【新】香港のアングラ経済を支える「信用」の正体

2019/9/10
香港の中心部にそびえる「重慶大厦(チョンキンマンション)」。安宿と飲食店、格安ショップがひしめく、1961年完成の老朽化が進む巨大ビル群だ。
このチョンキンマンションには、東アフリカのタンザニアから香港へと商売のためにやってきたタンザニア人のコミュニティが広がる。
文化人類学者の小川さやか・立命館大学教授はこのタンザニア人コミュニティに潜入し、移民たちが紡ぐネットワークを丹念に追いかけた。その日々をつづった『チョンキンマンションのボスは知っている: アングラ経済の人類学』(春秋社)が話題だ。
1万キロ以上離れたタンザニアと香港を行き来しながら合法・非合法の商売をたくましく繰り広げるタンザニア人コミュニティ。そこには日本の「閉塞感」を打破するヒントがあった。

150人のタンザニア人の正体

──「チョンキンマンション」はどんなところですか?
小川 チョンキンマンションは、ネイザンロードという香港の目抜き通りにあり、1階から2階は商業施設、3階以上は安宿が並ぶ、巨大なビルです。
香港はものすごく部屋代やホテル代が高いんです。中心部では1DKで月28万円くらいします。その中で、チョンキンマンションの家賃は1カ月で7万円とか8万円くらいです。
元々は普通のマンションだったのですが、南アジア系の住民が増えて香港人が流出し、次々と安宿に改装されました。そしてアジア、アフリカ、中東のあらゆる地域から、インフォーマルな、いわゆる「アングラ経済」の人たちが集まる場所になっていったのです。
その「アングラ経済」の流通や送金のシステムなど、実態を探るために、住み込みで調査しました。
小川さやか
1978年愛知県生まれ。2000年に信州大学人文学部 人間情報学科卒業。タンザニアの零細商人の商慣行や共同性、路上暴動などについて研究し、自らもタンザニアで露天商として働いた経験を持つ。2019年より立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。
──香港のインフォーマル経済とは、どんなものなのでしょう。