【安陽】音声コンテンツのHIKAKINが生まれない理由

2019/9/14
今回のテーマは「音声コンテンツはバブルか?」。NewsPicks 野村高文氏、東京工業大学教授の柳瀬博一氏、Radiotalk代表の井上佳央里氏、J-WAVEの渡邉岳史氏、XimalayaJapanCEOの安陽氏、計5名をゲストに迎え、議論を交わした。
乱入ゲストとして、澤円氏設楽悠介氏明石ガクト氏の3名も加わり、日本の音声コンテンツの現状や可能性について、語り尽くした。
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番組の最後に、古坂大魔王が最も優れていた発言として選ぶ「King of Comment」は、安氏の「ありのままの時間に付加価値」に決定。
中国最大手音声プラットフォームシマラヤの傘下会社「himalaya」代表であり、2017年から、日本でも事業を始めた安氏が考える音声コンテンツの可能性とは。放送後、お話を伺った。
ユーザーの参加が足りない日本
ポッドキャストは世界70万番組を超え、スマホでラジオを聴けるRadikoのユーザー数も増加。
日本では「Voicy」など、スタートアップによる新たな音声サービスなども、広がりつつある。
しかし、現状について、安氏は「バブル前夜」ではあるが「どの企業が起爆剤となるのか、それはまだわからない」という。
 このグラフを見ると、一目瞭然だと思うのですが、たとえば日本市場で、ネットラジオやオーディオブック、ポッドキャストを利用している人は10%程度というとても小さな割合です。
日本で音声に特化したサービスは、弊社も含めてたくさんありますが、この10%の中で戦っている、というのが現状です。
バブルと呼べる状態にもっていくには、まずこの市場自体を大きくしていかないといけません。
いま音声コンテンツ市場におけるバブルというのは、企業のバブルであって、ユーザーのバブルではない、というのが問題だと思っています。
そこを打破するためにすべきなのは、まずは事業をしている企業が、別の企業とコラボをしたり、もしくは質のいいコンテンツで差別化をはかること。
試行錯誤しながら音声コンテンツの魅力をもっと広く伝えていかないといけない。
日本の音声コンテンツ市場は、まだその段階にいると思います。
音声版HIKAKINが生まれない理由
また、安氏は番組内で参加者から上がった「Voicyで有名な人、と言われても思い出せない」というコメントが印象的だったと言う。
 これは、Voicyに限らず、日本の音声コンテンツ業界全体に言えることです。
音声コンテンツをリードする人は誰ですか、と聞かれたときに、答えることができない。
もちろん、ラジオなどで人気番組などはあると思いますが、それも結局はテレビによく出る有名な人たちの番組です。
たとえば、動画でいえば、HIKAKINや、はじめしゃちょーのような代表的なスターがいます。
音声版のHIKAKINがいつ出てくるの、という点は音声コンテンツの人気には必要不可欠な部分になります。
日本の音声市場は不健康的
様々な音声コンテンツのプラットフォームはあるものの、そこからスターが誕生するには至っていない。その原因について、安氏はこう語る。
 これは体制的な問題です。たとえば、radikoが流行っていますが、権利の問題上、radikoでしか流せない音声コンテンツは非常に多い。
そして、ラジオのバックナンバーは基本的に再生できない。どれだけお金と時間をかけて質のいいコンテンツを作っても、一週間もすれば無くなってしまう。
また、音声コンテンツで最もうまく話すことができるのはアナウンサーという職業だと思いますが、ほとんどのアナウンサーは副業ができない社員です。
正直、日本の音声コンテンツの市場は、そういったあまり健康的ではない部分があります。
加えて、日本の市場では音声広告が成り立っていません。
たとえば、アメリカのSpotifyなどは1,000回再生されると30〜40ドル報酬として入るなど、ユーザーがかなり高い額の広告費用を手にすることができます。
YouTubeのように、広告費用としてちゃんとユーザーに還元されるから、ユーザーはさらに音声コンテンツに特化して活動をすることができる。いい循環があるんです。
日本で音声コンテンツは、常にユーザーはスタートアップが作った小さいプラットフォームの中で身銭を切って番組を作っています。
それでは、音声広告は成立しないし、彼らも生計を立てられない。
もちろん、我々もお金を支払いたいとは思っていますが、再生回数を稼げるクリエイターが生まれない限り、いつまでお金を払い続けることができるのか、というジレンマがあります。
クリエイターが、音声コンテンツで食べていけるように、音声コンテンツ市場の体制として、根本的な解決をする必要がある。弊社もそのモデルを探している最中です。
素人でも「年収億超え」
番組内では、中国での音声コンテンツの流行についても触れられた。
たとえば、安氏が日本代表を務める「himalaya」は、中国での登録ユーザ数は5.3億人(2019年時点)。全体の規模感からして段違いである。
 中国では、音声コンテンツの広告収入で食べていける環境が、すでに出来上がっているんです。
たとえば、中国のプラットフォームでは、ネット小説を一般人が音読してそれをアップロードすると、まずはバイト料のような形で拘束時間に料金が払われます。
加えて、書籍が売れた場合は報酬も支払われる。現在ランキングのトップにいる人は、学生時代にデビューした素人の方ですが、年収は日本円で億を超えています。
そういった実例があることで、音声コンテンツを始めると幸せになる、というガイドラインが出来上がるんですね。
日本でも少しでも早くそれを実現するために、私たちはいま頑張っています。
今年の五月の後半には初めて音声課金の事業を始めました。正直、自信はあまりなかったのですが、いざサービスを開始してみると課金してくれる人はちゃんといるんです。
日本の市場でも、自分が好きな音声コンテンツであれば、課金をしてくれる人はいるんだ、というのは僕たちにとっても希望になりましたね。
「あなた自身」が音声コンテンツに
番組内では、今後どのような音声コンテンツが流行りだすか、といった議論も交わされた。
忙しい母親のための絵本読み聞かせサービスや、官能小説の音読コンテンツなど、具体例なども挙がったが、それについて安氏はこう語る。
 みなさん、ジャンルの話をしていましたが、正直それはあまり意味がないと思います。
もし私がその質問をされたら、返すのはたった一言、「あなた自身」です。
ジャンルは関係なく、まずはユーザーがちゃんと参加してコンテンツを作ることができる、その環境が整って初めて可能性が生まれます。
日本の音声コンテンツで今誰が発信しているかというと、やっぱり話すプロや経験者が多いんですよね。
そうではなくて、素人でもプラットフォームで発信することで、名声とお金を手に入れることができた、という例ができれば、音声コンテンツも、もっと広く普及するかもしれないと思っています。
そのためにも、いまは業界のプレイヤーたちが頑張るべき時です。
9月17日は「ヤフーのZOZO買収」
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<執筆:富田七、編集:木嵜綾奈、デザイン:斉藤我空>