【自動運転】モビリティの次なる世界

2019/11/21
去る9月17日、日産自動車の「顔」とも言えるスカイラインの新型車が発売された。
本記事では、新型車に搭載された運転支援システム「プロパイロット 2.0」を、モータージャーナリストの塩見智氏がひもとく。

渋滞も苦でなくなる?

「プロパイロット 2.0」とは、カーナビと連動しながら車線変更などの操作をサポートする運転操作支援システムのことで、2016年から実用化されている「プロパイロット」の進化版だ。
この新技術は、設定車速内で先行車と距離を保ち、車線内の中央付近を維持する従来の操作支援に加え、目的地が設定されたルート上の高速道路において、前方に遅い車両がいたり、高速出口や分岐に差し掛かったりする際に、車線変更が提案され、これに応えることで、自動操舵(そうだ)での車線変更を実現している。
さらに、一定の条件下においては、ハンドルから手を離す“ハンズオフ”での走行も可能とした。
──運転支援システム「プロパイロット」の進化について、技術的な注目点を挙げるならどのあたりですか。
「プロパイロット」が2016年にセレナに初めて搭載された当時は、車線中央維持機能というのが新しかったのです。それまで車線逸脱を防止する車はありましたけど、車を車線内中央に維持してくれるのは珍しかった。
逸脱防止と中央維持は、乗ってみると感覚的に全然違うものです。逸脱しかけてから戻されるのでは車体が落ち着かず安心できないのですが、車線内中央を維持し続けてフラフラしないのは、長距離運転や渋滞中にすごく快適なんですね。これらを現行の「プロパイロット」で実現しています。
それに加えて「プロパイロット 2.0」においては、高速道路走行中、一定の条件下で手を離すことができるというのは大きいと思います。

一定条件下での「ハンズオフ」走行

初めて運転中に両手を離すという体験をして興奮しました。「プロパイロット 2.0」を作動させて高速道路を走行中、3D高精度地図データが整備された区間に差し掛かると(条件はほかにもあり)、それまで緑だった表示が青に変わり、それがハンズオフ、つまり手を離してもよいという合図です。
表示を確認し、恐る恐る手を離すと、道路の曲率に沿ってステアリングが自動的に微調整されていくのです。操作は正確かつ滑らかであり、最初からドライバーに安心感を与えてくれましたね。
また、日産独自の技術として、ナビ連動ルート走行機能というものが備わります。今までの先進運転支援技術っていうのは「運転の支援」なので、目的地を設定するかどうかは直接的には関係なかった。
ですが「プロパイロット 2.0」は初めて、運転操作そのもののアシストに加え、目的地へ向かうためのアシストもしてくれるわけです。
目的地へ向かうのに必要な高速道路上の分岐、車線変更などを提案してくれるほか、前方に遅い車がいるときには追い越しを提案してくれ、ボタンを押して承認すれば、車線変更してくれます。

特徴的な「3つの技術」

これら「プロパイロット 2.0」の特徴的な機能を支えているのが、3つの大きな技術です。
まずは、「3D高精度地図データ」。これは日本全国の高速道路の形状をcm単位でデータ化したもので、分岐や出口、白線や黄線、速度標識などはもちろんのこと、道路の起伏まで含まれます。
そしてこれに組み合わされるのが、「360°センシング」。同車には7個のカメラと5個のレーダー、12個のソナーが搭載されており、車両の周囲360度を検知し、車両状況を常時正確に把握しています。
さらに、「インテリジェントインターフェース」も採用されました。
これは、ヘッドアップディスプレイ、アドバンスドドライブアシストディスプレイに加え、ドライバーモニターを搭載したことで、よりわかりやすく、リアルタイムで状況を伝達するほか、前方注視の常時確認も可能です。
──技術的にもいくつかのトピックが組み合わされているのですね。
「プロパイロット 2.0」が日産の先進技術の結晶であるように、運転支援システムというのは最先端技術を総動員する必要があります。
日産は20年以上にわたって安全装備、運転支援システムの開発をしてきて、革新的な技術を次々に投入してきました。そのノウハウの蓄積があるからこそ、ハンズオフが実現できるほどの性能を備えた「プロパイロット 2.0」を実現できたのではないでしょうか。
また、スカイラインならではの特徴として、ドライバーのステアリング操作がシャフトなどを通じてタイヤに伝わり、タイヤの向きが変わるのではなく、操作が電気信号に置き換えられ、その信号がタイヤの向きを変えるDAS(ダイレクトアダプティブステアリング)というのがあります。
これは上質なステアリングフィールを生み出す目的の技術ですが、「プロパイロット 2.0」作動時の滑らかな運転支援にも大いに貢献しています。積極的に走らせて気持ちよい車は、運転支援を作動させても気持ちよい車だということを、今回試乗して感じました。
──今後の「自動運転」実用化のめどや展望について教えてください。
到達可能かどうか未知数の「無人運転」というゴールに対し、現状はまだまだ遠く至っていません。
約130年におよぶ自動車の歴史において100年以上は人の手による運転が続き、運転支援に関しては、ここ15年程度で加速的に進化しました。
ただ、これ以降の自動運転の実現は、自動車メーカーだけでなく、インフラの整備なども必要になってきます。
日産自動車グローバル本社には、日産を代表する歴代の車種が並ぶ。

日本人に自信を持たせるクルマ

──今回の「プロパイロット 2.0」が、日産の「顔」ともいえるスカイラインに搭載されることの意義に関してはどう思われますか?
看板車種に看板技術を採用するわけですから、日産としての自信の表れを感じます。スカイラインは60年以上も日本人に親しまれ、憧れられてきた存在ですからね。
長らくモータースポーツといえば海外で行われるものだったのが、1960年代に入って日本でもレースが行われるようになりました。そこで活躍した日本車の筆頭格がスカイラインです。
なかでも第2回日本グランプリで、圧倒的に速かった外国車と短時間ながらデッドヒートを繰り広げたことがあるのですが、当時、外国車と競うことができる日本車があるとはだれも思っていませんでしたから、皆それはもう歓喜したわけです。
イチローがメジャーで活躍したような感じでしょうか。
つまり日本人に自信を持たせてくれる車だったわけです。だからこそ日産もスカイラインをいつの時代も第一級のスポーティーセダンとして存在させてきました。
令和のスカイラインは先進性でも日本をリードする存在になるでしょう。
「こちらのスカイラインは、通称“ケンメリ”。タイヤを囲むフェンダー部分がぶっといのが特徴です」
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7月16日、日産自動車は今年9月に発売する新型スカイラインの概要を発表した。日産を代表するモデルに、最新の運転支援技術が採用されるということで、会場は多くの報道陣で埋め尽くされた。
この日登壇した日産エキサイトメント・アンバサダーの太田雄貴氏(日本フェンシング協会会長)は、すでに試乗を済ませており、その感想を「驚きと感動で本当に“すごい”としか言葉が出ませんでした」と述べた。
写真左から、日産エキサイトメント・アンバサダーの太田雄貴氏、日産副社長の星野朝子氏、中畔邦雄氏。
62年もの長きにわたって販売されてきたスカイラインが新たな一歩を踏み出すにあたり、その強力な武器となるのが「プロパイロット 2.0」だが、NissanConnectという新サービスもこの新型スカイラインから始まる。
塩見氏は「車内でWi-Fiに接続したり、通信でカーナビの地図を更新したり、家族が使用中のクルマの状況がスマホを通じて把握できたりするのは、高齢者や若者にクルマを貸し出す際などの安心材料となるでしょう」と考察する。
さらに従来型の「INFINITI(インフィニティ)」エンブレムが、「NISSAN」へと変更されていることにも、同社の自信が表れている。
自動運転へ向けた最新技術が伝統とコラボされ、日本が誇るスポーツセダンであるスカイラインにも新たな風が吹くだろう。
(取材・執筆:安藤修也、編集:川口あい、撮影:木村博道、デザイン:堤香菜)