切な環境があって始めて、子どもたちが自分で課題を見つけて、どう解決するかを考える力、つまり社会に直結する力を伸ばせるようになる。
 ペーパーテストは、効率よく正解を見つけられる能力を試すものであって、実社会ではそれだけではほとんど役に立ちません。特にこれからはさらに、暗記した知識の量ではなく、自分で考えることが何よりも大事になるはずです。

デジタルの力で可能性を広げ、体験を積み重ねる

 では、これから求められる能力を伸ばすベースとなるのは、何か。それが「好奇心」です。自分がおもしろそうと思うことに、どんどんチャレンジする。そういう姿勢を子どもたちに伝える責任が大人にはあります。
 その好奇心を広げる手段として、デジタルツールの力は大きい。デジタルを使いこなせるかどうかで、子どもたちの能力の広がりは大きく差がつくでしょう。子どもたちが話していた「いかに伝わりやすく伝えるか」というデザインの力も、デジタルを利用すれば可能性が無限大に広がります。
 今日会ったみなさんが特別なのではなく、子どもたちは全員が輝く石の原石。子ども時代にいろいろな体験をして自分を磨き、もっともっと可能性の幅を広げられる時期。
 教育現場でも、トライアル&エラーを繰り返しながら、自分が楽しいと感じることを見つける機会がたくさんあってほしいと思います。
 社会に出たとき、どんな分野に取り組むにしても、自分なりの創造性を発揮して、考えて、課題を解決する能力は絶対に必要。
 貴重な子ども時代は取り戻せないし、今しかできないことがたくさんあります。今の時代に合った体験の積み重ねの機会を提供することこそが教育の役割だと思います。
 これからの社会を生き抜く上で、自ら課題を見つけ、創造性を発揮して解決する力は必ず必要とされるもの。
 その新しい価値を生み出す子どもたちを教育する考え方が、Kids Creator’s Studioでも取り入れている「STEAM教育」だ。
STEAM教育:Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字に、Liberal Art(文理横断の幅広い基礎教育)のAを組み合わせた教育のこと
 STEAM教育の本質的な目標は、人間ならではの創造性を発揮して課題解決に取り組む力を育むこと。次世代を担う子どもたちが、新しい価値を生み出す人材になれるような教育環境が必要である。
 デジタルツールは、デジタル・ネイティブの子どもにとって「あたり前の文房具」と言えるのかもしれない。今回登場した子どもたちは、プロ向けのツールも自在に使いこなし、社会での実用に耐えうるものを自然とつくり出していた。
 子どもたちの「未来を生きる力」を育むには、教育現場で適切にデジタルを活用し、子どもたちが自分で考え、発想を形にし、可能性を広げる環境づくりが急務だろう。
(編集:中島洋一 構成:工藤千秋 撮影:加藤麻希 デザイン:黒田早希)
アドビは、次世代を担う子どもたちの創造的問題解決能力を育むための様々な取り組みを行っています。Kids Creator’s Studioのほか、2019年7月29日に教育関係者を対象に行われた「Adobe Education Forum 2019」では、未来の人材育成をサポートするSTEAM教育のあり方について、小・中・高校・大学の発達段階別での実践事例を企業や、学校、学生の立場から発表いただくとともに、高校生・大学生を対象とした実践的なワークショップを行いました。